デニーズの担々麺が専門店並に美味しくなった理由 ~担々麺を4種類に分類して徹底研究~

ファミリーレストラン「デニーズ」
ファミリーレストラン「デニーズ」

ある日、昼食にファミリーレストラン「デニーズ」に入った。

メニューを見ると、あるメニューが目に飛び込んできた。担々麺である。

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デニーズの担々麺は今まで気にしたことはなかったが、メニューの写真が大変美味しそうで、写真の横を見ると「飯田商店店主も認めた一杯」とある。そういえばテレビで店主が紹介していたのを見た記憶があった。

尚更気になって、試しに注文してみた。

胡麻香る四川風担々麺
胡麻香る四川風担々麺

スープを一口飲むとその美味しさが一瞬でわかった。今までファミレスのラーメンでは味わったことのない複雑な旨味なのである。

濃厚なゴマの旨味と香りが口いっぱいに広がり、醤油の旨さが奥行きを与えている。辛い肉味噌がだんだんとスープに溶け出し、程よい辛味と中毒感を演出する。

単調な味では全くなく、実に複合的な旨味で驚いた。ファミレスレベルを完全に超えた一品なのである。

驚きのあまり、思わず「飯田商店」飯田店主にメールをしてしまった。返事はこうだった。

「ファミレスなのにすごいなぁと思います。特に香りの面。オペレーションの制約がある中で、再現性が素晴らしいと思います。

専門店ではないお店が、専門店の要素をどんどん取り入れますよね。ラーメン屋もうかうかしてられませんよ!」

一流ラーメン店の店主にこう言わしめるデニーズの担々麺。果たしてどのように作っているのか。

その秘密が大変気になり、デニーズを運営する株式会社セブン&アイ・フードシステムズに取材に伺った。

デニーズの担々麺は1988年にメニュー化して以来、売れ行きに合わせてメニューに入ったり外れたりを繰り返していた。

人気が定着してきたのは2015年頃から。オペレーションの面からラーメンのメニューを絞ることになった時、担々麺だけを残して他のすべてのラーメンがメニューから姿を消した

その頃にはデニーズの担々麺にはファンがついていて、一番の人気ラーメンメニューになっていたのである。

その後、何度か改良を行ったが大きな味の変更はないまま、提供を行ってきた。

安定した売り上げを誇り、ファンも多い人気メニューではあったが、19年に麺メニューの担当に就任した兼田敏宏氏はこの担々麺に疑問符を灯していた。

「デニーズの担々麺は美味しいが、味が単調で本格感がない。これをより専門店っぽく改良すれば、さらにファンが増えるはずだ」

そう思った兼田氏は有名店の担々麺を片っ端から調査し、それをチャートにまとめていった。その中で見えてきた担々麺の美味しさのポイントは、「ゴマ感」と「醤油のキレ」だという結論に行き着いた。

日本には様々な担々麺があるが、この2点を縦軸と横軸にして分類していくことで、担々麺は4つの種類に分けられる。

1. ゴマ感・醤油感ともに強く、味にパワーがあるもの

2. ゴマ感は下支え程度で、醤油感が強いもの

3. ゴマ感がメインで、醤油感は控えめなもの

4. ゴマ感も醤油感も抑えめなバランスタイプ

「蒙古タンメン 中本」のブレイクなどにより辛い麺がここ数年でブーム化し、担々麺専門店もそれに合わせて増えてきているが、今の流行りの担々麺は上記の2に分類されると兼田氏は言う。ゴマよりもむしろ花椒(ホアジャオ)が効いていて、辛さと痺れを演出するものだ。辛さと痺れを数段階から選べるお店はこのタイプが多い。中毒性も高く、インパクトもある。

そして、3は老舗の一部や中堅クラス店に多いという。ゴマの旨味メインで辛さが少なめの担々麺である。

4はデニーズが従来から提供していたような担々麺だ。

兼田氏は、数々の担々麺を研究した結果、デニーズの担々麺は1に分類されるものにリニューアルすべきだと考えた。

1は老舗の高級中華料理店の担々麺に見られる、濃厚さも味のインパクトも強いもの。辛すぎないので食べ手も選ばないし、中毒性も高い。

流行系の2も考えたが、辛さと痺れが強すぎるものは食べ手を選ぶ。様々なお客さんを相手にするファミレスでは1に照準を絞るのが正解だろうと考えた。

ベンチマークする担々麺は決まったが、問題は高級店の味をファミレスでどう再現するかだ。兼田氏はまたも試行錯誤を重ねた。

まずはスープの問題だ。各店でスープを取るのはオペレーション的に難しいのと、味のブレが出る恐れがある。

そういうわけで、デニーズではラーメン専用のスープをもつことができない。

旨味やダシ感はタレの中に注ぎ込み、それをお湯で割って美味しく完成する形に開発しなければならないのだ。

そして、ゴマ(芝麻醤)のコクをどう出すかだ。

従来の担々麺もそれなりに芝麻醤を使っていたが、醤油ダレと事前に合わせた状態でお店に納品していたので、ゴマの風味が失われ、濃度もそこまで出せなかった。

これを解決するために、兼田氏は芝麻醤と醤油ダレをセパレートにした。

上が従来のタレ。下が芝麻醤と醤油ダレをセパレートにしたもの。違いは一目瞭然だ。
上が従来のタレ。下が芝麻醤と醤油ダレをセパレートにしたもの。違いは一目瞭然だ。

別々の袋に入れてお店に納品することで、芝麻醤と醤油ダレが丼で初めて一緒になる。こうすると、それぞれの風味や旨味が残り、格段に美味しくなるのだ。こうして、狙ったゴマ感だけでなく、醤油のキレも演出でき、専用のスープがなくても十分旨味の強いインパクトのあるスープが出来上がった。

従来の担々麺と実際食べ比べてみると、その味の違いは一目瞭然だった。

芝麻醤と醤油ダレを分けるというそのひと手間でこれだけ美味しくなるのかと驚いた。

上が従来のもので、下が現在のもの。見た目からも本格感が出ているのがわかるだろう。
上が従来のもので、下が現在のもの。見た目からも本格感が出ているのがわかるだろう。

「原価も上がるし、オペレーションも1工程増えるので、反対の声は上がりましたが、いざ提供が始まると大変ご好評をいただいています。全メニューの中でベスト10に入るほどの人気です」(販売促進部 諏訪美紀子氏)

来店すると必ず担々麺を注文する“メニュー常連”も出てきているようで、人気はうなぎ上りだという。

「ファミレスのオペレーションの制約の中で、専門店の味をどうメニューに落とし込むか。そのままの食材、調理法は取り入れられなくても、何か置き換えられるものはないかをまず考えます。“変換力”が大切なんですね」(兼田氏)

ファミレスも常に美味しい味を求め、メニューを日々ブラッシュアップしている。専門店とやり方は違うものの、目指すものは同じだ。

「たかがファミレス」と高を括ってはいけない。「飯田商店」飯田店主の言う通り、ラーメン店もうかうかしていられないかもしれない。

※写真はすべて筆者による撮影