NHK「ガッテン!」葉酸特集をご覧になった方へ

(写真:アフロ)

2018年1月17日に放映された、NHK「ガッテン!」。「動脈硬化&認知症からカラダを守れ!」と題し、ビタミンB群の一つである「葉酸(ようさん)」という栄養素が特集された。放映後にインターネット上の書き込みを見ていたところ、気になったことがあるので、番組をご覧になった方に伝えたいことをまとめてみる。

1、葉酸だけ摂ればいいのではない

番組放映後にインターネット上の書き込みを見たところ、「早速、明日は葉酸サプリを買いに行こう」「葉酸って、こんなによかったんだ」などの意見が見られた。中にはメディア側の方がブログで賞賛している例も目にした。

NHK「ガッテン!」の特集は、葉酸という一つの栄養素の、たくさんある効能の中の、一つにフォーカスしたものだ。実際は「○○を摂れば、○○になる」といった単純な話ではないが、限られた時間でわかりやすく伝えるために、そのような番組構成になっている。

「葉酸」は、ビタミンB群の一つで、ビタミンB12(「12」は下付で実際は小さく右下に表記する)と共に、血液を作るのに役立つ、水に溶ける(水溶性)ビタミンだ。ビタミン類は、体の中で、互いに協力しあって働く。葉酸と関連が深いのがB12だが、ビタミンB群は、どれか一つを単独で摂るより、まとめてまんべんなく摂る方がいい。葉酸だけを大量に摂取しても、他のビタミン類が充分でないと、きちんと働かない。逆に、ビタミンCのサプリなどを大量に摂取しても、葉酸の必要量は増える。番組中では、摂取の上限値に触れられていなかったが、栄養機能食品の制度では、葉酸の上限値も下限値も決められている。

ビタミンB群を総合的に含んでいる食品の一つが全粒穀物(精製していない穀物)だ。例えば玄米や全粒小麦など。

2、「サプリ摂ればOK」ではない

放映後や今朝にかけて、葉酸のサプリメントのネット上での広告が増えている。だが、番組の最後でも過剰摂取しないようにと呼びかけていたように、たくさん摂り過ぎはよくない。普通の食品であれば、たくさん食べると満腹感が得られるが、サプリメントは、過剰摂取しても満腹感が得られないため、知らずに摂り過ぎていることがある。筆者がかつて食品メーカーのお客様対応業務を5年間兼任していた際、米国からサプリメントを通販で購入し、毎日摂っているという女性から問い合わせがあった。摂取量を聞いてみると、日本人に推奨された値の4倍のビタミンAやビタミンDを摂取していた。ビタミン類の中でも、AやDは油に溶けるビタミン(脂溶性ビタミン)で、過剰摂取すると、尿中に排泄されず、頭痛や吐き気などの副作用が生じることがある。

番組で紹介されていた埼玉県坂戸市の葉酸プロジェクトは、筆者もかつて通っていた大学院のある女子栄養大学と坂戸市が共同で、長年かけて進めてきたものだ。葉酸が強化されたパンやどら焼きが紹介されていたが、これがいいのは、葉酸だけを単独で摂るのでなく、もともと原料の小麦に含まれている他のビタミンB群と一緒に摂取できる点である。筆者が勤めていたグローバル食品企業でも、ビタミンB群を総合的に含む全粒穀物を使ったシリアルに葉酸が強化されていた。

3、認知症予防は葉酸摂取だけで達成できるものではない

これは番組を見た人の何人かも指摘していたが、認知症予防に効果的なことは複数あり、葉酸摂取だけで達成できるものではない。葉酸を心がけて摂っても、認知症になるときはなる。

サプリメントは飲むだけで咀嚼(そしゃく:噛むこと)しないものが多いが、「咀嚼」も、認知症予防に効果的な、多数ある方法の一つである。

認知症予防には他にどのような方法があるか。たとえば、β(ベータ)カロテンやビタミンC、ビタミンEを含む食品の摂取を始め、DHA(ドコサヘキサエン酸)などを含む魚類を食べること。手や指先を使った運動や、体全体を使った有酸素運動、人と対話をすることや、文章を読んだり書いたりすること、など、挙げればたくさんある。

以上、3点にまとめてみた。

筆者は、食品ロス(食べられるのにも関わらず、賞味期限接近などの理由で廃棄されるもの)を少なくするための活動をしている。日本人の鮮度志向は、「新しければ新しいほど良い」とされがちだが、過去にNHK「ガッテン!」で放映された缶詰特集では、作ってから半年以上経ったものの方が、味が沁みていて美味しいことが解説されており、「新しければ新しいほどいい」という思い込みや先入観を覆してくれる、よい内容だった。その放送回では、製造してから70年以上経つ缶詰を開封してみて菌が検出されなかった、という調査結果も公開されていた。

食品ロスの講演のたびに「スーパーやコンビニで買い物の時、棚の奥に手を伸ばして賞味期限の日付が近いものをとったことがあるかどうか」のアンケートをとっている。大半が「とったことがある」と答える。賞味期限は「美味しさの目安」と答えておきながら、多くの消費者が、「できるだけ新しいものを買いたい」と思っている証拠だ。この考え方を打ち崩すのは非常に困難だ。それこそ、影響力の大きなマスメディアに、「新しければ新しいほどよい訳ではない」ということを報道し、全国の消費者の理解を浸透させて欲しい。

過度に、健康効果を信じることを「フードファディズム」と呼ぶ。メディアの報道を主体的に読み取る力を「メディアリテラシー」と呼ぶ。放映後の反響を見ていて、情報の受け手である視聴者側にも課題はあると感じた。

「真の専門家は一般の人たちの目線まで降りてくることができる人だ」と、ある書籍に書いてあった。医者同士は専門用語で会話が通じても、患者には通じない内容もある。いかにわかりやすく一般の人に伝えるかは、専門家にとって永遠の課題である。筆者も1月18日には、番組に出演されていた香川靖雄先生が所属されている女子栄養大学で「食文化情報論」の講義をする。発信者側である筆者も、わかりやすく、かつ、誤解のない情報発信をするために、今後も研鑽しなければならないと感じた。