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賞味期限切れ備蓄はすぐ捨てないで!内閣官房はじめ20府省庁が賞味期限切れ含めた災害用備蓄食品の寄付

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

静岡県熱海市で土砂災害が起きている。このような災害が起きた場合、備蓄していた水や食料に頼ることになるが、賞味期限が過ぎていたからといって、すぐに捨てないでほしい。

ペットボトルのミネラルウォーターの賞味期限は品質が切れる日付ではない

ペットボトルのミネラルウォーターの賞味期限は、品質が切れる日付ではない。ペットボトルは、長期間保管していると、容器を介して水が蒸発し、明記してある容量を満たさなくなる。そうすると、計量法という法律に抵触し、販売できなくなるので、「容量を担保する」期限が表示してあるのだ。

ちなみに、もしミネラルウォーターがペットボトルではなく、ガラス容器に入った製品であれば、賞味期限表示は省略できることになっている(消費者庁による)。

もちろん、賞味期限が切れる前に備蓄水を入れ替えするのが理想的だが、いざ災害が起きて、それができていなかったことがわかった場合、それでも、その貴重な水を無駄にするのか?という話だ。

ペットボトルのミネラルウォーター(筆者撮影)
ペットボトルのミネラルウォーター(筆者撮影)

2018年の産経新聞の記事には、次のような記述がある(3)。

「水の賞味期限は、表示された容量が確保できる期限です」

 こう話すのは日本ミネラルウォーター協会の渡辺健介事務局長だ。

 食品は、食品事業者が科学的・合理的な根拠に基づいて賞味期限を設定している。一方、計量法の規定に基づいて内容量を表示する決まりもある。

 ペットボトルの容器は、通気性がある。すると、水が少しずつ蒸発する。つまり、時間の経過とともに減るのだが、表示と実際の容量が許容の誤差を超えた商品を「販売する」と計量法違反になる。

ペットボトルの水の賞味期限は、もっぱら表示と実際の容量の誤差が許容範囲内にある期間、すなわち計量法違反にならない限度を示しているのだ。

安全な水を飲めない人が世界で22億人

日本は水資源が潤沢な国で、蛇口をひねればすぐ飲める水が出てくる。だが、世界全体では、安全で確実な給水サービスを受けられない人が22億人いる(4)。

計量法にのっとって、見かけ上の「賞味期限」が表示されているからといって、すぐに捨ててしまうのは資源の無駄遣いでしかない。

家から4km離れたところで水を汲む家族:A Tajik family fills up water cans, 4kms from their home, in the village of Dgharteba, some 120kms from Dushanbe
家から4km離れたところで水を汲む家族:A Tajik family fills up water cans, 4kms from their home, in the village of Dgharteba, some 120kms from Dushanbe写真:ロイター/アフロ

缶詰の賞味期限が3年なのは缶自体の品質保持期限が3年間だから

また、缶詰の賞味期限は3年間となっているが、これは缶詰の缶そのものの品質保持期限が3年間であるためだ。2020年12月には、農林水産省が、賞味期限が2ヶ月過ぎた果物の缶詰の備蓄食品を、メーカーにその安全性を確認した上でNPOに提供している(5)。この活動に消費者庁も準じ、ほかの省庁も続いている。国が率先して賞味期限切れ備蓄食品の寄付を始めているのだ。

写真:アフロ

内閣官房含めた20府省庁が「賞味期限切れ」含めた災害備蓄食の寄付

2021年に入ってから、内閣官房含めた以下の府省庁が、災害用備蓄食品の寄付を始めた。

内閣官房、内閣法制局、復興庁、内閣府、宮内庁、公正取引委員会、警察庁、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省

農林水産省の公式サイトには、「国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイト」があり、賞味期限について、以下の説明がある(6)。

賞味期限は、食べられなくなる期限ではなく、おいしく食べることができる期限であり、定められた方法により保存した場合に、期待される全ての品質の保持が十分に可能であると認められる期限です。このため、賞味期限が近づいている場合や、賞味期限を過ぎたものを提供しようとする場合には、例えば、安心して食べきる目安となる期限の情報提供を行うなど、円滑な提供に向けて配慮します。

税金を使った備蓄食の寄付にこぎつけるにはさまざまな手続きがあった。その経緯については、国会議員の竹谷とし子議員のブログに詳しく記述されている(7)。

国の災害用備蓄食品ポータルサイトより筆者がスクリーンショット
国の災害用備蓄食品ポータルサイトより筆者がスクリーンショット

結論:備蓄食品や水の賞味期限が切れているからといってすぐに捨てないで!

以上のように、国が率先して、賞味期限が過ぎた備蓄食品を廃棄せずに活用する取り組みを始めている。

きちんと管理するのが理想だが、災害が発生してから賞味期限切れがわかった場合、そうはいっていられないので、貴重な資源を活用し、命を守ること。果物の缶詰の安全性がどうのという記事を見かけたが、国が賞味期限切れの果物の缶詰を、安全性を確認した上でNPOに寄付しており、実際に食中毒が起きているわけではない食品に対し、なぜリスクを煽ろうとするのか、理解できない。

水も食料もなければ人は生きていけない。

常時はもちろん、災害時には、今ある資源を最大限に活用すること。

1)賞味期限切れの水は飲めるので台風など非常時に捨てないで!消費者・行政・メディア みな賞味期限を誤解(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2019/9/13)

2)なぜ賞味期限切れの水は十分飲めるのに賞味期限表示がされているのか?ほとんどの人が知らないその理由とは(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2019/7/30)

3)賞味期限を過ぎたペットボトルの水は飲めるか、飲めないか?(産経新聞、2018/7/3)

4)世界の水の現状 2021年 (Water Aid:ウォーターエイド)

5)「賞味期限切れ」備蓄食料を農水省が寄付 国として初の試み、その意義とは?(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2020/12/21)

6)国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイト

7)災害備蓄食料の活用(竹谷とし子氏オフィシャルブログ、2021/4/22)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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