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唯一無比、大谷翔平の総額7億ドル契約でスポンサー企業の株価上昇。ドジャーズが狙うブランディングとは。

一村順子フリーランス・スポーツライター
来季はドジャーブルーのユニフォームで、打者としてプレーする大谷翔平選手。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 エンゼルスからFAとなっていた大谷翔平選手が米国時間9日(日本時間10日)、自身のインスタグラムを更新する形で、ドジャーズ移籍を明かした。今オフ、最大の注目を集めた大谷争奪戦は、10年総額年俸7億ドル(約1015億円)という巨額な契約を提示したドジャーズが勝利した。

 FAを目前にした大谷が、9月に2度目の右肘靭帯再建手術を受けた際、一部メディアは大谷の市場価値が急落すると報じた。「これで総額6億ドルは厳しくなった」、「約1億ドルの損失になるだろう」等々。しかし、蓋を開ければ、NFL・マホームズがチーフスと結んだ総額4億5000万ドルを超え、北米スポーツ界1位となっただけでなく、過去を遡っても、サッカーのメッシがバルセロナと契約した総額5億3700万ポンドを超え、プロスポーツ史上最高額に。大谷1人で年平均で稼ぐ金額は、メジャー8球団のチーム総年俸を上回るという破格の契約は、日米のメディアに大きく報じられた。

 巨額の資本を投じたドジャーズが、見返りで得るもの。それは、ブランド力の向上とも言えるだろう。今季の本塁打王&MVPが加わる強力打線の脅威は激増。2年後二刀流に復活すれば、投打でチームに貢献できる戦力的な補強は言うまでもない。だが、それ以上に、今やプロスポーツ界の”顔”となった大谷が、今後10年間、ドジャーズの象徴として、全米のみならず、世界を魅了していくことが、球団のブランディングにつながる。

 CAAスポーツ・バレロ代理人の声明は「ユニーク(唯一無比)で歴史的な選手が、ユニークで歴史的な契約を結びました」の一文で始まった。偉大な打者、偉大な投手は、いつの世にも現れるが、トラウトもハーパーもシャーザーも、大谷の唯一無比さには、太刀打ち出来ない。奇想天外過ぎる近代の二刀流で成功したユニコーン・大谷は「unreplacable」(誰も代わり得ない)な存在だ。最強のアスリートという知名度と、爽やかな好青年というイメージが生み出す影響力が、ファンや社会に信頼や共感を呼び、ドジャーズに付加価値が生まれ、他球団と差別化を図り、企業の資産価値が高まる。

 日本でも大リーグの専門ショップで、ドジャーズのグッズを買い求める人が列をつくったというし、旅行会社は来春のオープン戦、公式戦の観戦旅行ツアー企画に奔走するはず。米国チケット販売ネット「スタブハブ」のサイトを覗くと、11日現在で、3月28日のドジャースタジアムで行われる本拠地開幕戦(対カージナルズ)の入場券は最低338ドル、ネット裏前列は4000ドル以上の高値がついていた。ドジャーズと言えば、80年代にメキシコ出身のバレンズエラ投手が「フェルナンドマニア」と呼ばれる大旋風を巻き起こし、ラテン諸国に市場拡大。90年代には、野茂英雄投手の活躍で日本、アジア圏でも大きく知名度を上げた歴史があるが、今回は、観客動員やグッズ販売、放映権といった直結の収益に加え、2011年にドジャーズを買収した「グッゲンハイム・パートナーズ」が狙うビジネス戦略が、その視野にある。

 米国の経済金融情報サービス社「ブルームバーグ」は11日(同12日)、大谷と契約を結ぶスポンサー会社の株は「コーセーが2・4%、三菱UFJファイナンシャル・グループが1・9%、セイコーが1・8%とベンチマークのTOPIX指数の1・5%を上回った」と伝えた。これらは、直接ドジャーズの懐に入らないが、大谷を支援する企業の株価が一夜で上昇する影響力は、ドジャーズのブランド力を高め、ひいては、球団のスポンサー新規開拓や収益増に繋がる。大谷がスポンサー契約を結ぶ企業はニューバランス、ポルシェ、JAL、ヒューゴボス、オークレーなど、国際的な市場を持つものが多い。これらの優良企業が今後、一斉に「ドジャーズ・大谷」を支援するインパクトは計り知れない。

 今季30球団最多の383万7079人の観客動員を記録したドジャーズは、集客力と同時に、地元テレビ局「スペクトラム・スポーツネット」と、2038年までの25年総額83億5000万ドル(1兆2226億円、チーム保有株50%)という世界でも史上最大のスポーツ放映権契約を財源とする資金力を誇る。後日、大谷の契約は、総年俸の約97%が後払いとなると報じられた。最初の10年は年俸200万ドル、2034年から次の10年で年俸6800万ドルの報酬を受ける。今季、国際パートナーシップ部門やファイナンシャル部門の人事を推し進め、経営戦略に力を入れてきた球団は、大谷が現役選手として最初の10年間で生み出すブランド力を総年俸の3%で手に入れた格好だ。先述のバレロ代理人の「ユニークな契約」という表現も、異例の後払いを知れば、合点がいく。

 大谷はインスタグラムに「選手生活最後の日まで、ドジャーズのためだけではなく、野球界のために邁進し続けたい」と英語で綴った。ドジャーズのユニフォームに袖を通し、球界の看板を背負うー。大谷は、その任務と使命をはっきりと認識している。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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