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「賞味期限切れ」すぐ捨てないで 災害時に命を守るペットボトル水

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
ペットボトル水のキャップに印字された賞味期限表示(筆者撮影)

自然災害や気象災害が増えている。2021年8月、世界気象機関は、世界の気象災害が過去50年間で5倍に増加し、その経済損失は3兆6400億ドルに達したと発表した。

2022年8月3日、東北から北陸にかけて集中豪雨が襲い、8月4日には新潟県村上市に9カ所の避難所が開設された。山崎製パンは、この日、市役所を含めた6ヶ所に自社製品のパンを届けている(1)。

災害時に、まず必要なのは、すぐにエネルギーになる、炭水化物を主とした食品(ご飯やパン、麺、シリアルなど)だ。そして、命をつなぐために必ず必要なのが「水」。

家庭や地域、企業や自治体、省庁においても、ペットボトルに入ったミネラルウォーターの水が備蓄されていることが多い。筆者もフードバンクで広報を務めている時、食料支援や寄付の現場で多く目にした。

そんなペットボトルに入ったミネラルウォーターに印字されている賞味期限は、飲めなくなる期限ではない。

ガラス瓶と違って容器を介して水が蒸発するため「容量を担保する期限」

殺菌・ろ過された水が、ガラス瓶に入っていれば、中の水が保管中に蒸発することはない。

だが、ペットボトルの場合、長期間保存すると、ペットボトル容器を介して水が蒸発していく。そのため、長期間経つと、容器に明記してある容量が入っていない、ということになる。計量法では、ある一定の範囲で誤差を認めているが、その誤差範囲を超えてしまうと、「計量法違反」ということになり、販売ができない。

だから、印字されている期限は「内容量を保証する期限」なのである。「賞味期限」は「おいしさのめやす」なので、本来の意味の賞味期限ではない。

ガラス瓶の場合、中の水は蒸発しないので、賞味期限表示は免除されている(表示しなくてもよい)。

ペットボトルに入ったミネラルウォーター(筆者撮影)
ペットボトルに入ったミネラルウォーター(筆者撮影)

緊急時に期限の切れているペットボトル水が見つかったらすぐに捨てずに中を確認してから使う

平常時であれば、期限が切れる前に、備蓄してある水や食料を入れ替えることができる。だが、自然災害は、予期していなかったときに突然起こる。

仮に備蓄してあるペットボトルのミネラルウォーターの期限が切れていたとしても、すぐに捨てないでほしい。中の水は、殺菌・ろ過されているので、すぐに悪くなるということは少ない。

緊急事態の時、水と食料は必ず必要だ。そして、仮に食料が十分になかったとしても、水があれば命をつなぐことができる。

もちろん、適切な場所に保管されていたことが前提だ。直射日光の当たる場所や、極端に高温高湿の場所は、飲食品の保管場所として適切ではない。きちんと保管されていたものは、表示されている賞味期限を過ぎても飲食できる場合が多い。

また、水ではなく、ミルクなどが入った飲料やコーヒー、お茶、ジュースなどのペットボトル飲料の賞味期限は、水と違って、「容量を担保する期限」には該当しない。「おいしさのめやす」という意味になる。

命にかわるものはない 命を守る水を最後まで大切に

8月1日は水の日、8月1日から7日は水の週間ということで、この一週間、水に関する報道がされてきた。

が、ペットボトル水の賞味期限に関する内容は、筆者の認識する限りでは見かけなかったように思う。

これまでも、ペットボトル水の賞味期限については、記事や書籍で繰り返しお伝えしてきた(2〜10)。

警視庁は、2017年には、賞味期限切れの水は生活用水として使うようにと公式ツイッターで発信していた。

だが、筆者が記事を書いて(8)、国会議員の方も進言してくださったおかげで、「水が蒸発してしまうための期限」「適切に保管し未開封なら品質は保たれるそうです」と、表現を変えてくれるようになった。

とはいえ、まだまだ、十分に周知されたとは言い難い。

命は何にもかえられない。

いざというときに命を守るためにも、あらためてお伝えしたい。

参考情報

1)新潟豪雨「本当に助かりました」避難所に100個以上積まれた「山崎のパン」避難民が大感謝!(FLASH、2022/8/6)

2)備蓄食や飲用水「賞味期限切れ」すぐ捨てないで 食料危機や非常時の命綱、どう確保する #知り続ける(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/3/22)

3)3.11、誕生日に起きた震災で食品企業を辞めて11年 いま思うこと  #知り続ける(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/3/11)

4)【台風に備えて】「賞味期限切れ」すぐ捨てないで 備蓄水や食料 災害時の命綱を確保するためには(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/10/1)

5)賞味期限切れ備蓄はすぐ捨てないで!内閣官房はじめ20府省庁が賞味期限切れ含めた災害用備蓄食品の寄付(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/7/10)

6)賞味期限切れの備蓄の水や食料は地震などの非常時にはすぐ捨てないで!(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/2/14)

7)備蓄食品や飲用水「賞味期限切れ」すぐ捨てないで 災害時の命綱、どう確保するか(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/7/8)

8)警視庁が「飲料水としてダメ」とした水は飲用可能  ペットボトル水の賞味期限は飲めなくなる期限ではない(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/12/17)

9)賞味期限切れの水は飲めるので台風など非常時に捨てないで!消費者・行政・メディア みな賞味期限を誤解(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/9/13)

10)なぜ賞味期限切れの水は十分飲めるのに賞味期限表示がされているのか?ほとんどの人が知らないその理由とは(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/7/30)

11)賞味期限を過ぎたペットボトルの水は飲めるか、飲めないか?(産経新聞、2018/7/3)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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