なぜ日経はセブン&アイの4年前と同じ件を今また報じるのか
2023年4月3日付の日本経済新聞に「セブン&アイ、食品ロス削減へ納品期限緩和 中小波及も」という記事が掲載された(1)。
何か既視感があると思って検索したところ、4年前の2019年7月5日付日本経済新聞に「セブン&アイ、全加工食品で納品期限を緩和 まずはカップ麺」という記事があった(2)。
え?納品期限の緩和なんて、2019年にもう終わった件じゃないの?
4年がかりで緩和を終えた、ということかと思ったが、記事には
と、これから始まるように書いてある。4年前の2019年に「納品期限を緩和する」件は終わっていたと思いきや、どうやら今まで全部は受け入れていなかったらしい。2019年の記事には「計約2万1440店」と書いてあるので、コンビニ・スーパー全店舗でやっていたわけではないようだ。
3分の1ルールの「納品期限」と「販売期限」とは
食品業界の「3分の1ルール」は、賞味期間全体を3分の1ずつ均等に分け、最初の3分の1を「納品期限」、次の3分の1を「販売期限」とするものだ。
たとえば賞味期間が6ヶ月のものであれば、製造してから2ヶ月で納品期限が切れ、その次の2ヶ月で販売期限が切れる。まだ賞味期限が2ヶ月以上残っていたとしても、納品できない、あるいは商品棚から撤去される。そこで、納品期限を3分の1から、米国並みの2分の1に延ばすということが2012年から全国で取り組まれてきた。
今回の件が新たな取り組みでニュースバリューが大きいなら、他の全国紙も報じているだろう。
だが、2023年3月1日から4月5日までの間で、「セブン&アイ」「納品期限」で検索したところ、他の全国紙4紙はどこも報じていないようだ(3)。
しかも、セブン&アイ・ホールディングスのニュース欄を検索しても、出てこない(4)。
ただし、4年前までさかのぼれば、2019年7月5日にプレスリリース『「納品期限緩和」により食品ロス削減 常温加工食品”全カテゴリー”の納品期限を緩和』と出てくる(5)。
4年前の同じことを、また今、報じたということか。
2012年には納品期限緩和の実証実験で効果を確認済み
今回の記事では「対象は賞味期限が6ヶ月以上ある、常温保存できる加工食品全て」が対象だと書いてある。だが、2019年の記事では、
とあり、すでにこの時点で、賞味期限6ヶ月以上の常温保存可能な加工食品で納品期限を緩和していたはずだ。
さらにさかのぼれば、11年前の2012年9月29日付の読売新聞東京版夕刊で、
としている(6)。この時から、納品期限を緩めれば(長くすれば)食品ロスが減ることは把握していたはずだ。
同じく読売新聞、2012年10月28日付東京版朝刊(7)では、
とある。
つまり、2012年当時から、セブン&アイ・ホールディングが傘下に持つイトーヨーカ堂では、3分の1ルールの緩和、すなわち納品期限の緩和に着手しているはずなのだ。
なぜ今さら報じるのか。
2023年4月3日の日経記事では
と書いてある。
いやいや、納品期限の緩和なんて、11年前の2012年からとっくに始まっている。しかも、国とワーキングチームに一緒に入って2012年当時から取り組んでいたのはセブン&アイ・ホールディングスの傘下にあるイトーヨーカ堂だ。
今回の記事の見出しに「中小波及」と書いてあるが、波及するなら、2019年7月5日にプレスリリースを出した時点で、すでに波及しているのではないか。さらに言うなら、食品業界で食品ロス問題に携わる人間なら、2012年から納品期限の緩和なんて知っている。
実際、農林水産省も、納品期限を緩和する事業者が増えていることを、昨年の段階に公式サイトで発表している。
日経は何度もこのことを報じている。なのに、なぜ自社の記者が過去記事を検索しないのか。
事業系の食品ロスの要因は、納品期限だけではない。ほかにも販売期限や、メーカーに欠品を禁じるルール、日付後退品の納品拒否、不当な返品など、複数ある。納品期限を3分の1から2分の1に緩めただけで進むものではない。
2012年から、農林水産省や流通経済研究所、そして食品業界がワーキングチームを作って、3分の1ルールの緩和に動いてきたからこそ、2012年当時は年間1,200億円ものロスが生じていたのが、今では400億円台まで削減できたわけだ。今さら、ではない。今まで11年以上かけて取り組んできたからこその実績だ。
そもそも、この食品ロスを生み出す3分の1ルールを1990年代に作ったのはイトーヨーカ堂であることを、日経系列の日経MJ(日経流通新聞)が2012年11月9日付の1面で報じている。
11年前に始まった納品期限の緩和。11年も経って、まだ終わっていなかったのか。
筆者はルール緩和が始まった2012年10月当時、食品企業を辞めてフードバンクの広報責任者を担当していたので、よく記憶している。複数のメディアが同時に取材にやってきた。
今さら感が否めないセブン&アイの取り組みを何度も報じる日経。セブン&アイ傘下にあるセブン-イレブン・ジャパンをはじめとした大手コンビニエンスストアは、2020年9月2日に公正取引委員会が発表した調査結果で、1店舗あたり年間468万円分(中央値)の食料を廃棄しているとしている(8)。
この調査結果は3年前だが、直近で、関係者が提供した2022年12月現在のデータによれば、年間468万円どころか、それ以上の金額を廃棄しているとしている(9)。それだけ捨てておいて、11年前から着手した納品期限の緩和がまだ終了していないのに、「うちの会社は食品ロス削減をやっています」アピールするのはSDGsウォッシュではないのか。
あるメディアの方は、「トヨタとセブンには斬り込めない」と語っていた。巨額な広告費を受け取っているからだ、と。
忖度した記事を書いて、それでマスメディアの役割を果たしているといえるのか。
参考記事
1)セブン&アイ、食品ロス削減へ納品期限緩和 中小波及も(吉田啓悟、日本経済新聞社、2023.4.3)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC283BK0Y3A320C2000000/
2)セブン&アイ、全加工食品で納品期限を緩和 まずはカップ麺(日本経済新聞、2019.7.5)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47017120V00C19A7HE6A00/
3)G-search
https://g-search.or.jp
https://www.7andi.com/index.html
5)プレスリリース『「納品期限緩和」により食品ロス削減 常温加工食品”全カテゴリー”の納品期限を緩和』(セブン&アイ・ホールディングス、2019.7.5)
https://www.7andi.com/company/news/release/20190705.html
6)食品鮮度ルール緩和 賞味期限前の大量廃棄防げ 関連企業近く検討会(読売新聞 東京夕刊1面、2012.9.29)
7)「スキャナー」カギは消費者意識 食品ロス削減へ 鮮度ルール緩和(読売新聞東京朝刊、2012.10.28日)
8)コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査について(公正取引委員会、2020.9.2)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/sep/200902_1.html
9)【内部告発】セブンが隠したい食品ロスの実態、SDGsウォッシュを賞賛するマスコミの機能不全(パル通信104号、2023.4.4)
https://iderumi.theletter.jp/posts/226d45e0-d25e-11ed-9f42-cb558f5a95e4