商売とは「農家とお取引様を大切に」正しく、心豊かに 200年の歴史を誇る超老舗

銅の窯を使い、ポルトガル伝来の手法で作られる、榮太樓總本舗の梅ぼ志飴(筆者撮影)

200年前に東京・日本橋で誕生した和菓子の老舗、榮太樓。社是は「心の豊かさに挑戦する榮太樓」。副社長の細田将己(まさき)さんは、農家や取引先との関係を大切にし、自社都合ではしごをはずすことは絶対しないと強調する。

ご先祖様から受け継いだ飴作りのレシピを守る

細田将己さん(以下、敬称略):飴(あめ)の主原料は砂糖と水あめです。これを溶かして、ほぼ水分がない状態まで煮詰め、副原料を入れて味付けします。

副社長の細田将己さん(筆者撮影)
副社長の細田将己さん(筆者撮影)

細田:大手のキャンディーメーカーさんは、機械化により、とても省人化が図られた工場が多く、彼らはキャンディの味付けに香料と着色料を使うことが非常に多いです。一方、私たちは可能な限り香料と着色料を使わずに自然に存在する原料を使用して飴を作ります。それが最大の違いです。天然素材を使って作るのは大変です。原価は高いし、入れられる原料にも物理的な制限がある。香料と着色料で飴を作るのは「化学品工場」に近いと感じます。うちは元々和菓子屋ですし、江戸時代に添加物はありませんでした。ご先祖様たちは美味しい和菓子を作る延長線上として苦労して天然の原料を使って飴を作ってきたので、そのポリシーを大事にしています。

日本橋の榮太樓總本舗(筆者撮影)
日本橋の榮太樓總本舗(筆者撮影)

細田:榮太樓は黒飴が有名です。一番味が出る沖縄産の黒糖をしっかりと使わない場合、香料・着色料に頼らないと黒飴が作れません。沖縄・西表(いりおもて)島、小浜(こはま)島の黒糖は風味が強いんです。この黒糖を、原価優先ではなく、味優先でしっかり入れてあげれば、添加物は使わずおいしい黒飴ができます。日本で黒飴を作っている会社は数多くありますが、私たちともう一社、和歌山にある那智黒総本舗さん以外は、みなさん香料を入れるんです。沖縄産黒糖をしっかり入れれば味が出ることはわかっているのに。うちは黒飴を明治10年から作っていますが、一貫してそのポリシーは変えていません。

細田:今日は2種類の飴を製造しています。一つが、コンビニやスーパーで一番たくさん売っている「しょうがはちみつのど飴」です。山田養蜂場さんが集める国産の百花蜂蜜は、中国産蜂蜜の10倍ぐらいの値段です。蜂蜜自体の持つ風味が濃いので香料・着色料に頼らずに蜂蜜の香りを楽しんでいただけます。

榮太樓のしょうがはちみつのど飴の原材料(筆者撮影)
榮太樓のしょうがはちみつのど飴の原材料(筆者撮影)

細田:飴を煮詰め上げた後、しょうがを入れます。うちの「しょうがはちみつのど飴」は、蜂蜜としょうがの味がしっかりしています。国産の百花蜂蜜はそのまま舐めると独特の強い風味に驚きますが、キャンディに入れたときにはしっかり蜂蜜が香ってくれます。かつては中国産のしょうがパウダーが殆どでしたが、10年くらい前に高知県産のしょうがパウダーを見つけたことが、このキャンディを開発するきっかけとなりました。生産地まで自分の目で確かめに行っていますが、素晴らしい環境で作られた良質な生姜を漢方薬を作る工場でパウダーに仕立てもらっています。

榮太樓のしょうがはちみつのど飴(右)とにっき飴(左)(株式会社office 3.11撮影)
榮太樓のしょうがはちみつのど飴(右)とにっき飴(左)(株式会社office 3.11撮影)

細田:この商品はコンビニ・スーパー・ドラッグストア向けに年間500万袋供給しています。製造には省力化された、最新型・大量生産型の設備を使います。蜂蜜入りのシロップが、真空状態の中で煮詰められ、水分が飛ばされていきます。1つの釜に20キロ入っていて、しょうがパウダーを入れて混ぜると飴の生地ができます。1日4トンぐらいの飴を作ることができます。混ざったら徐々に冷やします。釜から出た時点で130度ぐらい。冷えるとがちがちに固まってしまうので軟らかいうちに型で抜いてあげなきゃいけない。

細田:形が悪かった飴はもう一度戻して再利用しています。蜜を溶かす人、しょうがの粉を入れる人、型で抜く人の3人で飴を作ります。

形の悪かった飴は捨てないで、再度練り直して無駄にしない(筆者撮影)
形の悪かった飴は捨てないで、再度練り直して無駄にしない(筆者撮影)

400年以上前にポルトガルから伝わった飴作りを今も

細田:一方、こちらが日本に現存する一番原始的な飴の作り方。江戸から続くうちの看板商品「梅ぼ志飴」の作り方です。

榮太樓は飴作りの歴史とレシピを守り続けてきた(筆者撮影)
榮太樓は飴作りの歴史とレシピを守り続けてきた(筆者撮影)

1600年ぐらいにポルトガルから来た宣教師が日本に伝えたと言われるキャンディの原型です。飴といえば水あめしか無かった時代に、精製された白い砂糖を主原料として作るキャンディは「有平糖」(あるへいとう)と呼ばれとても高価な菓子でした。うちは当時のレシピや作り方を引き継いで作り続けています。この飴だけは大量生産型の機械ではできなくて、人間が目を光らせないとできないんですよ。その違いは何なのかを見ていただきたいです。

銅の窯を使って作られる梅ぼ志飴(筆者撮影)
銅の窯を使って作られる梅ぼ志飴(筆者撮影)

細田:最大の違いは昔ながらの銅の釜を使い、高温で一気に煮詰めていく工程にあります。大量生産型の機械で飴を作ると飴の生地そのものには味がつきませんが、銅釜で煮詰めていくと温度が非常に高くなるので砂糖が焦げていきます。砂糖と水あめだけの非常にシンプルな原料ですが、砂糖が焦げるときに生じるカラメライズされた風味が梅ぼ志飴の美味しさです。焦げるか焦げないか、苦みが出るギリギリまで熱を加えていきますので、機械では微妙なコントロールが出来ません。職人が目の前で、その日の気温、湿度を頭に入れながら、色や泡立ちを見て一釜一釜、火から上げるタイミングを見計らっています。

職人が手間をかけて作り上げていく梅ぼ志飴(筆者撮影)
職人が手間をかけて作り上げていく梅ぼ志飴(筆者撮影)

 

(取材当日、一緒に見学していた)見学者:榮太樓以外の飴はもう食べられませんね。榮太樓さまさまだと思っちゃったわね。こんなに一生懸命やって作っている会社は他にないですものね。

梅ぼ志飴のラインで手作業でチェックする社員の方(筆者撮影)
梅ぼ志飴のラインで手作業でチェックする社員の方(筆者撮影)

食べ比べてみればその差は歴然

細田:一般的に流通している黒飴と、うちのスーパー・コンビニ向けの黒飴と値段はほぼ一緒です。ただし食べ比べてもらうと皆さん、その違いにがくぜんとします。両方とも「沖縄産黒糖使用」と書いてあります。原材料を見ると、うちのは「砂糖、水あめ、黒糖、赤糖、桂皮末(ニッキ)」でおしまい。他社様の商品にはここに様々な添加物が加わります。沖縄産の黒糖を入れる量が少ないので、味も色も薄くなる。それをカバーする為に色素を入れ、うま味が足りないから添加物を入れる。なめ比べてもらうと「黒飴ってこんな味でしたっけ?」と皆さん仰る。でも現実にはそれが非常によく売れている。テレビコマーシャルのおかげでしょうが、食べ比べてみないと自分の舌で判断出来ないというのは怖いですよね。

細田: 私たちは1粒10円のキャンディでもいかにおいしく出せるかで勝負しています。大手メーカーさんと戦っていく上では、独自の違いを出す為に、広告宣伝費ではなく原材料原価にお金を使って少しでもおいしいものを出したいと思っています。

細田:一昨年、北海道で地震が起きたとき、牛が、乳を絞ってもらえなくて乳房炎になって、生クリームの生産量がガタ落ちしたんです。うちが作っている「生クリームバニラ」というキャンディにこだわって使っている根釧(こんせん)地区(根室、釧路等の道東エリア)の生クリームが出てこない。ぎりぎりのところで国内の生産は成り立っています。国産ものや産地限定にこだわり過ぎると、天候不順や地震などの自然条件により、原料供給が不安定になることもあります。お店では、一回発売すると、欠品は許されません。だから原料の確保がすごく大事です。

 

細田:原料にこだわり過ぎることのロスやリスクを考えるといつも悩みますが、「北海道産生クリーム使用」と「根釧地区産生クリーム使用」とでやっぱり味は違うんです。バニラ香料ではなく、本物のマダガスカル産バニラビーンズを使用しているのは榮太樓さんということで採用していただいているケースもあるので、コストが高くても何とか続けていきたいです。

生クリームバニラ飴(筆者撮影)
生クリームバニラ飴(筆者撮影)

新たな形の「ようかん」も

細田:どら焼きは年間50万個ぐらい作っています。

2種類のどら焼き。健康のことも考えられている(筆者撮影)
2種類のどら焼き。健康のことも考えられている(筆者撮影)

春は桜餅、夏は水ようかん、秋は栗のお菓子。年末は和菓子屋にとって一番忙しい時期です。

並べられていくどら焼き(筆者撮影)
並べられていくどら焼き(筆者撮影)

細田:こちらのエリアでは主にようかんを製造しています。昔ながらの棹ようかんや、食べきりタイプのスティックようかん、水ようかん、夏物のカップデザートなどお中元用のものも多いです。糖質コントロールの第一人者である北里病院の山田悟先生に監修いただいた、低糖質タイプのようかんも最近では人気です。後期高齢者の方で、本当は和菓子を食べたいけれど、お医者様から止められている、そんな方たちにも楽しんでいただけるようかんをと思い作りました。

健康志向の新しいコンセプトのようかん(筆者撮影)
健康志向の新しいコンセプトのようかん(筆者撮影)

細田:2020東京オリンピックを目指して、味の素さんがお持ちのアミノ酸原料を使った、食べると持久力や集中力がアップするアミノ酸入りようかんもあります。常温で1年持ちます。小売の方にとっても常温で賞味期限が長いものはロスが出ずに売りやすい商品です。昔ながらの和菓子の代表格であるようかんですが、従来とは異なる形状や付加価値を与えることで一旦落ち込んだ消費が、再び伸びていっています。

左が味の素とのコラボレーションで作られたようかん、右が糖質を減らしたようかん(筆者撮影)
左が味の素とのコラボレーションで作られたようかん、右が糖質を減らしたようかん(筆者撮影)

地域還元を通し、決してものを捨てない経営を

―形の不ぞろいな飴をもう一回溶かしなおして使っていらっしゃいましたが、ほかに食品ロス削減対策があったら教えていただけますか。

細田:通年品はそんなにロスは出ないんですけど、お中元やお歳暮などの季節商品は、販売期間が限定されておりますのでロスが出やすいです。黒豆とか栗の瓶詰めはお歳暮アイテムとして何十年もやっていますが、需要予測とピッタリ合うことはありません。お中元の水ようかんなど何十万個単位で作るわけですけれども、秋になると誰も買ってくれないです(笑)。

細田: 余った物は、工場で年に1〜2回、大々的にセールをやります。日を決めてセールをやると2時間待ちになるぐらいお客さまが来られるんですね。一番うれしいです。

―すごい!

細田:地域還元なんですよ。仕入れた原価レベルでも良いから「ここに榮太樓があるんだね」と知ってもらい、町の人に愛してもらうことを目的にやっているので。それで(在庫は)はけます。

―日本橋でもなさるんですか?

細田:箱根駅伝やお祭のとき、福袋1,000円で提供させていただいたり。あの手この手(でロスを減らす)。物を捨てる行為は経済的にも心理的にもしたくないです。

お年賀用の飴(株式会社office 3.11撮影)
お年賀用の飴(株式会社office 3.11撮影)

―環境配慮の3Rの最優先はリデュース。ロスを出さない。水道の蛇口に例えると、今は欠品が許されないからジャーッと水を出しっ放し(作り過ぎ)の状態です。マスメディアの方にいつも伝えているのが「リデュース最優先」。どうしてもリユースやリサイクルだけになってしまうんです。

細田:そうですね・・・。

―余ったものを活用するフードバンクの取材では「ウィン・ウィンだね」と。でも日本ではとてつもない量が余っていて、しかも諸外国に比べて安全性にセンシティブなので、フードバンクで活用できている量は、食品ロス全体の0.06%以下。「だから意味がない」というわけではなく、ビジネス上、利益を出すのが一番と思っています。欧米と比べると日本は免責制度がないので寄付しづらいんです。寄付はどう思われますか?

細田:物の寄付ですか。養護施設やチャリティーイベントでお願いされることが多くあります。災害が発生した時は自衛隊の方々に寄付するなど、ささやかながらさせていただいています。

―自主回収が発生した場合はどうでしょうか?

細田:管理体制を徹底しているお陰で、幸い、自主回収にまで至る事故は起きていないです。かつては何月何日に製造したまでしか管理できていなかったものが、今は時間単位で管理しているので、万が一事故品が見つかった場合も、製造ロットをかなり限定できるようになっています。企業にとってのリスクやロスが出ないよう管理を厳しくしています。

2015年の食品表示法にはスピーディに、コツコツ対応

―社内的にはトレーサビリティ(追跡可能性)を担保する一方、飴だと賞味期限が長いのでロス削減策として年月表示化がありますけど・・・。

細田:うちは一定の賞味期限がある商品についてはどんどん月表示に変えていっていますね。

月表示に変えたパッケージ(筆者撮影)
月表示に変えたパッケージ(筆者撮影)

―いつ頃からされていますか?

細田:法が変わるじゃないですか。(パッケージを)改版していかなきゃいけないので。

―食品表示法ですね。スラッシュ(/)とか(筆者注:原材料欄では、原材料と添加物の間にスラッシュを入れる)。

細田:そう。あと今まで製造者固有記号だったものを、実際に製造している会社を明記しなくてはいけないとか。協力会社さんに製造を委託して、完成品として仕入れている物は、販売者が榮太樓總本鋪、製造者が○○株式会社と表示する必要があります。そういう対応は早めにやっています。5年間の猶予期限があったので。

―2015年からでしたね。

細田:それぐらいですよね。そこから徐々に。包材のロスもばかにならなくて。

―結構な量じゃないですか?

細田:結構な包装資材があるので、タイミングを見計らってやっていかないとすごい量の包材を捨てなきゃいけなくなっちゃうのでね。

―包材ロスですね。

細田:そうです。紙だろうがプラ素材だろうが、ロスはロスなので絶対に出したくない。今年が変更のリミットだと認識していますが、追いついてないメーカーもあるのではないでしょうか。うちは超真面目なので5年前からコツコツと進めてきましたが・・・。

時間と手間をかけてでも美味しい「あん」を

―映画の「あん」だと寝かせないあんを使っていますが、あれはどうなんですか?

細田:分からない(笑)。でも絶対(味)違いますよ。カレーも煮物もそうじゃないですか。

―そうですね。置いているときに味が。

細田:そう。冷めていく工程で味が深まっていく。うちは豆を煮て、砂糖と混ぜてから一晩寝かせます。味が深まったのちに翌日再度火にかけて、餡に練り上げていきます。それが江戸から続くうちの餡の味。

―浸透させていくわけですね。

榮太樓のあん(筆者撮影)
榮太樓のあん(筆者撮影)

細田:料理人は浸透させますね。昔はどこの菓子屋もそうやっていたと聞いています。私も疑り深いので「本当に味の違いがあるのかな?」と思って・・・(笑)。

―・・・実験を?

細田:開発部門に両方実験してもらって。食べ比べると違うんですよ。数値化はできないですけど、ブラインド(目隠し)テストで全員寝かせたほうを選びましたよ。

―面白いですね!

途中ではしごをはずすような裏切りは決してしない

細田:コロコロ仕入れ業者さんを変えることはしません。特に目先の価格だけを見て不条理に変えることはしたくない。信頼関係の下でビジネスは成り立っていると思っているので。うちぐらいの規模でも迷惑かけちゃいます。

細田:うちは餅米を千葉県の農家さんに全量製造委託しているんです。野菜も何もかも完全無化学肥料無農薬で作っていらっしゃる高い思想を持った方たちです。今年不作だったわけです、残念ながら。

―台風が・・・。

細田:年間12~13トン餅米が必要なのですが、6トンしか取れなかったんです。マンゲツモチという特定の品種を使っているので。最初から値段は一般的な相場よりも高いところで決めていて。いい年も悪い年も「うちはずっとこの価格で買いますから」と。

細田:豊作だったから安くなる。凶作だったら高くなる。市場原理はそうですよね。でも今まで寝ていた畑をメンテナンスし直して、元々1トンしか作っていなかった餅米を10トンにまで作付面積を増やしてもらうのは大変なことです。いきなりはしごを外すことは、絶対うちはしません。

SDGs(国連広報センターHP)
SDGs(国連広報センターHP)

真のサステナビリティ・SDGsとは

細田:食品の小売価格を変えるのは簡単ではないから、原料価格は一定のほうがありがたいわけです。いい物なんだから高く買います。用意できないといって彼らを見限ることは絶対にしないです。そういう信頼関係を農家さんたちと持ちたいんですよ。サステナビリティってそういうことじゃないでしょうか。

細田:昨年は小豆の供給不足にも随分悩まされましたが、懇意にしている農家さんに「もう本当になくて困ってるんだけど」と言うと「しょうがねえなあ」と言いながら出してきてくれたりするのね(笑)。人間関係じゃないですか、ビジネスって。

細田:サステナビリティって、農家さんとの関係を続けていくこと。和菓子は限りなく農産物につながっています。工業製品ではないので。もろに素材の味が出ます。いい年も悪い年も同じ人から買い続ける。凶作のときは原料は良くなくても、最終製品に仕立てたとき、いつもと変わらない味にしていくのが僕たちメーカーの務めだと思っているので。

細田:そういうことぐらいしかSDGsで僕たちができることってないと思っているんですよ、メーカーとして12条、つくる責任、つかう責任。いい物を作る責任、いい原料をきちんと使う責任というのが、僕たちに課せられているSDGsだなと。

SDGsの12「つくる責任、つかう責任」(国連広報センターHP)
SDGsの12「つくる責任、つかう責任」(国連広報センターHP)

―「誰1人取り残さない」という理念がSDGsにあるので、先進国さえ良ければいいというのも違うし、コンビニでオーナーさんだけが苦労しているのは違うと思うんです。

細田:きっと違いますよね。共存共栄。下請けという言葉は使いたくないです。お取引先さまから買わせていただいている、供給していただいているという気持ちで。ビジネスなのでお互いに成長していかないと意味がないし、こっちだけ勝っても仕方がない。原料・包材メーカーさん、私たちメーカー、問屋さん、小売さんのバランスが上手く取れていることが、長期的には消費者にとってのメリットに繋がると思っています。

―小売りさんがピラミッドの頂点に立っているイメージがします。

細田:そうですね。まあ物が溢れている現代では売ってくれている人が一番偉いのかなあ。

―世界の潮流としては、コレクティブインパクトなんですよ、本来。持っている強みがみんな違うわけだから、上と下じゃなくて、フラット(平等)な形で議論する。

細田:そうですね。今はややバランスが悪いのかもしれません。物がありすぎるし、うちがいなくてもほかから似たようなものを買えばいいと思われてしまいがちと感じます。もちろん、「榮太樓でなくてはならない」というような強い商品を作ることが出来ればよいという話なのですが。戦後、物がない時代であればメーカーのほうが強いに決まっていますよね。頼むから出してくださいみたいな時代もあったわけで。食べ物に関しては飽食の時代がこうしちゃったと思う。

「正しい会社」であるために力を尽くす

ー細田さんの話を聞いていると、物や人や命を大切にする気持ちがある人は、物も取引も大切にするし、ご縁があった人を大切にする。そうじゃない人は何も大切にしない、ロスに関しても。いろいろなことを大切にする人は分かってくれるし、分からない人は何を言っても分からないなと。

細田:そうですね。うちの会社の社是が「心の豊かさに挑戦する榮太樓」ですからね。心の豊かさは全方位ですから、これを社是に掲げた以上、心が豊かじゃない行為は会社の規律違反になります。できる範囲で正しくありたい。従業員も見ています。すごく感じるんですよ、正しい会社かどうかを。クリーンなブランドであるかを期待されている気がします。

―そういう資質の人が集まってくるでしょう?

細田:そうでしょうね。正しくあってほしいんだと思います。

―スウェーデンで聞きましたが、経済活動と環境配慮はどっちがどっちじゃなくて両立なんですよね。環境から資源をいただいて経済活動をしているので。環境をおろそかにしたら経済活動すら成り立たないので両輪ですよね。

細田:そうですね。

ー社会から評価されない人はご退場くださいとなるでしょう。

細田:レピュテーションリスクって大きいと思うんですよ。

―大きいでしょうね。失ったら。

細田:200年かけて築き上げたブランドも、その価値を失うのは一瞬です。榮太樓を信頼してくれているお客様のご期待を裏切ることは絶対に出来ません。

―ケン・ローチ監督の『家族を想うとき』で旦那さんが宅配業(フランチャイズの宅配ビジネス)で過労死するぐらい働いて、奥さんが介護士で、子どもが放置されてというのを描いていて。イギリス映画ですけど、日本にも通じる感じです。

細田: 5年ぐらい前、看板商品の黒豆大福1万個がちょっと軟らかくできちゃったんです。社長と僕が呼ばれて、どうするか決めてほしいと。食べ比べると確かに軟らかい。折角作ったものを捨てたくないから「売ろうか、そのまま」と判断しかけたら、ある課長さんが「私の知っている榮太樓は、この大福は売らない」と言ってくれたんです。「絶対に売るべきではない」と。それを聞いたときに本当にうれしくて。「経済」に大きく傾きかけた社長と僕に対し、榮太樓はどうあるべきかということを、その人は言い切ってくれた。もちろん食べて何ら問題ないものなので、最終的にはB級品として工場売店で値下げして売りました。衝撃でしたよ。僕もサラリーマン生活が長くて上意下達の典型のような会社にいたので(笑)。

―素晴らしいですね。たとえ思っていても、上(の人)には逆らえない人が多いですから。

細田:そこまで会社のことを思ってくれる、自分の職責に誇りをもってくれている社員。ああいう人が偉くならなきゃいけないと思います。

ー会社の誇りですよね。そういう社員が、そういう人を育てる。これが社風。人に「人徳」ってありますが、社徳もあると思います。

副社長の細田将己さん(筆者撮影)
副社長の細田将己さん(筆者撮影)

取材を終えて

誠実で、取引先と対等な姿勢を築いている榮太樓總本舗。このような会社だからこそ、200年という長きの間、商売が続いてきたのだろう。

目先の利益を追い、取引先に対して無理を強要する姿勢の「大企業」もいるが、形だけで実が伴わないと言わざるを得ない。榮太樓總本舗のような企業こそ、「本物」で、日本の財産と言えるだろう。

謝辞

取材をアレンジしてくださった渡辺幸裕さんに感謝申し上げます。

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奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン(株)青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。311食料支援で食料廃棄に憤りを覚え、誕生日を冠した(株)office3.11設立。日本初のフードバンクの広報を委託され、PRアワードグランプリソーシャルコミュニケーション部門最優秀賞へと導いた。『食品ロスをなくしたら1か月5,000円の得』『賞味期限のウソ』。食品ロス問題を全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして2018年、第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018受賞

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