残った給食のパンと牛乳31万円分は公費負担の補食  持ち帰り教員の処分は妥当か?

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

大阪府堺市の教育委員会は、給食で残ったパンや牛乳およそ31万円分を、2015年6月から4年以上、自宅に持ち帰って家族で食べていた、堺市立高校の60代教員を、減給3ヶ月の懲戒処分にした。2019年12月25日付の産経新聞が報じた。

これについて、テレビ番組が取り上げ、著名人がソーシャルメディアで意見を表明するなど、処分が妥当なのかについて、議論が起こっている。筆者もコメントさせて頂いた。

食品ロスの観点からは「捨てるよりいい」という意見が

議論の内容を見てみると、「どうせ捨てるはずだったものを捨てないで済んだのに、なんでこれがいけないの?」という意見は多い。

確かに、環境的には、廃棄を減らし、環境への負荷を減らしたことになる。

誰が給食費を払っていたの?所有権は?

一方、誰がこの給食費を払っていたのかというと、当該教員ではない。

ハフポストの取材によれば、このパンと牛乳は、定時制の生徒の補食(1日3食以外に補うための食事)で、費用は公費負担だったそうだ。

パンは、カレーパンやジャムパン、デニッシュパンなど日替わりで、パン1個に牛乳1本。教員が食べるためのものではなく、定時制の生徒が食べるためのもの。

となると、自分に所有権がなく、公の費用でまかなわれていたものを、自分の判断で勝手に自宅へ持ち帰っていたことになり、「処分は妥当」ということになる。

法律的には「地方公務員法の第32条と第33条に抵触」

法的にはどうなのだろうか。

弁護士ドットコムニュースが大阪府堺市に取材をしている。なぜこの教員が処分されたかというと、地方公務員法の第32条と第33条に違反したためだそうだ。

第32条では「法令等及び上司の職務上の命令に従う義務」、第33条では「信用失墜行為の禁止」がそれぞれ定められている。教師は、衛生上の問題というよりも、地方公務員法に触れたということだった。

堺市教委では、「確かに給食は高校に限らず、小学校や中学校でも持ち帰ってはいけないことになっていますが、今回の場合は給食はそもそも生徒に提供されるべきものであり、教師のためのものではありませんでした」と説明している。

出典:弁護士ドットコムニュース

個人的には腑に落ちない部分もあるが、現在の法律に照らし合わせると、今回の教員の行為は「地方公務員法」という法律に抵触する、ということだ。

現場の食品ロスを題材に生徒が学ぶ機会にできたかもしれない

教育的には、学校給食という現場で発生していた「食品ロス」を、一人占めするのではなく、校長先生や他の教員、生徒たちに提示して、学ぶ機会にもできたのでは・・・と考える。

確かに、捨てる食料が減ることで、廃棄コストは減ったわけだし、牛の血液(命)から頂いた牛乳や、農家さんが一所懸命育てた小麦から作ったパンを、無駄に捨てないでちゃんと食べ切ったことは、よかったと思う。

だが、教員が「もったいない」と思って、一人で自宅への持ち帰りを判断し、自分と家族だけでメリットを享受していたことは、教育者としては、適切ではなかったかもしれない。

所属先である市立高校の校長先生や、同僚の先生に相談することもできたかもしれないし、生徒たちに呼びかけることもできたかもしれない。

環境省は学校給食の食品ロスを減らすための事業を毎年全国の自治体に助成

環境省は、毎年、全国の自治体に募り、学校給食の食品ロスを減らすための学校給食の実施に伴い発生する廃棄物3R促進モデル事業を実施している。2月から3月にかけて、その成果報告も発表している。

2019年も、7月1日に公募が発表され、8月22日まで募集期間が設定されていた。応募された中から複数の自治体と学校の取り組みが採択され、助成事業として実施される。

2019年3月に開催された報告会も、北海道や静岡県で実施された、学校給食の食品ロスを減らすための施策や成果が共有され、全国の自治体や学校が参考にできる内容だった。

そう考えると、大阪府堺市の市立高校で余っていた給食のパンや牛乳は、教員が「食べられるものが余って捨てている」と問題提起して解決しようとすれば、教育現場で生徒たちが食品ロスについて学ぶための格好の材料ではあった。

前述の通り、今回対象となった「給食」は、1日3食のうちの1食ではなく、夕方から学ぶ定時制の生徒のための補食だった。

「公費負担の補食」が毎日のように余り、処分していたのであれば、そもそも、その必要性や食事内容の妥当性を、学校全体で議論すべきだったのではないだろうか。

「食品ロス」は環境・経済・法律・倫理・一次産業・異常気象など多種多様な側面を持つ社会的課題

今回の教員の処分が妥当か妥当でないかを問うアンケートなども、Twitter上でいくつか実施されているようだ。

「食品ロス」は、様々な切り口から議論できる社会的課題である。

一次産業、環境負荷や異常気象、経済的損失、法律や倫理など。

論点がどこかによって、今回の問題も、処分が妥当かそうでないかは変わってくる。

一つの側面から見ただけで白か黒か、正しいか正しくないかを問えないようにも思う。様々な側面から俯瞰して考えるべきではないか。

2008年ごろから食品ロス問題に関わってきた筆者としては、著名人や一般の人が「捨てられる食品」について議論している姿が印象的でもあった。

日本社会に存在する、より大量に連日発生している食品ロスや、より悪質な犯罪行為についても目を向け、社会全体で議論し、スルーしたり諦めたりせず、自分ごととして解決に向けていきたい。

参考情報:

「もったいない気持ちを高めても食べ残しは減らない」学校給食で子どもが苦手な食べ物を無理なく食べる秘訣

9割が「体調が悪くても給食を頑張って全部食べる」のは大人が心身の健康を壊して働く姿を表してはいないか

子どもたちはなぜ学校給食を残すのか?「残すな」「残せ」より、なぜ残すのか裏側を見る必要があるのでは?

環境省平成29年度学校給食の実施に伴い発生する廃棄物3R促進モデル事業報告「食品ロスと子どもの教育」

2019年7月1日環境省発表 令和元年度 学校給食の実施に伴い発生する廃棄物の3R促進モデル事業に係る実施市区町村の公募について

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン(株)、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。311食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。「食品ロス削減推進法」成立に協力した。世界資源研究所(WRI)とオランダ政府が運営し食品ロス削減を目指すチャンピオン12.3メンバー。著書に『賞味期限のウソ』『食品ロスをなくしたら1か月5000円の得』。食品ロスを全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018受賞

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気候変動が深刻化し、SDGs(持続可能な開発目標)が注目されていますが、対応に悩む企業も多いです。著者は企業広報に14年半、NPO広報に3年従事の後、執筆や講演を通して食品ロス問題を全国に広め、数々の賞を受賞しました。SDGsが掲げる17目標のうち、貧困や飢餓、水・衛生、生産・消費など、多くの課題に関わる食品ロスの視点から、国内外の事例を紹介し、コスト削減や働き方改革も見据え、何から取り組むべきか考えます。

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