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「らぁ麺 やまぐち」10周年! 激動の2013年“やまぐちイヤー”は清湯ラーメンブームの転換期だった

井手隊長ラーメンライター/ミュージシャン

2013年1月に東京・高田馬場にオープンした「らぁ麺 やまぐち」が今年1月で10周年を迎えた。1月8日に10周年イベントが行われ、その日には店の前には100人の行列ができた。

学生街・高田馬場でオープンした「やまぐち」。オープン当時は学生のカップルだった二人が、10年の時を経て“夫婦”として食べに来てくれたという。

10周年を迎えた「らぁ麺 やまぐち」
10周年を迎えた「らぁ麺 やまぐち」

「やまぐち」のオープンした2013年は「しば田」「トイ・ボックス」「すぎ本」「四つ葉」など近年稀に見る新店の豊作年だった。その中でも、先陣を切って人気店となった「やまぐち」の名を取って、この年を「やまぐちイヤー」と称するラーメンファンもいる。

「やまぐちイヤー」から10年。2013年はどんな年だったのか? そして、この激動の10年を山口店主に振り返ってもらった。

「2013年の頃は濃厚系が全盛でした。魚介豚骨のブームが終わりかけていて、鶏白湯や二郎系が増えてきた頃でした。高田馬場も完全にこってり系が多かったですが、その中で清湯で勝負することは初めから決めていました。自信はあまりありませんでしたが、いつかはみんな醤油に戻ってくるはずだと信じて、変化球なしに勝負しました」(山口さん)

福島県会津若松市出身の山口店主は、地元・福島の「白河ラーメン」が大好きで、その鶏と醤油を突き詰めて作る姿勢に惹かれ、自分のラーメンを作り上げた。オープン当初は鶏ベースと鰹ベースの二枚看板だったが、特に鶏ベースの「鶏そば」の人気が過熱したことで、2016年にメニューを鶏に一本化した。

特製鶏そば
特製鶏そば

「白河の『とら食堂』の突き詰め方が好きで、鶏と醤油に集中して突き詰めていきました。白河ラーメンは当時は一般的にはマイナーだったかもしれませんが、いかにもラーメン!という香りが本当に好きで、10年間鶏と格闘してきた思い出です」(山口さん)

鶏清湯ブームの火付け役に

相模原市にあった「69'N'ROLL ONE」を皮切りに、「やまぐち」のブレイクでラーメン界に“鶏清湯”の大ブームが起きた。

山口さんの中にはオープン前からもともとイメージがあり、ただあっさりしているだけではなく、あっさりの中に力強さがあるラーメンを目指していた。当時は丸鶏をガンガン使う店もそれほどなく、さらにスープの仕上げに手羽を加える「追い手羽」をして重ねてダシの厚みを出す手法には激震が走った。

「ラーメンらしさ」が大事だと語る山口さん
「ラーメンらしさ」が大事だと語る山口さん

「うちのラーメンのポイントは綺麗にし過ぎないことです。鶏清湯だとどうしてもカッコよく仕上げたくなります。そうではなくて、少し雑味を残すことでわざとスープを濁らせてラーメンらしく仕上げています。麺も少し太くして咀嚼感を残し、食べた後の満足感を意識して作っています」(山口さん)

年末には業界最高権威とも言われる「TRY新人大賞」を受賞した。翌年末には『ミシュランガイド東京』のビブグルマンを獲得し、その後は6年連続で掲載された。鶏清湯のブームも最高潮にヒートアップし、「やまぐち」はほかのお店に真似される側になった。

「うちに見た目がそっくりなラーメン店がたくさん現れ、はじめはイラっとしていた時期もありますが、自分も真似される側になったんだと考えるようにしました。

どちらにしても見た目だけじゃ同じものは作れない。業務用のスープが進化したことでパクリは作りやすくなっていますが、逆にそこにも真似されないようなものを作ろうとモチベーションを上げていったんです」(山口さん)

山口さんはそもそも清湯がブームになることに驚きをおぼえていた。店をオープンする頃も、これほどの大ブレイクを狙っていたということではなく、自分が食べていければいいぐらいに考えていたので、あまりの反響にびっくりしたという。

会社を売却し、「職人」の道へ

『ミシュランガイド東京』に掲載された後は、外国人観光客のお客さんも増え、インバウンド需要が過熱していった。しかし、新型コロナウイルスの影響で一気に客足が落ちる。創業当時から全くスランプがなかった山口さんにとっては大きな壁となった。

「外国人観光客どころか、街に人がいなくなり、それでも食べに来てくれる常連さんのありがたさを知りました。『来たくても並びすぎて来られなかったよ』と言われました。

お店を存続させるために色々ともがきましたが、このコロナ禍で自分は経営には向かないと判断したんです」(山口さん)

店主の山口裕史さん
店主の山口裕史さん

2021年4月、山口さんは会社の全株式を売却し、「焼きあご塩らー麺 たかはし」を運営する株式会社ヒカリッチアソシエイツの傘下となる。このニュースは業界でも衝撃となり、「やまぐち」がチェーン店になるのではという噂も上がった。

自分は経営者ではなく職人なんだということに気付いたのです。

今までずっと個人競技で生きてきましたが、店を大きくするのは団体競技。3店舗まで増やした時点で、このまま職人を続けるか社長として経営の道に進むか悩みました。

結果、経営を高橋さん(ヒカリッチアソシエイツ 代表取締役)にお願いすることにしました。経営から退くことで味に集中できる環境を作ることにしたのです」(山口さん)

山口さんはここから店づくりの勉強を始める。「たかはし」の多店舗運営を見ていると、「やまぐち」とは全く違うやり方をしていることに驚いた。高橋社長からは「やまぐち」だけは突き抜けていってほしいと言われ、「やまぐち」の味づくりについては自由にやらせてもらえていることにも感謝しているそうだ。

「これからは個人店にもチェーン店にも真似できない新しい形態を模索してみたいと思っています。難しい工程を省かずとも、スタッフの再現性が高くなるようなレシピは作れると考えています。今までにない新たなブランド作りができたらなと思っています」(山口さん)

「やまぐち」のラーメンの美味しさを突き詰めながら、グループ内で新たなトライもしていく。ラーメン職人としての山口さんの腕が、この後の10年でさらに日本中を楽しませてくれるに違いない。

※写真はすべて筆者による撮影

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ラーメンライター/ミュージシャン

全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。東洋経済オンライン、AERA dot.など連載のほか、テレビ番組出演・監修、コンテスト審査員、イベントMCなどで活躍中。 自身のインターネット番組、ブログ、Twitter、Facebookなどでも定期的にラーメン情報を発信。ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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