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年間110万人の修学旅行生が訪問する京都市に聞いた 宿泊先で捨てられる夕食の食べ残しの実態

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

京都市には、年間約110万人もの修学旅行生が訪れるという。先日、取材に伺った京都市環境政策局循環型社会推進部ごみ減量推進課より、修学旅行の宿泊先で、食べきりの声掛けの有無により、食べ残しがどう違うか、食べ残し削減効果の検証結果について伺った。

調査は、昼間の行動が似ており、夕食に同じメニューが提供される小学校2校を対象に行なった。

提供される夕食のメニューは次の通り。

ある旅館で提供される小学生向け夕食の例(京都市環境政策局ごみ減量推進課より提供された資料の写真を筆者がスキャンしたもの)
ある旅館で提供される小学生向け夕食の例(京都市環境政策局ごみ減量推進課より提供された資料の写真を筆者がスキャンしたもの)

陶板焼(豚肉・茄子・人参・青唐)

揚げもの

玉子豆腐

うどん

六角弁当(煮物・牛しぐれ煮・ハンバーグ・海老シュウマイ)

吸物

チョコレートクリームショートケーキ

香の物

白飯(おひつで提供)

以上

提供量合計 574.0g

対象の2校のうち、1校については、夕食のあいさつ時に、生徒から、なるべく残さず食べようという趣旨の声掛けをしてもらった。

食事の後、食べ残った食事の量を計測し、2校を比較した。

食べ残し量計測の様子(京都市環境政策局ごみ減量推進課提供)
食べ残し量計測の様子(京都市環境政策局ごみ減量推進課提供)

結果は次の通り。

京都市環境政策局ごみ減量推進課より頂いた調査結果
京都市環境政策局ごみ減量推進課より頂いた調査結果

声をかけた場合(左)は、白飯以外の食べ残し量が一人当たり53.5g(残食率9.3%)、声をかけなかった場合は一人当たり79.5g(残食率13.9%)と、声をかけた方が食べ残し量は少ない結果となった。

声掛けのあった場合の食べ残し状況(京都市環境政策局ごみ減量推進課発表資料より)
声掛けのあった場合の食べ残し状況(京都市環境政策局ごみ減量推進課発表資料より)

この結果について、京都市は、次のようにまとめている。

○ 白飯以外の食べ残し量について,なるべく残さず食べようという主旨の声掛けを 行った場合と,行わなかった場合の1人当たりの食べ残し量を比較すると,声掛けを行うことで,約3分の2(約 26g/人減)となった。「京都エコ修学旅行」の取組としての「声掛け」による効果が大きいことがわかった。

○ 白飯の食べ残し量についても,取組校が比較対象校に比べて約 6g/人少なく,「声掛け」による効果があることがわかった。

○ 宿泊施設では,1 人当たりの白飯の標準量を決めているが,不足が起きないよう多めに設定されており,この標準量を実際に食べられている量に近づけることで 廃棄ロスを削減できる可能性がある。

出典:京都市廃棄物減量等推進審議会 第6回 循環型社会・ごみ半減をめざす 条例・プラン推進部会 配布資料(京都市環境政策局ごみ減量推進課より提供)

小学生の修学旅行の夕食時、声掛けすると、しない場合に比べて食べ残し量が3分の2になることがわかった。

京都市は、複数回にわたって、成人対象の宴会でも、声掛けの有無による食べ残し量の削減効果について実証実験を行なってきている。

2018年6月6日発表の結果でも、居酒屋での7回の宴会で、「もったいないをなくそう」という主旨の声掛けをした場合としなかった場合とで食べ残しを比較し、声掛けしなかった場合に比べて5分の1に減ることがわかった。

声掛けにはコストはかからない。ぜひ、宴会や飲み会の時には「食べきろう」と声掛けしていきたい。

京都市は食べ残しゼロ推進店舗が800店を超えている(京都市HPより)
京都市は食べ残しゼロ推進店舗が800店を超えている(京都市HPより)

宿泊施設は小学生が無理なく食べきることのできる量を

ただ、指摘しておきたいのは、宿泊施設が提供する量が多いということである。食事の栄養計算を行なったことのある人なら、前掲の夕食のエネルギー(kcal:キロカロリー)は、優に500kcalを超えていることが予想できるだろう。京都市によれば、女の子の多くがショートケーキを残していたという。ケーキが好きな子が多いであろうが、それすら残すということは、小学生にとっては多いのではないか。宿泊施設側も、競合と比べて「うちはおかずが1品多いですよ」といった、品数の多さで競い合う面もあるという。

食べきるのは大事だが、無理に食べて気持ち悪くなったりお腹が痛くなったりするのでは本末転倒だ。宿泊施設側には、小学生が食べきることのできる夕食量を提供して頂きたい。それは、宿泊施設側にとっても、原材料費と廃棄コストの削減というメリットにも繋がるはずだ。

年間110万人が訪れているのなら、この食べ残し量も相当なものになると思われる。が、驚いたのは、環境省が毎年3月に発表している、自治体の、一人一日当たりのごみ発生量で、京都市は全国で4位の少なさなのだ(人口50万人以上の区分において)。家庭から出るごみと、宿泊施設を含めた事業者から出るごみを合算し、それを人口で割り算する値だ。

京都市のごみ発生量(京都市環境政策局ごみ減量推進課発表資料より)
京都市のごみ発生量(京都市環境政策局ごみ減量推進課発表資料より)

修学旅行生のみならず、成人の観光客が国内外から訪問する京都市。先日、読売新聞(2018年5月31日付)が、「京都市ごみ減量 停滞期」と報じていたが、これだけ膨大な観光客と修学旅行生を受け入れてなお、全国トップレベルの少なさを誇るのは評価すべきではと感じた。

京都市 ごみ量の経時変化(京都市部会配布資料)
京都市 ごみ量の経時変化(京都市部会配布資料)

なお、この詳細については、2018年6月6日に開催された、京都市廃棄物減量等推進審議会 第6回 循環型社会・ごみ半減をめざす 条例・プラン推進部会で発表された。概要については、2018年6月6日、京都市の公式サイトで広報資料として公開された。

参考資料:

京都市 2018年6月6日発表【広報資料】(お知らせ)平成29年度ごみ減量メニューの実践による食品ロス削減の効果検証結果について

京都市 2018年5月16日発表【広報資料】平成29年度のごみ量について

観光客増、ごみ減量達成厳しく 京都市、外国客に削減呼び掛け(京都新聞 2018年6月4日付)

公益社団法人京都市観光協会 2018年5月31日発表「平成 30 年(2018 年)4 月の外国人客宿泊状況調査」について

公益社団法人京都市観光協会 きょうと修学旅行ナビ

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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