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「数合わせなんてしない 自分が食べて美味しいものを」毎朝4時に社長自ら仕入れに出向く地域密着スーパー

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
福岡県柳川市で地域シェアナンバー1のスーパーまるまつ(2017年6月 筆者撮影)

国の障害者雇用人数の水増しが、中央省庁のおよそ80%にのぼっている。不適切に参入していたのは3460人。実態はないのに数だけ合わせていた「数合わせ」が横行していたことになる。中央省庁だけではなく、全国の裁判所でも雇用を水増ししていたと、TBS Newsで報道された(2018年8月29日午前11:21)。

「数合わせ」で思い出したのが、福岡県柳川市にあるスーパーまるまつを取材した時のことである。

福岡県柳川市のスーパーまるまつ(2017年6月、筆者撮影)
福岡県柳川市のスーパーまるまつ(2017年6月、筆者撮影)

日本の食品業界では、「欠品を許さない」という商慣習がある。メーカーが小売に対して欠品を起こすと、ペナルティ(補償金)が科せられる。悪ければ取引停止だ。実際、複数のメーカー社員に聞いてみると「欠品は絶対できないですね。取引停止になるから」と答える。

このような、欠品にペナルティを課すことは、メーカーの作り過ぎにつながり、ひいては「食品ロス」になってしまう。

スーパーまるまつでは、欠品を許容している。実際、取材に行った時も、商品棚には多くの空きが見られた。

スーパーまるまつの商品棚(2017年6月、筆者撮影)
スーパーまるまつの商品棚(2017年6月、筆者撮影)

欠品を許すのは加工食品だけではない。生鮮食品も同様で、魚なども、海が時化て獲れない時、早朝の市場には、前の日以前に獲れた魚が高値で並ぶ。そんな時、社長は、わざわざ買わないという。なぜなら「古くて高くて不味い魚をお客さんに買わせることになってしまうから」。

取材日の前日、16時ごろに下見に行った時、刺身の多くが売れており棚に空きが出ていた(2017年6月、筆者撮影)
取材日の前日、16時ごろに下見に行った時、刺身の多くが売れており棚に空きが出ていた(2017年6月、筆者撮影)

しかし、どんなに新鮮な魚が無くとも、大手小売は古くても高くても買って行くのだそうだ。

「数合わせ」のために。

大手スーパーの言い分は「無いとお客様に迷惑をかけてしまうから」。

欠品しても数が無くても「地域シェアナンバーワン」

スーパーまるまつがある福岡県柳川市は、高齢化が進んでおり、人口は減少している。近くにはショッピングモールも建設され、競合店が7店ほどある。しかし、そんな中、スーパーまるまつは、シェアナンバーワンを誇っている。地域のお客に支持されている。これは、顧客が必ずしも「欠品が無いこと」を重視していない証明ではないだろうか。

スーパーまるまつの野菜は地元福岡県産のものが多い。もしくは九州産(2017年6月、筆者撮影)
スーパーまるまつの野菜は地元福岡県産のものが多い。もしくは九州産(2017年6月、筆者撮影)

スーパーまるまつの社長は、毎朝4時に起きて、野菜や魚を仕入れに行く。自らが美味しいと思うものを仕入れるのだ。紙のチラシは打たない。数千万円のコストがかかるためだ。その分、ポイントカードのお客様に、新鮮で美味しいものを安く提供してあげたいと言う。

ツヤツヤして目が綺麗で新鮮な魚がお手頃価格で販売されているスーパーまるまつ(2017年6月、筆者撮影)
ツヤツヤして目が綺麗で新鮮な魚がお手頃価格で販売されているスーパーまるまつ(2017年6月、筆者撮影)

見かけを大事にするのか、それとも「実」を重要視するのか。

今回の、障害者雇用人数「数合わせ」の横行で、本当に人のためのことを思って仕事をしているのか、それとも見かけだけを繕い自己保身のために仕事をしているのか、仕事に向き合う姿勢が透けて見えるような気がした。

参考記事:

食品ロスを生み出す「欠品ペナルティ」は必要? 商売の原点を大切にするスーパーの事例

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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