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小麦粉ならぬ「栗粉」に「ひよこ豆粉」イタリア人がロックダウン中に作っていた料理は?

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

イタリアでは2020年春から2021年にかけて、3回以上のロックダウン(都市封鎖)が行われてきた。コロナ禍で、政府の指示が二転三転する姿勢は「Stop & Go(ストップアンドゴー)」と呼ばれ、飲食店では食材の管理ができずに食品ロスが出てしまうため、批判された(1)。クリスマスの時期には解除するということだったので、飲食店は大量の食材を準備していたが、実際にはロックダウンになってしまったのだ。

ちょうどクリスマスと新年をはさんだ時期(2020年11月から2021年1月まで)にイタリアに帰国していた、日本在住のイタリア人女性、リタさんに、どのような料理を作って食べていたのか、聞いてみた。2ヶ月半ほど滞在したうち、外食できたのはたった1日だけだったそうだ。あとは、自宅で母親と自炊をしていたという。リタさんの家は、北イタリアの都市、ボローニャから近い村にある。

こちらは外食の写真。リタさんの地元の食材だけで作っているパニーニ屋のビーガンバーガーとフレッシュサラダ。写真左手にあるのは消毒液(リタさん撮影)
こちらは外食の写真。リタさんの地元の食材だけで作っているパニーニ屋のビーガンバーガーとフレッシュサラダ。写真左手にあるのは消毒液(リタさん撮影)

リタさんが、自宅滞在中に撮影した写真を提供してくれたので、その写真と、動画サイトのレシピ動画で紹介したい。

小麦粉の代わりに「栗粉」「ひよこ豆粉」「とうもろこし粉」

イタリアでは、2020年春のコロナ禍の頃、小麦粉が売り切れてしまい、なかなか手に入らなかった時期があった。世界的にも、小麦粉の需要が200%以上に膨らんだ時期があった。外食ができず、家で小麦粉を使って、パンやお菓子を焼く人が増えたのだ。

栗粉のカスタニャッチオ(castagnaccio)

リタさんによれば、小麦粉だけでなく、栗の粉をよく使うという。その栗粉(くりこ)と水、ローズマリーだけで作ったカスタニャッチオ(castagnaccio)というパンを焼いたそうだ。

栗粉(くりこ)と水、ローズマリーだけで作ったカスタニャッチオ(castagnaccio)(リタさん提供)
栗粉(くりこ)と水、ローズマリーだけで作ったカスタニャッチオ(castagnaccio)(リタさん提供)

カスタニャッチオの作り方は、動画でいくつか紹介されている。ナッツやドライフルーツを入れるのが定番のようだ。

栗粉のネッチオ(neccio)

これも栗粉を使ったレシピで、栗粉と水だけでできるネッチオ(neccio)というクレープみたいなもの。栗を使って粉を作る製粉所を持っている人の手作りだそうだ。

栗粉と水だけでできるネッチオ(neccio)(リタさん提供)
栗粉と水だけでできるネッチオ(neccio)(リタさん提供)

とうもろこし粉のポレンタ(Polenta)

北イタリアでよく食べられている料理として、とうもろこし粉のポレンタ(Polenta)も作ったそうだ。とうもろこし粉を水で溶いて、鍋で温め、30分ほどかき混ぜて作る。

とうもろこし粉で作ったポレンタ(Polenta)(リタさん提供)
とうもろこし粉で作ったポレンタ(Polenta)(リタさん提供)

ポレンタは市販品を使って作ることもできる。コロナ禍でその動画レシピが人気になったと報じられた(2)、イタリアの料理研究家、ベネデッタ・ロッシさんは、とうもろこし粉からではなく、ポレンタを作るための市販品を使ったレシピを紹介している。

ひよこ豆のチェチーナ(Cecina)

ひよこ豆で作ったチェチーナ(Cecina)。フリッタータ(卵焼き)だという。

ひよこ豆で作ったチェチーナ(Cecina)(リタさん撮影)
ひよこ豆で作ったチェチーナ(Cecina)(リタさん撮影)

小麦粉を使うティジェッレ(Tigelle)

こちらは強力粉(きょうりきこ)と薄力粉、小麦粉を使って焼く、ティジェッレ(Tigelle)というパン。

ティジェッレ(Tigelle)(リタさん提供)
ティジェッレ(Tigelle)(リタさん提供)

小麦粉を使ったビーガンピッツァ(パプリカ、ケイパー、オリーブ)

小麦粉をベースにしたピッツァ生地に、パプリカ・ケイパー・オリーブのオーブン焼きをのせて作った「ビーガンピッツァ」も作った。

ビーガンピッツァ(リタさん提供)
ビーガンピッツァ(リタさん提供)

パプリカ、ケイパー、オリーブのオーブン焼き(リタさん提供)
パプリカ、ケイパー、オリーブのオーブン焼き(リタさん提供)

トマトのオーブン焼き

トマトを半分にカットした上に、ニンニクとイタリアンパセリをのせてオーブンで焼いたもの。リタさんのお母さんは、この上に栄養イースト(Nutritional yeast)ものせて焼いて食べたそう。

トマトのオーブン焼き(リタさん提供)
トマトのオーブン焼き(リタさん提供)

ちょっと古くなった果物もオーブン焼き

これはリタさんによく聞いている食べ方だ。古くなってきた果物は、捨てないで、オーブン焼きにして食べる。梨とりんごをオーブンで焼いたり、柿をとろとろに焼いたり。

梨とりんごをオーブンで焼いたもの(リタさん提供)
梨とりんごをオーブンで焼いたもの(リタさん提供)

硬くなったバゲッドはカフェオレやトマトスープにしみこませて

この他にもアーティチョークやニョッキ、小玉ねぎをバルサミコ酢で煮込んだものなど、いろんなレシピを作ったことを教えていただいた。

イタリアでは、硬くなったバゲッドは、捨てないで、カフェオレやトマトスープにしみこませて食べたり、パン粉にして食べたりする。

イタリアの外食由来の食品ロスは7%、日本は19%

いろんなレシピを教えてもらって感じるのは「あるものでまかなう」料理の仕方をしているということ。コロナ禍ということもあるが、基本的に家にある食材で作る。特に2020年春のロックダウンでは、買い物時にスーパーに入れる人数制限があったり、手袋着用の義務があったりして、思うように買い物に行きづらい日々が続いた。そこで、家庭の食材が普段以上に生かされるようになったのだ。実際、コロナ前より食品ロスも減ったというアンケート調査結果が発表されている(3, 4)。

イタリアのピエモンテ州を取材した際、イタリアの食品ロスのうち、外食から発生するものが7%だと伺った(5)。日本では外食産業から発生する食品ロスは、年間600万トンのうちの19%(116万トン)を占めている(6)。

コロナ禍で生まれた「あるもので調理する」という姿勢を保つことで、家庭の食品ロスは少なくなるはずで(7)、イタリアの家庭の姿勢を見習いたい。

参考情報

1)'Stop and go' causato dal Covid-19 - Sprecati 1,1 milioni di tonnellate tra cibo e vino (CATANIA TODAY, 2021年4月13日)

2)料理は「感覚的にするもの」だったイタリア、コロナ禍でスタイルに変化。ブームになったお菓子「ゼッポレ」とは【#コロナ禍で変わった世界の食卓】(クックパッドニュース、2021年6月20日)

3)家で捨てる食品、5位パン、4位サラダ、3位玉ねぎ、2位野菜、1位は?イタリア・コロナで食品ロス減(井出留美、2021年5月4日)

4)イタリア食品ロス25%減、この10年間で最小:SDGs世界レポ(52)(井出留美、2020年12月31日)

5)ビュッフェの残りをなぜ寄付できるか イタリア食品ロス削減の最前線(井出留美、2018年11月 19日)

6)農林水産省および環境省「平成30年度推計」

7)イタリア計2,244名の購買行動と食品ロス調査 コロナ禍でどう変わった?SDGs世界レポ(30)(井出留美、2020年7月23日)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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