全国一!なぜ長野県は全国で最もごみが少ないのか

長野県の風景(筆者撮影)

食品ロスをテーマに活動していると、全国の自治体の廃棄物対策部門から講演に呼んで頂くことがある。事業者や家庭から出てくるごみは、食品の占める割合が多い。食べ物は水分を多く含んでおり、燃えにくく、重量が大きい。ごみを減らすことは、イコール、食品ロスを減らすことでもあるためだ。

環境省が毎年3月に発表している「1人1日あたりごみ排出量」の平成28年度実績によると、全国最少の都道府県が長野県。全国平均925g/人日を下回る、822g/人日である。なぜ長野県はごみ排出量が少ないのだろうか。

1、「“チャレンジ 800”ごみ減量推進事業」を始めとした県民運動

長野県は、2018年4月12日付のプレスリリースで、全国で最もごみ排出量が少ない理由として

市町村の一般廃棄物削減の取組、県民一人ひとりのごみ減量意識の浸透などが要因として挙げられます。

出典:2018年4月12日 長野県プレスリリース

と述べている。

具体的な県の取り組みとして、(1)「“チャレンジ 800”ごみ減量推進事業」 (2)「食べ残しを減らそう県民運動  e-プロジェクト」(3)「レジ袋削減県民スクラム運動」という3つの柱を挙げている。 

信州ごみげんねっとは、ごみを減らすための長野県の専門サイトだ。

宴会の食べ残しを防ぐ運動。元は福井県発祥で、そこに「30・10(さんまるいちまる)」と名付け、全国区に広げたきっかけを作ったのが長野県松本市だ。

第一回食品ロス削減全国大会は長野県松本市で開催された(筆者撮影)
第一回食品ロス削減全国大会は長野県松本市で開催された(筆者撮影)

このような取り組みが功を奏し、平成19年度には全国7位の少なさだったのが、平成20年度に5位、平成21・22年度に4位、平成23・24年度に3位、平成25年度に2位、平成26・27・28年度の3年連続で1位を保っている。

2018年4月12日 長野県プレスリリースより「県の取り組み」
2018年4月12日 長野県プレスリリースより「県の取り組み」

2、ごみ有料化やごみ記名式を採用する自治体が多い

長野県では、家庭から出す「燃やすごみ」と「プラスチックごみ」に有料の指定袋を使い、さらにその袋に氏名を書く「ごみ記名式」を採用している自治体が多い。

2018年6月5日付の西日本新聞の記事では、福岡県うきは市に住む女性が「ごみ袋に名前を書かなければならない」と戸惑っていることが報道された。

千葉県野田市に住む方のブログでも、野田市が記名式にしたことへの否定的な声があったと書かれている。この方は、全国の自治体で、ほかにも記名式を採用した自治体をリスト化しており、そこには長野県は挙げられていない。

だが、筆者の身内が住んでいる長野県東御(とうみ)市では、ごみや資源物の出し方として、何年も前から、指定袋や記名式を採用している。きちんと分別されていないと、廃棄物の回収業者が持って行ってくれない。

長野県東御市で各家庭に配布された「ごみの捨て方」(筆者撮影)
長野県東御市で各家庭に配布された「ごみの捨て方」(筆者撮影)

日報ビジネス株式会社のサイトには、全国ごみ自治体リンクがあり、全国の自治体のごみ収集に関するサイトのリンクがまとめられている。

一方、全国の市民からは、ごみに名前を書かせるのは「プライバシーの侵害」という声も聞かれる。

これについて、弁護士の竹下正己氏は、

自治体の実態により、ゴミ分別などのルールが地域社会に定着するまでは、名前明記もやむを得ない場合もあると思います。

住民は市町村のゴミ収集の清掃事業に対する協力義務がありますので、自治体からゴミ袋に名前を書くことを「お願い」される程度は受忍限度内でしょう。

出典:【法律相談】ゴミ袋への名前記入要求 応じる必要は? 2018年7月30日付 News ポストセブン

と回答している。有料化すること、記名式にすることで、一人ひとりがごみに対して責任を持つことになる。

3、コンポストが日常

生ごみや落ち葉などを堆肥化させる「コンポスト」は、長野県内の可能な家庭で実施されている。

長野県のホームページではダンボールコンポストの作り方が紹介されている。

筆者の身内は、緑色のコンポスト容器を使い、畑で堆肥化している。

4、ごみ排出量の少ない自治体が平均値を押し下げている

上記の取り組みの結果として、長野県内の人口10万人未満の自治体では、ごみの排出量が著しく少ない。平成28年度の環境省発表の実績で、人口10万人未満の区分で全国2位の少なさを誇る川上村は、1人1日あたりのごみ排出量が、302.7g/人日 だ(下記の表、左)。

リデュース(1人1日当たりのごみ排出量注26)取組の上位10位市町村(環境省 2018年3月発表 平成28年度実績)
リデュース(1人1日当たりのごみ排出量注26)取組の上位10位市町村(環境省 2018年3月発表 平成28年度実績)

川上村では、生ごみの堆肥化を積極的に行なっている。

川上村では、住民の皆さんにお願いをして、細かいごみの分別を行っています。分別にご協力していただいていることで、排出されたごみを固形燃料化したりするなど、できる限りリサイクルするようにしています。

また、生ごみ処理機購入費補助金制度を継続し、生ごみの自家処理をお願いすることで、ごみの排出量の大幅な削減を実現しています。

出典:信州ごみげんねっと 川上村

筆者は2018年9月18日、群馬県主催のごみ減量フォーラムで基調講演とパネルディスカッションを行った。群馬県は、47都道府県中、ごみの少なさでは43位。以前のワースト3位から脱却して、現在、ワースト5位だ。

群馬県で最も少ない甘楽町(かんらまち)では590g/人日である反面、最も多い自治体の草津町は2,283g/人日。その次に多い片品村が1,436g/人日なので、最も多い草津町と2番目に多い片品村との間だけで、1,000g(1kg)近い差が出ている。この圧倒的な多さは、群馬県全体の平均値を押し上げる一因になっているだろう。

群馬県主催の講演では、草津と同様、箱根もごみ排出量が多い自治体の一つだと、群馬県職員の方から発表された。ただ、草津や箱根と並んで観光都市である京都府は、全国で5位の少なさ(845g/人日、平成28年度実績)。生活系収集可燃ごみに至っては、京都府は全国一少ない(183g/人日、全国平均415g)。「観光都市だから仕方がない」という言い訳は、京都を見る限り、立てられない。

都道府県全体の平均値を、押し上げるのも押し下げるのも、一つ一つの市区町村の数字であると考える。

長野県上田市で開催された信州上田丸子夏期大学で講演する筆者(主催者撮影)
長野県上田市で開催された信州上田丸子夏期大学で講演する筆者(主催者撮影)

5、乾物文化

長野県の食文化の一つとして「乾物」が挙げられる。気温の低い日に作る「しみ豆腐(高野豆腐)」や、豊富に採れる果物類を乾かしたドライフルーツ、舞茸やえのき茸などのきのこ類を乾燥させたものなど。乾物は、食べられる期間を延長し、食品ロスを減らすのに貢献する。

長野県の温泉施設、御牧(みまき)の湯で販売されている、乾燥させたりんご(筆者撮影)
長野県の温泉施設、御牧(みまき)の湯で販売されている、乾燥させたりんご(筆者撮影)

6、真面目で几帳面な県民性

筆者の母方の祖父は長野県松本市の出身だ。92歳まで生きた。晩年、東京から故郷の松本市まで、誰の手も借りずに足を運んだ。

長野県は「教育県」とも言われ、真面目で几帳面な県民性を持っていると感じる。長野県の方言で「ずく」というのがある。「ずくがある」「ずくなし」という言い方があるが、「ずく」とは、やる気や、面倒がらずにやる姿勢などを指す。

長野県内の施設に掲示された「ずくだして変わろう」ポスター(筆者撮影)
長野県内の施設に掲示された「ずくだして変わろう」ポスター(筆者撮影)

かつて、塩分摂取量が多かった長野県だが、減塩の取り組みが功を奏し、今では「ピンピンコロリ」と称される、全国トップクラスの長寿県となった。

長野県の佐久総合病院で名誉総長となった、医師の故 若月俊一氏は、県内の地域医療に貢献し、現在の健康診断制度の礎を築いたと言われる。

このほか、「あるを尽くして」という文化を挙げている方もいる。「その場にあるものを食べ尽くす」という意味だそうだ。キリンビールの長野支店は、2017年10月、長野県の信濃毎日新聞に「あるをつくして。」という一面広告を出している。

第56回 信州上田丸子夏期大学(広報うえだ 2018年8月1日号より)
第56回 信州上田丸子夏期大学(広報うえだ 2018年8月1日号より)

2018年9月4日、筆者は、56年間続いているという、信州上田丸子夏期大学に登壇した。ちょうど開催の時間帯は、大阪近辺で大きな被害をもたらした台風が、長野県に最も近づいている時間だった。それにもかかわらず、110名以上の方が集まってくださった。毎回必ず参加する勉強熱心な方も大勢いらっしゃるそうだ。

信州上田丸子夏期大学で登壇する筆者(主催者撮影)
信州上田丸子夏期大学で登壇する筆者(主催者撮影)

ごみの減量には住民一人ひとりの努力が欠かせないが、このような県民性も寄与しているのではないだろうか。

以上、つたない分析で恐縮だが、長野県が、全国47都道府県の中でも最もごみ排出量が少ない理由を考えてみた。学術的には違う見方があるだろうが、ここ20年以上、毎年、長野県に通った経験から、あるいは食品ロスを減らす活動を通して感じたことを挙げてみた。

消費者は「自分の消費がどのような影響を環境に与えるかを理解する責任」がある

私たち消費者は、とかく権利を訴えがちだが、消費者には権利と同時に責任がある。

IOCU(世界消費者機構)が1983年に決定した、消費者の8つの権利と5つの義務がある。5つの義務のうち、4つめに挙げられているのが環境への自覚:自分の消費がどのような影響を環境に与えるかを理解する責任だ。

朝日新聞の投書欄に、次のような意見があった。

東京都内の自治体からゴミ収集業務を受託している会社で働いています。最近つらいのが、作業中に一部の住民からひどい言葉を浴びせられることです。「臭いから早く持っていけ」と言われたり、「勉強をしないから、こんな仕事をすることになる」と周囲に向かって大きな声を出されたりします。理不尽な暴言には反論したいのですが、上司は仕事を失うことを恐れて委託元の自治体には伝えず、「我慢してくれ」と言うばかりです。今は仲間内で愚痴を聞いてもらうよりなく、やりきれません。

(東京都・30代男性)

出典:朝日新聞 2018年9月17日付 職場のホ・ン・ネ

罵声を浴びせた住民は、消費者の責任を自覚していないのだろう。

入れる(インプット)と出す(アウトプット)を繰り返し、私たちは生きていく。出すものに対し、責任を持つ人でありたい。その一人ひとりが、ごみの少ない、食品ロスの少ない世の中を作っていく。

環境省 2018年3月発表 一般廃棄物処理事業実態調査の結果(平成28年度)