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ごみ13年間で60%減、毎年約3千万円削減 大木町は自治体のロールモデル「燃やせば済む」からの脱却

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
福岡県大木町の「くるるん」(筆者撮影)

2022年3月29日に環境省が発表した一般廃棄物の処理費用は2兆1,290億円に達する。中でも生ごみは、その重量の80%以上が水分だ。燃えにくい生ごみを、膨大なエネルギーやコストをかけて燃やし、温室効果ガスを排出しているのが日本の現状である。

そんな中、全国初の徳島県上勝町に次いで2008年3月11日にゼロウェイスト(ごみゼロ)宣言し、燃やすごみを13年間で60%以上も減らしたのが福岡県大木町だ。リサイクル率は平成23年(2011年)から全国トップ10入りを保ち、現在、全国6位の高さを誇っている(人口10万人未満)。

環境省のデータを基にYahoo!JAPAN制作
環境省のデータを基にYahoo!JAPAN制作

大木町は、福岡県の南部に位置し、人口は約14,000人、世帯数は約5,000世帯。町の面積の約60%は農業用の土地として利用されている。

大木町の地理(大木町提供)
大木町の地理(大木町提供)

今では「生ごみといえば大木町」と言われるくらい名前が知られ、町内外から毎年3,000〜4,000名が視察に訪れる。大木町を視察した福岡県みやま市や、岡山県真庭市は、生ごみ分別を実現した。大木町はこの仕組みをどのように実現させたのだろう。

福岡県大木町のおおき循環センター「くるるん」を取材し、大木町から指定管理を受けている、一般社団法人サスティナブルおおきのバイオマスセンター長、松内宏暁(ひろあき)さん、大木町まちづくり課 環境チーム 石橋浩二さん、大木町まちづくり課長 野田昌志さんにお話を伺った。

生ごみの分別回収で燃やすごみはピーク時の60%減

松内宏暁さん(以下、松内):1977年からの燃やすごみのデータを見ると、当初は右肩上がりでどんどん増えています。それが、2006年(平成18年)を境に、ぐんと半分近く減らすことができています。この年に何をしたのかというと、生ごみの分別を開始したのです。燃やすごみの中から生ごみを分けるだけで、かなり、燃やすごみを減らすことができます。

生ごみ循環事業の効果(大木町提供)
生ごみ循環事業の効果(大木町提供)

大木町の循環システムはこうだ。家庭や学校給食で出る生ごみを分別回収する。集めた生ごみをバイオガスプラントで発酵させ、バイオガスと有機液肥にする。液肥は有機肥料として農地へ還元する。液肥や堆肥を使ってできた農産物を、家庭の台所や学校給食へ届ける。まさに「循環」システムだ。

生ごみ循環システム(大木町提供)
生ごみ循環システム(大木町提供)

ごみは29分別。環境プラザでは、町民が持ち込みできる収集場所があり、そこでは29分別より多い45分別で収集している。

大木町の29分別(大木町提供)
大木町の29分別(大木町提供)

廃棄物処理費による財政圧迫がきっかけ

大木町が取り組みを行うきっかけは、年々増える廃棄物処理費が町の財政を圧迫していたことだった。1993年(平成5年)から、住民団体を中心に、生ごみをコンポストにする動きが広まった。しかし全戸に広めるには難しい。海洋投棄処分していたし尿や浄化槽汚泥も、2002年(平成14年)の廃棄物処理法改正により、海洋投棄処分できなくなり、処理方法を決めなければならなくなった。これに加え、世界では地球温暖化の問題が注目されてきていた。

メタン発酵槽(筆者撮影)
メタン発酵槽(筆者撮影)

このような背景から、大木町は2002年に環境課を新設し、生ごみ資源化事業化への取り組みがスタートし、2006年にはおおき循環センター(愛称:くるるん)がオープンした。

トラックに掲示してあるくるるんのロゴ(筆者撮影)
トラックに掲示してあるくるるんのロゴ(筆者撮影)

施設建設にあたって住民からの反対は?

ごみ処理施設を住宅の近くに建てる上で、反対運動はなかったのだろうか。

石橋浩二さん(以下、石橋):周辺施設で住民説明会をさせていただいています。嫌気性の施設で、風圧でにおいを外に漏らさないことを、住民の方に丁寧に説明し、大きな反対はなかったと認識しています。

大木町まちづくり課 環境チーム 石橋浩二さん(筆者撮影)
大木町まちづくり課 環境チーム 石橋浩二さん(筆者撮影)

「くるるん」は まちづくりの拠点

松内:生ごみや、し尿を扱う施設は「迷惑施設」と思われて、人里離れたところに建設されることが多いんですけれど、ここは、ほぼ町の中心、しかも国道沿いに建設しております。

「くるるん」の施設紹介(大木町提供)
「くるるん」の施設紹介(大木町提供)

松内:このおおき循環センターと道の駅は、まちづくりの拠点として位置付けています。学習施設では子どもたちの環境学習がおこなわれ、地元で採れた食材を販売する直売所やレストランもあります。いちご狩り体験や農業体験、町のイベントや祭りごとも開催され、にぎわいを作る場所として活用されています。

一般社団法人サスティナブルおおきのバイオマスセンター長、松内宏暁(ひろあき)さん(筆者撮影)
一般社団法人サスティナブルおおきのバイオマスセンター長、松内宏暁(ひろあき)さん(筆者撮影)

施設を建設するにあたり、周辺地域の代表者らと類似の施設を視察することで、不安の払拭に努めたそうだ。住民説明会は地区ごとに実施し、モデル地区では事前に生ごみ分別に取り組んだ。

処理費用削減効果は毎年約3,000万円

生ごみを分別回収し、資源として活用することで、焼却処分していた時と比べて、毎年、約3,000万円の費用を削減することができている。これにより、住民のニーズに合う、別の事業に投資できる。

ごみ処理費用(大木町提供)
ごみ処理費用(大木町提供)

住民にとってのメリットは?

このような取り組みは、大木町の住民にとってどのようなメリットがあるのだろうか。

1)図書館やホール

生ごみ分別回収は、自治体にとってはごみ処理費削減というメリットがあるが、住民にとっては「負担になる」という懸念がまず先に来るかもしれない。住民にとってのメリットがあれば、協力しようというモチベーションにつながる。大木町では住民の要望が高かった施設、図書館やホールをつくった。

松内:生ごみ処理で浮いたお金で、(380席ある)「こっぽーっとホール」や交流センター、図書・情報センターを作り、住民の皆さんに活用できるものに使っています。

循環センターには京都大学名誉教授、高月紘(たかつきひろし)先生の環境まんがが多数展示してある(筆者撮影)
循環センターには京都大学名誉教授、高月紘(たかつきひろし)先生の環境まんがが多数展示してある(筆者撮影)

2)ごみ袋有料化(従量制)

大木町では、分別してごみを減らした人が得する仕組みを作っている。ごみ袋有料化だ。特徴的なのは「燃やすごみ」の袋が他に比べて割高なことだ。ごみを少なくすればするほど、これらの負担は減る。

大木町は、生ごみの資源化を目指し、平成13年度(2001年度)から、モデル地区での生ごみ分別回収などバイオガスプラントの実証実験を実施してきた。生ごみ分別を見据え、燃やすごみ袋の料金を改定した。生ごみの分別は平成18年(2006年)11月から町内全域で開始した。

大木町の指定ごみ袋(筆者撮影)
大木町の指定ごみ袋(筆者撮影)

①平成16年(2004年)4月から燃やすごみ袋の料金改定

25リットル15円→25リットル30円、50リットル60円を新設

②平成23年(2011年)10月から燃やすごみ袋の料金改定(プラスチック分別回収後の見直し:プラスチックと紙おむつを分別収集することで燃やすごみが減少していることを受け、袋のサイズを見直し)

燃やすごみ:50リットル60円→35リットル60円(現在も同金額)

燃やすごみ:25リットル30円→15リットル30円(現在も同金額)

プラ:50リットル15円と35リットル10円(現在も同金額)

紙おむつ:15リットル15円(現在も同金額)

ごみ袋の価格(大木町提供)
ごみ袋の価格(大木町提供)

3)無料の液肥と格安の散布

大木町は、生ごみ資源化により、年間約5,500トンの液肥(有機肥料)「くるっ肥」を生産している。大木町の住民が使う場合、液肥代は無料だ。散布費用は10a(アール)で1,000円。

松内:大木町で使う方は液肥代無料です。活用先は、ほとんど米と麦ですね。専用の散布車があるので、その燃料代や、職員が運転する車両の燃料代として散布料をいただいています。農家さんからしたら非常に安いということで、今、申し込みがどんどん来ていて、今はもう足りないくらいです。

石橋:化成肥料だと10aあたり6,000円、7,000円くらいかかっていると思います。農業事組合法人などで大規模に農業をしているところは、差が大きいですね。

なお、大木町がJAに確認したところ、2022年はウクライナ情勢・円安で化成肥料の価格(春・秋)が急騰している。国や県で農業者の負担軽減のため、価格上昇分の補助等を検討中とのこと。

液肥の散布(大木町提供)
液肥の散布(大木町提供)

4)特別栽培米と菜種油

液肥で栽培した農産物を地元で販売している。液肥「くるっ肥」を使い、福岡県減農薬・減化学肥料栽培基準に基づき栽培された特別栽培米「環のめぐみ」(品種:元気つくし)は、学校給食に供給し、町民には優先的に安価で販売している。また、菜種油「環のかおり」も開発している。

松内:田植え前の乾田への散布車での散布とともに、田植え後に水張りと同時に液肥を流し込む方法も行っているところです。この液肥を使ってできたお米を「環境共生型特別栽培米」という形で、「環のめぐみ」として販売しています。

また、「菜の花プロジェクト」を行っておりまして、休耕田に液肥を散布し、そこで菜の花を栽培して、得られた菜種を回収して搾って菜種油を作っています。こちらは「環のかおり」という名前で商品開発をおこなっています。

石橋:昔ながらの圧搾法なので、かなり貴重で風味豊かな油です。

「環のめぐみ」「環のかおり」(大木町提供)
「環のめぐみ」「環のかおり」(大木町提供)

5)食用廃油を軽油の代替燃料に

食用油は、分別された後、軽油の代替燃料としてBDFにリサイクルされている。2019年度(令和元年度)のBDFの製造量は5.4t(6.2kl)/年。ほかには石鹸づくりに活用されている。

食用廃油を代替燃料に(大木町提供)
食用廃油を代替燃料に(大木町提供)

6)農産物直売所や健康地域応援レストラン

「くるるん」には、生ごみから得られた液肥などを使って生産された、新鮮な農産物を販売する「くるるん夢市場」(JA福岡大城農産物直売所)がある。大木町の特産品である、えのきやアスパラなどの生鮮食品はもちろん、海苔や干し椎茸などの乾物や、シフォンケーキなどの加工食品も販売されている。あまりの破格の値段に「こんなに安く売っていて大丈夫かな」と思うほどだ。

くるるんのレストランや農産物直売所(大木町提供)
くるるんのレストランや農産物直売所(大木町提供)

直売所に隣接して、健康地域応援レストラン「デリ&ビュッフェ くるるん」がある。ここは全国放送のテレビでも紹介されており、ビュッフェ形式のおいしい食事が1,650円で食べられる。

レストランはビュッフェ形式で好きなものを選ぶことができる(筆者撮影)
レストランはビュッフェ形式で好きなものを選ぶことができる(筆者撮影)

7)新たな雇用

「くるるん」の運営体制(2019年3月現在)は、4つの組織で成り立っている。循環センターは一般社団法人サスティナブルおおきの38名の職員から構成される。道の駅は株式会社クリエイティブの2名、農産物直売所はJA福岡大城の10名、レストランは株式会社デリ&ビュッフェくるるんの16名。全部で66名の雇用を生み出している。

8)小学4年生の学びの機会

「ごみ」について学ぶ小学校4年生は、「ごみゼロチャレンジ」に取り組む。

ばねばかりでごみの重さを量る(大木町提供)
ばねばかりでごみの重さを量る(大木町提供)

小学校4年生は、ばねばかりを渡されて、1ヶ月間、各家庭から出る燃やすごみ、プラスチックごみの重量を測定し、記録していく。実際に取り組んでもらうと、ごみの重量は、下のグラフのように、かなり減るそうだ。

ごみゼロチャレンジの成果(大木町提供)
ごみゼロチャレンジの成果(大木町提供)

生ごみの出し方は?

生ごみは、分別バケツ(蓋つきの、白いバケツの下に水切りがついている)を使って収集している。大木町に転入した際、無料配布される。分別バケツがこわれたら800円、蓋がこわれたら200円で購入できる。

生ごみの出し方(大木町提供)
生ごみの出し方(大木町提供)

各家庭は、生ごみを分別バケツに入れて集め、収集日の朝8:30までに、各地域に設置されている青い色の収集タルに入れに行く。それを収集車が回収する。異物の混入率は1%以下だそうだ。燃やすごみは週2回収集だったのを1回に減らした。各地域、10世帯に1個の割合で青い色の収集タルを置いており、これは山形県長井市のレインボープラン(*)を参考にしたそうだ。

*山形県長井市 レインボープラン『台所と農業をつなぐながい計画』平成9年(1997年)から生ごみを分別回収している

家庭だけでなく、事業者も同様に生ごみを分別して出している。レストランの場合、青い収集タルを貸し出し、ここに入れてもらい、1kgあたり5円の処理費を支払ってもらう。

青い収集タル(筆者撮影)
青い収集タル(筆者撮影)

生ごみの分別回収については、「負担が大きかったので転出する」という声もある。だが、逆に、他の自治体に転出した際、大木町では週に2回、回収していたので「生ごみの臭いが気になって仕方ない」「大木町の方がよかった」という声も聴くとのこと。

毎月生ごみ分別優良地区を表彰

職員は、回収された生ごみが、異物が入らずきちんとした形で収集されているかどうか確認している。その混入率の低い地区は、毎月の広報誌で掲載して紹介する。年に2回、異物混入率が0.5%未満の地区は表彰している。表彰に合わせて、大木町にあるアクアスという温泉施設の入浴券を、世帯数にあわせて配布している。

大木町まちづくり課長 野田昌志さん(筆者撮影)
大木町まちづくり課長 野田昌志さん(筆者撮影)

し尿は液肥に、紙おむつは建材に

「くるるん」では、生ごみと併せてし尿と浄化槽汚泥の受け入れを行なっている。し尿は1日7トン、浄化槽汚泥は1日約30トン。発酵させる際のバイオガスで発電している。「くるるん」で使う施設で使ううちの7割を、この発電機でまかなっている。(残り3割は九州電力から購入)

松内:生ごみの分別に始まって、いろんな取り組みを行なっています。プラスチックの分別も、紙おむつの分別も。

石橋:紙おむつは、大木町内に回収ボックスを50ヶ所ほど設置しています。役場や公共施設の周りなど。各地区に1ヶ所、24時間、いつでも出せるようになっています。指定袋で出していただいて、ある程度たまったら収集運搬業者が回収します。今は高齢化が進んで、量からすると成人向けの方が多いような状況です。処理費は1kgあたり35円で、最終的には大牟田市の再生工場で再生パルプを作り、建材にリサイクルしています。「リユースプラザくるくる」の建物に建材として使っています。

紙おむつリサイクル事業(大木町提供)
紙おむつリサイクル事業(大木町提供)

「燃やせば済む」という焼却至上主義からの脱却

福岡県大木町は、全国で2番目に「ゼロ・ウェイスト宣言」を出した自治体だ。日本では5つの自治体が宣言している。

ゼロ・ウェイスト宣言自治体(大木町提供)
ゼロ・ウェイスト宣言自治体(大木町提供)

松内:現在、日本はほとんどのところが焼却処理をおこなっているんですけど、生活用品などが安価に買えるようになり、使ってすぐ捨ててしまい、燃やされてしまうという一方通行の流れになっています。燃やしているわけですから、温暖化の原因になる。温室効果ガスを排出している。しかも、ただで燃やすわけではないので、私たちの税金で処理されている。「ツケ」というか、環境に負荷を与える処理方法を続けています。大木町は、小さな町ではあるんですけど、できるだけその負荷を減らしていこうと。燃やすごみを減らし、地域で資源として活用していこうという考え方に変わって、「循環」というまちづくりを進めていっております。

ごみの焼却や埋め立てをしない、次世代にツケを残さない

松内:「ゼロ・ウェイスト(もったいない)宣言」は、徳島県上勝町が全国で初めて出し、大木町は2番目に出しました。今の大量生産・大量消費の社会システムを続けていけば、未来の子どもたちに「ツケ」を残してしまう。大木町では「もったいない」心を育てて、無駄のない町の暮らしを創造し、ごみの再資源化を進め、ごみの焼却や埋め立て処分をしない町を目指しています。

まさに、全国の自治体のロールモデルとなる、福岡県大木町。都市部では100%真似できないかもしれないが、見習うべき点はたくさんある。ぜひ、このモデルを全国に広げていきたい。

全国にはリサイクル率の高い自治体が他にもある。たとえば人口10万人以上50万人未満の区分では下のグラフが上位10自治体だ。

環境省のデータを基にYahoo!JAPAN制作
環境省のデータを基にYahoo!JAPAN制作

人口50万人以上の自治体では、上位10自治体が下のグラフの通り。筆者が廃棄物対策審議会委員を務めている埼玉県川口市も全国7位に入っている。これら自治体の活動にも注目していきたい。

環境省のデータを基にYahoo!JAPAN制作
環境省のデータを基にYahoo!JAPAN制作

謝辞

取材するにあたって、LFCコンポストのたいら由以子さんには、大変お世話になりました。感謝申し上げます。

また、取材には株式会社オシンテックの小田一枝さんにご同席いただきました。ありがとうございました。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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