売れ残りパンがアイスやケーキ、ビールに?世界一「ノーマ」出身シェフが働くヒュッゲの国デンマークの試み

foodpeopleのMartin氏(右)Alexandra氏(左)(筆者撮影)

パンは、老若男女に愛される食べ物だ。その一方で、捨てられる量も多い。デンマークでは、食品ロスとして捨てられる食べ物のうち、およそ20%がパンやケーキなどから発生しているという。そんな捨てられる運命にあるパンを、ケーキ、デニッシュ、アイスクリーム、ビールなど、全く異なる新たな製品として生まれ変わらせる。それが、デンマークのコペンハーゲンで誕生したfoodpeople(フードピープル)だ。

foodpeople(フードピープル)の入り口。デンマーク・コペンハーゲンの中心地からかなり離れた郊外にある(筆者撮影)
foodpeople(フードピープル)の入り口。デンマーク・コペンハーゲンの中心地からかなり離れた郊外にある(筆者撮影)

foodpeople(フードピープル)のコンセプトは他に例を見ない。もともとは、2カ国のベーカリーが合体したものだ。イタリアの「Il Fornaio」というブランドと、デンマークの「Jalm & B」「Trianon's」というブランドのコラボレーションである。

デンマークの食品ロスを、5年間で25%減らすのに貢献した立役者、Selina Juul(セリーナ・ユール)が、foodpeopleを紹介してくれた。

コペンハーゲンの中心地から離れた郊外にあるfoodpeopleのオフィスを訪ねた。マーケティング・マネジャーのMartin Marko Hansen(マーティン)さんと、ブランド・マネジャーのAlexandra Baekgaard Carstensen(アレクサンドラ)さんが対応してくださった。

Martin Marko Hansenさん(筆者撮影)
Martin Marko Hansenさん(筆者撮影)

世界一の称号に輝いたレストラン、noma(ノーマ)出身シェフが働く

「パンを焼くので取材は朝8時スタート」との指定があった。そこで、まずはパン工房を見せて頂くことにした。

ベーカリーの工房。かなり広い。この他に、ペストリーなど、甘い系統の商品を作るところは別にある(筆者撮影)
ベーカリーの工房。かなり広い。この他に、ペストリーなど、甘い系統の商品を作るところは別にある(筆者撮影)

Martin Marko Hansen氏(以下、マーティン):ほとんどのパンが、手製で作られています。

マーティン:製造できるキャパシティは広いですが、やっている手法は、古くからのものです。イタリア製の石窯オーブンを使って焼いています。

オーブンを使って焼いたパン(筆者撮影)
オーブンを使って焼いたパン(筆者撮影)

マーティン:デンマークの小麦を使ってデンマーク式のパンを焼き、イタリアの小麦を使ってイタリアのブランドのパンを焼きます。

種類の異なるパンを同じ釜で焼いている(筆者撮影)
種類の異なるパンを同じ釜で焼いている(筆者撮影)

マーティン:創業者のElvio Milleriは、長年、ミシュランのレストランをオーナーとして経営してきました。彼が、foodpeopleのオーナーです。「最高のオーガニックの食材を使いたい」というのが彼の希望でした。

笑顔で応対してくれた(筆者撮影)
笑顔で応対してくれた(筆者撮影)

マーティン:デニッシュやペストリー、デンマークの伝統的なTebirkesというペストリーや、ケーキも作っています。

ここではリンゴのケーキを作っています。

リンゴのケーキ作り(筆者撮影)
リンゴのケーキ作り(筆者撮影)

「世界一のレストラン」として何度も表彰されたnoma(ノーマ)にいたシェフが働く

英国のレストラン誌が選ぶ「世界ベストレストラン50」で4回トップに選ばれ、映画にもなった、デンマーク・コペンハーゲンにあるレストラン「noma(ノーマ)」。2015年1月には期間限定で東京にも出店した。そのノーマでシェフを務めていた、ラスムスさんも、foodpeopleで働いているそうだ。

マーティン:ノーマで料理人を務めていた、ラスムスさんが、foodpeopleで働いています。この工房の責任者です。と同時に、商品開発にも携わっています。

工房では、長細いタイプのパンも焼かれていた(筆者撮影)
工房では、長細いタイプのパンも焼かれていた(筆者撮影)

パンをアイスクリームに変身させる?

Foodpeopleは、その豊かな創造性を活かし、余ったパンから様々な製品を作っている。

マーティン:このパンは、梱包して売り出していたものです。デンマークの最高の有機食材を使っていますので、廃棄することはありません。売れ残ったものや、規格外、焼き過ぎたものなどを使って、まったく別のものを作るんです。

マーケティング・マネジャーのMartin Marko Hansen(マーティン)さん(右)とブランド・マネジャーのAlexandra Baekgaard Carstensen(アレクサンドラ)さん(左)(筆者撮影)
マーケティング・マネジャーのMartin Marko Hansen(マーティン)さん(右)とブランド・マネジャーのAlexandra Baekgaard Carstensen(アレクサンドラ)さん(左)(筆者撮影)

―たとえばどんなものを作るんですか?

マーティン:このパンには、炭水化物とタンパク質が豊富に含まれています。これを、砂糖漬けにして、アイスクリームに変身させるんですよ。

―アイスクリーム!?

マーティン:パンを砂糖漬けにしたものを長く煮ることにより、炭水化物を抽出します。それがアイスクリームを作るためのシロップになります。牛乳と混ぜることで、最終的にはアイスクリームができるわけです。

―詳しい製造工程はよくわかりませんが、面白いですね!

工房の倉庫には様々な種類の小麦がうずたかく積まれていた(筆者撮影)
工房の倉庫には様々な種類の小麦がうずたかく積まれていた(筆者撮影)

Alexandra Baekgaard Carstensen氏(以下、アレクサンドラ):ここに写真があります。余りのパンで作ったアイスクリームを、2019年8月に開催されるコペンハーゲンクッキング&フードフェスティバルで出展します(取材は2019年7月)。こちらは、そのために作った看板です。

開発段階のアイスクリームについて説明してくれた(筆者撮影)
開発段階のアイスクリームについて説明してくれた(筆者撮影)

アレクサンドラ:私たちは、人々が予想もしない、思いがけないものを創造できる、ということを示したいんです。

マーティン:foodpeopleの「革新性」と「創造性」が、ここで発揮されます。オーガニックな食材を使い、職人技で作られた、栄養豊富なパンが、捨てられることなく活用され、そしてアイスクリームになるわけです。このアイスは、まだ開発段階なので、市販はしていません。でも、将来はスーパーマーケットで販売したいと考えています。

コンテナに入れられているものは、廃棄せず、家畜の飼料にするそうだ(筆者撮影)
コンテナに入れられているものは、廃棄せず、家畜の飼料にするそうだ(筆者撮影)

マーティン:将来的には、食品ロスとなる規格外の食材などを原材料にして、新しい商品を生み出すことを目指しています。実験段階にとどまらず、商品化まで進めたいと考えています。

ヘーゼルナッツビールを作った残りのナッツでパンを作る!

アイスだけではなく、ケーキやビールも作っている。ヘーゼルナッツビールを作るために浸けていたナッツは、パンに使っているそうだ。

マーティン:2018年のコペンハーゲンクッキングフェスティバルでは、ビール会社のカールスバーグと協働しました。カールスバーグに、創始者の苗字である「ヤコブセン」を冠したブランドがあって、そのビールを作ることになったんです。

―それはすごい。

マーティン:職人技と食品ロス削減に関して高い注目が集まりました。パンとビールは、主原料が小麦という点が共通しています。発酵のためにイーストと水を使うのも一緒ですし、穀物を発酵させることも同じです。

―確かに。

マーティン:artisanというタイプのパンがあります。デンマーク国内のIrmaなどのスーパーで販売されています。その余剰のパンを使って、このビールを作りました。醸造場と、ビール工房の職人と、パン工房の職人が集まって、製品の味見をしながら、どんなものが作れるか話しあったんです。そのとき、ヤコブセン、カールスバーグでは、ヘーゼルナッツを使ったビールを製造することになっていたんです。

―ヘーゼルナッツですか!

マーティン:ヘーゼルナッツは高価ですし、とても味のいいものです。でも、ビールを作る工程で漬けられた後は捨てられてしまいます。ヘーゼルナッツビールを作った後の残りは、ビールに浸けられていて、なおさらおいしいだろうと思ったんです。それを廃棄してブタのエサになってしまうのはもったいない。そう考えて、ヘーゼルナッツをパンの材料に仕入れることにしたわけです。

マーティン:デンマーク語でリサイクルのことをgenbrugeというんですね。このパンの名前はigen。英語のagainみたいな感じで「もう一回」という意味。brodは、パン。つまり、食品ロスになってしまうものを活用して作った商品として売り出したんです。

マーティン:このパンの丸い形は、サーキュラーエコノミー(循環経済)を象徴する意味合いです。

丸い形をしたパン(筆者撮影)
丸い形をしたパン(筆者撮影)

マーティン:再利用されているヘーゼルナッツが、ここに入っているわけですね。

「ヤコブセン」のビール(右)と、ヘーゼルナッツを使ったパン(左)(筆者撮影)
「ヤコブセン」のビール(右)と、ヘーゼルナッツを使ったパン(左)(筆者撮影)

アレクサンドラ:普通のパンより小さめにしてあります。余っちゃって捨てられる食材をなくしたいからです。食べきれる量にしました。

マーティン:このパンがもし余ったら、ビールの原材料になる。スーパーで売られる。そうしたら、循環経済(サーキュラーエコノミー)になるんですね。食材が循環するわけです。

持続可能性の責任と社会への価値を担う

foodpeopleは、持続可能な製品づくりとともに、地元で作ることにもこだわっている。

マーティン:foodpeopleの製品は、経済的にも市場で闘うことのできる、持続可能な製品です。この工房では、革新性(クリエイティビティ)と職人技を大事にしています。食品ロスの問題を解決すると同時に、経済的に市場で持続可能に生き残っていけることを目指しています。そのためには、もちろん、味も良くなければなりません。このヘーゼルナッツは、ビールの中で発酵を経験しています。そして、パンの中でまた発酵を経験して、いいうまみを、パンの中でさらに引き立たせる役割を担っています。

ビールとパン作りについて説明するマーティンさん(右)とアレクサンドラさん(左)(筆者撮影)
ビールとパン作りについて説明するマーティンさん(右)とアレクサンドラさん(左)(筆者撮影)

マーティン:これは、ノアブロ地区というところにある小さな醸造所が作ったビールです。1~2週間に一度、我々のところにある、余剰のパンを引き取りに(仕入れに)来ます。地元で製造が行われること、つまり、地産地消にも力を入れています。ビールを作るときに穀物を煮て、漉して、その抽出液をビールに使います。その残りの穀物の殻を、またパン作りに活かします。

日本でいうところの、豆腐を作ったときに得られる副産物のおからを活かすようなイメージだろうか。

マーティン:持続可能な社会の構築に寄与したいと思っている企業はたくさんあります。SAS(スカンジナビア航空)の場合、機内食のパンは、持続可能な方法で作られたものです。

オフィスに展示されていたSDGsのロゴ(筆者撮影)
オフィスに展示されていたSDGsのロゴ(筆者撮影)

マーティン:こちらは国連の世界目標、SDGs(持続可能な開発目標)です。将来への責任ですね。社会への価値を担っていくということをfoodpeopleは標榜(ひょうぼう)していることを示しています。

アレクサンドラ:セリーナ・ユールさんが大使になって広めている、12.3の目標(2030年までに、小売・消費レベルで世界の食料廃棄を半減する)があるわけですね。それを自分たちfoodpeopleが実践しているというわけです。

アレクサンドラ:さきほどビール会社との協働の話をしましたが、ビール会社以外の企業とも協働体制をとっています。

アレクサンドラ:たとえば、ジュースを作っている会社では、果物のかすや、野菜かすが出ます。チーズを作る会社では、チーズを作ったときに副産物としてできる乳清のような液体が出ます。そのような、他の会社が製造したときの副産物を、我々で活用できないか、検討しています。カールスバーグやAmassといった会社とワークショップを開催し、オープンな形で自由にアイデアの交換をしたりもしています。

アレクサンドラさん(右)、マーティンさん(中央)、筆者(左)(ウィンザー庸子さん撮影)
アレクサンドラさん(右)、マーティンさん(中央)、筆者(左)(ウィンザー庸子さん撮影)

取材を終えて

アレクサンドラさんがfoodpeopleで働き始めたのは1年半前。以前は、クラウス・マイヤーさんという、noma(ノーマ)の創始者でもある方の開発部門でシェフとして働いていたそうだ。その職場で働けば、30人の食生活をより良くすることに貢献できるが、foodpeopleで働けば、もっと影響を与えられるスケールが大きくなると考えて、こちらに移ったそうだ。

foodpeopleは、職人技を生かした工房があり、クリエイティブで、持続可能な解決法を生み出すことができ、かつ、ボランティアではなく、市場経済でも競争力がある。「自分の希望や夢に近く、それを達成する場所だと考えた」とアレクサンドラさんは話してくれた。

多くの企業は、まず利潤を得ることを優先して考え、持続可能性は後回しにしてきた傾向があるかもしれない。また、日本の食品企業は、余剰食品を世に出すと、自社のブランドが毀損することを恐れ、処分してしまう傾向にある。でも、地球の持続可能性が危機的状況にある昨今、もう、そういう時代ではないだろう。

foodpeopleの事業を見ると、経済性、持続可能性、革新性、働く楽しさなど、多くのことを同時に実現できる可能性を感じさせられた。

アレクサンドラさん(左)、マーティンさん(中央)と筆者(右)(ウィンザー庸子氏撮影)
アレクサンドラさん(左)、マーティンさん(中央)と筆者(右)(ウィンザー庸子氏撮影)

謝辞

取材に際し、デンマーク語を日本語へ通訳して下さった、ウィンザー庸子氏に深く感謝申し上げます。