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「生ごみ出しま宣言袋」を無償配布する自治体とは?生ごみ処理機1300回使った結果

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

日本では、一般廃棄物の処理費に年間2兆1,290億円を使っている。これを減らすために肝となるのが、重量の80%以上が水分である「生ごみ」だ。

筆者は、生ごみを減らすため、2017年6月16日から2022年10月8日までの5年3ヶ月、家庭用生ごみ処理機(1)を1300回使い(現在も使用中)、処理機にかける前と後の生ごみ重量と減少率を測定した。使った生ごみ処理機は、ドライヤーのように、スイッチを押すと熱風が出て生ごみを乾かすというものである。使う電力としては、有限な地下資源である石油由来の電力ではなく、再生可能エネルギー(2)を利用した。

下のグラフは、計測100回ごとの平均値のうち、生ごみ処理機で乾燥させることにより減らすことのできた生ごみの割合(%)をオレンジで示している。乾燥後に残った量の割合(%)については水色で示している。600回以降で生ごみ処理機の機種変更をしているのと、乾燥しやすいような工夫をしたため、減少率が、より高くなっている。

筆者が計測したデータに基づきYahoo!JAPAN制作
筆者が計測したデータに基づきYahoo!JAPAN制作

また、数値については下の表に示している。600回以前は50%台だった減少率が、600回以降は70〜80%台に上昇している。

筆者の計測データを基にYahoo!JAPAN制作
筆者の計測データを基にYahoo!JAPAN制作

家庭で生ごみを乾かすメリットとは

畑や庭がある家なら、生ごみを直接、庭や畑に撒いて、コンポスト(堆肥)にすることができる。だが、マンションやアパートなどの集合住宅のような、庭のない住戸だと、庭に撒くことはできない。環境に詳しい人の間では以前から知られているコンポスト「キエーロ」(3)は、神奈川県葉山在住の松本信夫さんが考案したもので、小さいタイプはベランダにも置くことができる。最近では「LFCコンポスト」(4)のように、バッグ式で、部屋の片隅に置けるタイプのものもある。

堆肥が必要ない場合、生ごみを乾かして捨てるだけでも、ごみ処理のエネルギーやコストの負担は激減する。なぜなら、冒頭で述べた通り、生ごみ重量のうち、80%以上は水分だからだ。水分がそれだけ多ければ燃えにくく、焼却処分するには多くのエネルギーとコストを必要とする。

家庭の場合、生ごみを乾かすメリットは複数ある。

1、ごみ出し回数が減る

2、臭いがしない

3、コバエ(小蝿)が来ない

4、ごみ袋の購入が減る

5、ごみ焼却に使われる税金が減る

筆者考案の内容を基にYahoo!JAPAN制作
筆者考案の内容を基にYahoo!JAPAN制作

5については関係なさそうに見えるが、市区町村に納めた税金は、家計のお金のやりくりと一緒で、限られた財源をたくさんの用途に振り分けている。貴重な税金が、水分の多い生ごみ焼却に使われるのではなく、そのほかの用途(福祉、医療、教育など)に使われる可能性が高まる。

ごみ処理費の削減に腐心している自治体としても、家庭の生ごみは減らしたい。だからこそ、家庭用生ごみ処理機に対しては、全国の自治体のうち60%以上が助成金制度を設けている。筆者が把握している最も上限を高く設定している自治体は、和歌山県橋本市で、処理機器購入額(消費税含む)の3/5の額(上限6万円)まで助成金が出る。

一般ごみ処理費は2兆1,290億円

2022年3月29日、環境省が発表した、一般廃棄物の処理費用は、年間で2兆1,290億円にのぼる(5)。

昨今では、物価高が報じられることが多い。今より収入を倍増させるのは難しいが、無駄に費やしているコストを見直せば、実質的な利益は増えることになる。

京都市のデータによれば、燃やすごみのうち、40.2%が生ごみ(食品ロスを含む食品由来)である(6)。

京都市の生ごみデータより
京都市の生ごみデータより

環境省の発表しているコストは、施設の維持費なども含まれるため、単純計算はできないが、仮に2兆1,290億円の40%が食品ロス含めた生ごみだと仮定すれば、実に8,516億円が生ごみ処理に使われていることになる。水分の多い生ごみを減らすだけで、8,500億円を減らすことができる可能性がある。

2007年に厳しく指摘していた上勝町長の笠松和市氏

徳島県上勝町は、日本で初めてゼロウェイスト(ごみゼロ)宣言をおこなった自治体だ。2003年、宣言当時に町長だった笠松和市氏は、2007年11月29日に神奈川県平塚市で開催された講演会「究極のごみゼロ社会を目指して」(7)で次のように、日本の廃棄物行政を痛烈に批判している。

「ごみに関する現行の法律の問題点は何かと言うと、私は明快に悪法と呼んでいますが、廃棄物処理対策なんです。日本という国には目標がないと先ほど言いましたが、経済対策とか、雇用緊急対策、児童虐待防止対策と、みんな問題が出てきてからの目先の対策なんですね。現行法では、2兆円の税金を使って、資源を(ごみ焼却施設で)一瞬にして無くして、大気、土壌、水を汚染し、地球の温暖化を進めているんです。地球環境のためにしてはならないことを、莫大な税金を使ってやっている。ここに、発想の転換がいるんではないかと私は思います。(中略)今のような法律のままだと、税金を使って資源の浪費や大気汚染を推し進める結果、取り返しのつかないツケが将来に残るようになってしまいます」

2007年といえば、今から15年も前だ。その後、2011年に笠松氏が株式会社スコープの田中氏に相談し、クラフトビールの量り売りなどを行うRISE & WINが2015年5月30日に開店(8)。他にもゼロ・ウェイストアカデミーの尽力などもあり、上勝町は、全国から視察が止まないほどの自治体になっていった。

ちなみに上勝町では、家庭から出るごみは45分別しており、生ごみは自分の家で処理するよう、家庭用生ごみ処理機が設置されている。処理機自体の価格はおよそ5万円で、うち、自己負担は1万円。1日数十円の処理費で済む(9)。ごみ回収車は廻っておらず、特別な場合を除き、住民自身がごみを分別所まで持ってくる(10)。

「生ごみ出しま宣言袋」を2023年4月1日から無償配布する鳥取県大山町

上勝町が、町としては生ごみを回収せず、住民にその処理をゆだねているのは大きい。重量の80%以上が水分の生ごみを行政が処理するとなると、それだけ、エネルギーやコストが莫大にかかるからだ。

環境配慮の原則「3R(スリーアール)」の観点からは、Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)が最優先である。つまり、生ごみは、出さないのが、最も資源とコストの節約になり、持続可能な社会につながるのだ。

鳥取県大山町は、生ごみを自分の家で処理することにより、生ごみの減量化・再資源化を推進するため、令和5年度(2023年4月1日)から「生ごみ出しま宣言袋」(生ごみ以外の可燃ごみ専用袋)を無償配布すると発表した(11)。受付は今月10月1日から始まっており、実際の運用は2023年4月1日からとなる。

長野県川上村 自治体は生ごみ回収せず、住民が処理

レタスの栽培で知られる長野県川上村では、徳島県上勝町同様、自治体は生ごみを回収していない(12)。生ごみ処理機購入費補助金制度を継続し、生ごみを自分の家で処理してもらうことで、ごみ排出量を大幅に削減している(13)。だからこそ、人口10万人未満の自治体のうち、一人一日あたりのごみ排出量において、毎年、最も少ない自治体となっている。

環境省、2022年3月29日発表データに基づきYahoo!JAPAN制作
環境省、2022年3月29日発表データに基づきYahoo!JAPAN制作

長野県上田市

長野県上田市では、生ごみを自分の家で処理し、可燃ごみの減量・再資源化を推進するため、平成28年度(2016年度)から「生ごみ出しません袋」(生ごみ以外の燃やせるごみ専用)を配布している(14)(15)。

ごみ焼却率80%の日本 生ごみを減らして活用する

全国の自治体では、生ごみの自家処理を推進したり、生ごみの分別回収を進めたりしている。

日本は、ごみ焼却率が80%近くと、世界の中でも高い。

OECD2013年もしくは最新データを基にYahoo!JAPAN制作
OECD2013年もしくは最新データを基にYahoo!JAPAN制作

生ごみは、できる限り、燃やさないで処理することが、日本が目標としている「2050年ネットゼロ」(16)(17)を達成するために重要となる。

もともとは、有機資源である生ごみ。水分が多く、焼却には莫大なエネルギーとコストを費やす(18)。逆に、減らすことで、削減できたコストを市民に還元できる。福岡県大木町では年間3,000万円のごみ処理費を減らし、その分で、図書館やホールなど、町民が使う施設の建設に投入できた(19)。地域の環境に合う、さまざまな取り組みで、生ごみを減らしていきたい。

参考情報

1)島産業 パリパリキューブ

2)ハチドリ電力

3)キエーロ

4)LFCコンポスト

5)一般廃棄物の排出及び処理状況(令和2年度)について(環境省、2022/3/29)

6)京都市の生ごみデータ より、「燃やすごみ」の組成(令和2年度)

7)講演記録「究極のごみゼロ社会を目指して 資源回収法を制定して持続可能な社会を-」笠松和市(徳島県上勝町長)2007年11月29日、神奈川大学国際経営研究所・平塚商工会議所 共同開催(平塚市中央公民館)

8)柑橘類の皮や規格外の鳴門金時も使うゼロ・ウェイストのクラフトビール 徳島県上勝町のRISE&WIN(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/3/16)

9)上勝町ゼロ・ウェイストセンター 2022年9月7日、大塚桃奈さん取材による

10)ゼロ・ウェイスト・タウン 上勝町

11)生ごみ出しま宣言袋を活用しましょう(鳥取県大山町、2022/9/28)

12)全国ごみ少ないランキング1位の京都市、静岡県掛川市、長野県川上村 なぜ?コロナの影響も(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/4/5)

13)長野県川上村の取り組み(信州ごみげんねっと)

14)「生ごみ出しません袋」「燃やすしかないごみ」年間2兆円のごみ処理減らす自治体の取り組み(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/5/30)

15)「生ごみ出しません袋」を使ってごみを減らしましょう!(長野県上田市、2021/5/1)(筆者注:内容が令和4年度から5年度になっているので、おそらくこの情報の更新日は2021年ではなく、2022/5/1では?)

16)NET ZERO by 2050(IEA)

17)パリ協定に始まった2050年までの「ネットゼロ」達成に向けて(アムンディ)

18)「生ごみ出しません袋」「燃やすしかないごみ」年間2兆1,290億円のごみ処理減らす自治体の取り組み(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/5/30)

19)ごみ13年間で60%減、毎年約3千万円削減 大木町は自治体のロールモデル「燃やせば済む」からの脱却(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/7/20)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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