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東京マラソン2018の裏側 ランナー向け飲食物を追ってみた

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
東京マラソン2018表彰式(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

ランナーのための飲食物 余ったらどこへいくのか

2018年2月25日、第12回となる東京マラソンが開催された。国内では年間2,000以上のランニングイベントが開催されるというが、その中でも、毎回、抽選が行われるほど人気の大会だ。今大会も36,000人近くが参加した。2017年2月26日に開催された第11回では33,974名が完走している。

今大会では設楽悠太選手が2時間6分11秒で16年ぶりの日本新記録を出し、各紙がこぞって報じている。どのメディアも、注目するのは設楽選手のタイムや優勝者だ。が、マラソン大会を走るランナーを支えている飲食物に光が当てられることはほとんどない。

マラソンで余った食べ物のゆくえについて、東京マラソンの第3回(2009年)から第8回(2014年)までについては、筆者は、その答えを知っている。2013年には、大量に余った食べ物も目にしている。が、2015年以降についてはフォローしていない。今回、東京マラソンの現場に行き、コースのポイントをたどって飲食物を見つけてみることにした。

東京マラソンのコース中、8つの収容関門を順にたどる

スタート地点は東京都庁。スタート時刻には間に合わなかったが、観戦者の投稿をみると、ランナーに飲食物を提供する「エイドステーション」があり、一般社団法人築地市場協会の方々が青い防寒着と黄色い帽子を身につけて、みかんなどが提供されていたようだ。 カゴメの公式サイトでは参加人数の2倍に相当する70,000個ものトマトを配るという記述もあるし、2017年の大会で5万本以上のバナナを配っているドールは、2017年12月からランニング施設でキャンペーンを実施している。

42.195kmのコースのうち、8つの「収容関門」と呼ばれる地点が設けられている。通過制限時刻が設けられており、それを過ぎると閉鎖される。東京マラソンでは2〜3kmごとにエイドステーションがあり、22kmを過ぎると食べ物が置かれているという。22km以降のそのポイントだけを追うのでもよかったが、せっかくなので、収容関門を順に追っていくことにした。

JR飯田橋駅前の交差点には東京マラソンのための交通規制の垂れ幕が掲示されていた(筆者撮影)
JR飯田橋駅前の交差点には東京マラソンのための交通規制の垂れ幕が掲示されていた(筆者撮影)

5.6km収容関門 飯田橋セントラルプラザ前

最初の関門は、5.6km地点、飯田橋セントラルプラザ前で、午前10:30。JR飯田橋駅から歩いて行くと、どのランナーも無事に通過できたようで、交通規制も解除されようとしていた。飲料などはすでに片付けられた後だった。

飯田橋セントラルプラザ前の交差点(筆者撮影)
飯田橋セントラルプラザ前の交差点(筆者撮影)

9.9km収容関門 日本橋南詰

次は9.9km地点、日本橋南詰。東西線で、飯田橋駅から日本橋駅へと移動する。ショッピングビル、コレド日本橋の中は、応援を終えた人もたくさんいた。エイドステーションの場所について、沿道に立っていたスタッフの方に尋ねたところ、「一時間前にもう片付けてしまいました」とのことだった。

14.6km地点、駒形橋西詰交差点

次に向かうのは14.6km地点、駒形橋西詰交差点。都営浅草線で日本橋駅から浅草駅まで移動する。観光客も相まってか、降車してから地上に出るまでが混みあっていて、なかなか出られない。でも、日本橋に比べてランナーと応援者との距離が近い気がした。まだ給水ポイントは見つからない。

駒形橋西詰交差点付近で応援する人たち(筆者撮影)
駒形橋西詰交差点付近で応援する人たち(筆者撮影)

25.7kmの浅草橋交差点

その次の19.7km、深川一丁目交差点は電車で移動しづらいため飛ばして、25.7kmの浅草橋交差点へ向かった。都営浅草線で浅草橋駅へ。浅草橋駅を降りると、降車客の出口についての録音されたアナウンスが繰り返し流されていた。駅によってはメガフォンを持った人が声を枯らして「左側通行にご協力お願いします」と繰り返していたので、浅草橋駅の録音方式は効率的だと感じた。

浅草橋駅を出ると、ようやく、ランナー向けの飲料が配られている様子を目にすることができた。大塚製薬が提供するポカリスエットだ。大塚製薬は、東京マラソンの初回から協賛を続けている。商品開発もそうだが、息の長い活動をコツコツと続けていく企業姿勢を感じる。

大塚製薬のポカリスエットが提供されていた(筆者撮影)
大塚製薬のポカリスエットが提供されていた(筆者撮影)

給水ポイントが3箇所以上に分かれており、1つのポイントごとにスタッフが10名以上待機し、ダンボール箱から出したポカリスエットを次々紙コップに入れていく。

100名近いスタッフが数カ所に分かれてポカリスエットを紙コップに注いで配る(筆者撮影)
100名近いスタッフが数カ所に分かれてポカリスエットを紙コップに注いで配る(筆者撮影)

給水ポイントが一箇所ではなく、数カ所、この先もある、ということが、ランナーにわかりやすく表示されている。

給水ポイントが数カ所あることがランナーにわかりやすく表示されている(筆者撮影)
給水ポイントが数カ所あることがランナーにわかりやすく表示されている(筆者撮影)

ボランティアスタッフの中に黒い防寒着を着た「ボランティアリーダー」がいて、あちらこちらで指示を出している。ゴミはしっかり回収されている。

ボランティアリーダーとともにゴミを回収するスタッフ(筆者撮影)
ボランティアリーダーとともにゴミを回収するスタッフ(筆者撮影)

浅草橋江戸通りの須賀橋交番前(東京都台東区)は、これまで廻ってきた中で、一番応援しやすいポイントだと感じた。歩行者用の道幅が広いし、ランナーとの距離が近く、よく見える。コスプレのランナーや応援者も多く見られた。

カラフルなカツラを被った応援者たち(筆者撮影)
カラフルなカツラを被った応援者たち(筆者撮影)

30.1km地点の数寄屋橋交差点

次は30.1km地点の数寄屋橋交差点へ。都営浅草線で東銀座まで移動し、そこから日比谷線に乗り換えて銀座へ。

新幹線が西へ向かって走る、その下を走るランナーたち(筆者撮影)
新幹線が西へ向かって走る、その下を走るランナーたち(筆者撮影)

数寄屋橋交差点は、新幹線が通るのが見える。ゴミ袋を持ったスタッフが待機していた。

数寄屋橋交差点付近でゴミ袋を持って待機するスタッフ(筆者撮影)
数寄屋橋交差点付近でゴミ袋を持って待機するスタッフ(筆者撮影)

34.2kmの札ノ辻交差点

次は34.2kmの札ノ辻交差点。JR田町駅、三田駅からすぐのところだ。ランナーと応援者との距離が近い。交差点に向かうランナーと、交差点を経てゴールに向かうランナーとが相対する。「シャンシャン」のタスキをかけたパンダが沿道で応援していた。

「シャンシャン」のタスキをかけて応援するパンダ(筆者撮影)
「シャンシャン」のタスキをかけて応援するパンダ(筆者撮影)

39.3kmの新橋四丁目交差点に行く予定だったが、電車の切符が買えなくて困っている外国人を見かけたので、案内していたら時間がかかったため、省略。彼女はメキシコから、日本に初めて来たとのこと。田町駅の女子トイレには、応援に使われた後のグッズが捨てられていた。

JR田町駅の女子トイレに放置されていた応援グッズ(筆者撮影)
JR田町駅の女子トイレに放置されていた応援グッズ(筆者撮影)

ゴールは東京駅前、行幸通り

フィニッシュは東京駅前、行幸通り。ゴールに近い沿道は声援を送る人でギュウギュウだった。

ゴールに近い沿道は声援を送る人でいっぱいだった(筆者撮影)
ゴールに近い沿道は声援を送る人でいっぱいだった(筆者撮影)

この辺はどこもスタッフが立っており、ランナーに近づくことができない。丸ビルの裏側、二重橋駅、電車に乗って日比谷公園まで行ったが、どこもランナーと応援者とが隔絶されている感じだった。安全管理上、仕方がないのだろう。飲食物の置いてあるポイントに近づくことはできなかった。

コスプレの応援者たち(筆者撮影)
コスプレの応援者たち(筆者撮影)

一般ランナーが荷物を受け取り応援者と待ち合わせする日比谷公園へ

東京マラソンは36,000人近くが参加するため、終わった後にランナーが荷物を受け取り、家族らと待ち合わせする場所は、ゼッケンの色ごとに分けられている。一般ランナーが荷物を受け取る地点である日比谷公園では、入り口で荷物検査が行われていた。カバンの中身を見せて、ボディチェックを受ける。数十名が並ぶ三列以上で行列していた。

日比谷公園で荷物検査と身体検査を待つ応援者たち(筆者撮影)
日比谷公園で荷物検査と身体検査を待つ応援者たち(筆者撮影)

日比谷公園ではアサヒホールディングスがアルコールフリーのアサヒスーパードライを配っていた。

アサヒホールディングスのスーパードライフリーが配られた(筆者撮影)
アサヒホールディングスのスーパードライフリーが配られた(筆者撮影)

帰って来たランナーが持っているのは、山崎製パンの名前が入った透明のバッグ。

ランナーに配られた山崎製パンのブランド名が入ったバッグ。山崎製パンのランチパックや大塚製薬のカロリーメイトが入っていた(筆者撮影)
ランナーに配られた山崎製パンのブランド名が入ったバッグ。山崎製パンのランチパックや大塚製薬のカロリーメイトが入っていた(筆者撮影)

そこに、大塚製薬のカロリーメイトやポカリスエットなどが入っていた。大塚製薬は東京マラソンの初回から東京マラソンへ製品を提供しており、山崎製パンはプレスリリースでランチパックを28,000個配ることを発表している。加工食品であれば、余ったものは、また別の機会に活用できるだろう。山崎製パンのパンは、日持ちしない食品だが、参加人数の36,000人より少なめに提供しているところに好感が持てた。

参加者に聞いたところ、スタート地点からゴールまで「腹がはちきれるくらい」食べ物が準備されていたそうだ。

大塚製薬のカロリーメイトや山崎製パンのランチパックが配られた(筆者撮影)
大塚製薬のカロリーメイトや山崎製パンのランチパックが配られた(筆者撮影)

2009年から2017年まではフードバンクに寄付されている

冒頭で書いた通り、東京マラソンで余った食べ物がどこへいくか、筆者は知っていた。初回の東京マラソンで配られた食べ物は、数が限られていたそうだ。足の速い人の分はあったが、後から来た人の分が足りない。その人たちはコンビニに駆け込むことになった。そこで、次からは飲食物を増やしたという。増やすと、今度は余る。そこで、2009年の第三回からは、筆者が広報を務めていたフードバンク、セカンドハーベスト・ジャパンと連携し、ゴール地点付近でトラックで待機し、余ったバナナや飲食物などを引き取り、食品ロスにせずに炊き出しや福祉施設への寄贈などで活用してきた。

今回の2018年大会について、大会翌日、セカンドハーベスト・ジャパンに問い合わせてみたところ、「いつもバナナがたくさん余るので、昨年までは(頂いたことを)確認できているが、今年は確認できていない」とのことだった。大会の翌々日にも連絡したが、確認が取れなかった。

東京マラソンのボランティア事務局にも大会翌日に電話したところ、「調べて折り返します」とのお返事を午前10時台に頂いた。昼までに携帯電話、午後になる場合は留守電に入れて頂くことをお約束いただいたが、お返事はなく、大会翌々日までの2日間、調べた結果をお待ちしたが、回答をいただくことはできなかったため、今年の余った食べ物のゆくえについてはわからなかった。

確か、昨年の京都マラソンでは、余った食品をフードバンクに寄付していたはずだ。そこで、京都マラソンの公式サイトを調べてみた。

一週間前の京都マラソンではフードバンクに提供されていた

東京マラソン2018開催の一週間前、2018年2月18日。京都マラソンでは、余った食べ物がセカンドハーベスト京都とフードバンク京都の2つのフードバンク団体に引き取られていた。この試みは2017年から始まっているそうだ。

京都マラソンで余った食品をフードバンクに寄付し必要なところへ寄付するイメージ図(京都マラソン公式サイトより引用)
京都マラソンで余った食品をフードバンクに寄付し必要なところへ寄付するイメージ図(京都マラソン公式サイトより引用)

エコ対策、環境保護の取り組みは京都マラソンが突出して優れている

京都マラソンのフードバンクへの取り組みを調べていたら、京都マラソンの環境対策は、フードバンクへの余剰食品寄贈にとどまらなかった。マイボトルへの水分補給、カーボン・オフセット、エコイベント、ノーマイカーデー、印刷物のできる限りのペーパーレス化、当日使われたボランティアウェアの回収・リサイクル、水素車「ミライ」の導入、リユースできるゴミ箱、リサイクル資源である小型家電からのメダル作成、など。

環境対策だけでなく、復興支援のための活動も活発で、被災地への寄付や、被災地三県で開催されるハーフマラソン大会との連携、亡くなった方のご冥福と被災地の復興を祈っての黙祷も行なわれていた。

筆者は、常々、京都市の食品ロス削減やゴミ半減対策について、拙著『賞味期限のウソ』や記事、講演を通して賞賛して来たが、京都マラソンでもここまでとは知らなかった。

交通規制だけでなく、マイカーを使わない移動を積極的に呼びかける京都マラソンの告知(京都マラソン公式サイトより引用)
交通規制だけでなく、マイカーを使わない移動を積極的に呼びかける京都マラソンの告知(京都マラソン公式サイトより引用)

マラソン大会の環境負荷についても考慮し報じるべきではないか

今回、東京マラソンのコースを辿ってみて、すさまじい数の人の努力や事前準備があってこそ、この大会が成り立っていることを実際に感じることができた。スマートフォンに入れている歩数計アプリによれば、筆者の歩いた距離は13.66km。かかった時間は3時間24分、歩数は18,659歩、570kcalのエネルギーを消費した。あれだけ大きな大会を開催し終えた翌日、ごく普通に平常通りに戻っていることも奇跡的だ。一つの組織だけではとてもではないが成し得ない。全ての関係者に対して敬意を表したい。

食品業界には「欠品を許さない」という暗黙の了解があるが、マラソン大会でも、欠品(足りなくなること)を防ぐため、多めに食べ物が用意されるという背景がある。大会当日の天候の具合で余る場合もある。需要と供給をゼロにするのは難しいだろう。だが、少しでも余りを少なくしたり、余ったものを捨てないで活用したりして、無駄を出さない、捨てるものを少なくすることはできると思う。

参考記事:

食品ロスを生み出す「欠品ペナルティ」は必要? 商売の原点を大切にするスーパーの事例

東京マラソンは、現時点でもいくつかの社会貢献事業をおこなっているが、来年以降は、そこからさらに発展し、2030年までに達成するSDGs(持続可能な開発目標)を考慮した東京マラソンが実現できれば素晴らしいと感じた。

参加・観戦するわたしたちは、マラソンの順位や記録だけをみるのだけでなく、環境負荷についても考え、京都マラソンを一つのロールモデルとして、優れた点を見習っていきたい。また、メディアは、マラソン大会の順位や記録だけでなく、華やかな大会の陰に隠れている、こうした側面についても光を当てて報じて欲しい。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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