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メッツ・千賀が、Rソックス・吉田との2打席で試したこと。最先端のデータ分析に基づいた新アプローチ。

一村順子フリーランス・スポーツライター
レッドソックス戦で力投する千賀。(21日、フェンウェイ・パーク)(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 メジャー1年目の前半戦を7勝5敗、防御率3・31で折り返し、球宴にも選出されたメッツの千賀滉大投手。後半戦の登板2戦目は21日(日本時間22日)、敵地でのレッドソックス戦。4回途中で降雨サスペンデットとなり、勝敗はつかなかったが、パ・リーグでしのぎを削り、共に今季からメジャー移籍した敵軍の吉田正尚外野手と2打席対戦して無安打に抑えた。第1打席はカットボールで遊ゴロ。第2打席は、吉田に1球だけ投げたフォークでの空振り三振だった。

 投球内容に意図を感じた。初回から上位打者3人に、代名詞でもある「お化けフォーク」を1球も投げなかった。一転して、4番・デバースには5球連続、これでもか、とフォークで攻め、投ゴロに。千賀は反応良くマウンドを駆け下り、後傾の体勢から振り向きざまに一塁へ好送球。フォークが増えたのは、打順が二巡してから。登板2日後、その背景を聞く機会があった。

 「ゲームプランもそうですし。やっぱり、正尚が(敵軍に)いるからこそ、日本の僕のイメージを(対策に)入れてくるだろうというのが、ちょっとあった」

 千賀の読みは当たっている。当日の試合前会見で、敵軍・コーラ監督は「マサ(吉田)にミーティングで話をしてもらった」と語った。日本時代の対戦で、51打数で4本塁打を含む21安打、打率・412と相性の良い吉田に印象を尋ね、チームでシェアしたと明かしていた。

 「そりゃあ、しゃべるでしょう。僕だって、日本人選手が対戦相手にいたら、どうなのって聞かれますから。一言、二言でもイメージとか、大雑把な特徴をね。だから、正尚がチームに何か言っても何らおかしくないという考えはありました」。指南役を求められた吉田がフォークに言及する可能性を考慮し、裏をかいて、序盤はフォーク温存。二巡目以降に宝刀投入という作戦。デバースのフォーク攻めについては「アルバレス(捕手)が賢いんです。データをちゃんとみている。一緒にやって楽しい」と、バッテリーの信頼関係も強まっている様子だ。

 試合後のメディア対応では、吉田との対戦を振り返り、「日本の時はデータがあまりないので、主観だったり、彼の成績や調子を見るしかなかったけれど、こっち(メジャー)はデータも豊富で、自分がやりたいことが明確になる。その辺に関しては、追っかけ合いだと思いますけど、戦い方が分かってマウンドに上がっているのと、そうではないのとでは、全然、違うなと改めて思いました」と語った。データ分析に定評あるソフトバンク出身の千賀の口から、その言葉が出たことに、若干、驚いた。日本とメジャーのデータ活用はそれ程、違うものなのか。

 「確かにモノ(データ解析機器)はあるんですよ。でも、それを扱える環境だったり、扱える人がいても、選手やコーチとか現場レベルに下りてくるデータの量が、全然違います。ホークスがどう、というより、NPBでは手に入らない情報がある。メジャーはデータの出し方が細かいし、すぐ統計や数値として出す専用のサイトも充実しているので、確認したいことがあれば、自分で探し出せる環境がある。正直(専門のアナリストに)お願いしたら、どこまで出てくるのか、分からないほど。日本は選手の印象に依存していることが多い。この選手はこういう感じ、とか。今は、細かく調べた情報を持ってマウンドで戦っている。その差は大きい」

 メジャーは力と力の勝負、と言ったのは、昔の話。3月のWBCではパドレスのダルビッシュ有投手が、独自のデータを日本代表チームに提供したという話を思い出した。日本でもトラックマンやラプソードなどのデータ解析機器が普及し、打球弾道の測定や、ボールの回転数などの数値が出るようになったが、メジャーは収集する情報量が圧倒的に多く、分析法も多種多様。情報は高度に処理され、共有されてこそ、効果を発揮する。これまで、苦手意識があった吉田に対し、データに基づいた攻略法を準備したことが、実を結んだ。

 「マウンド上でのパフォーマンスの向上を求めるのは大事ですが、それも優先しつつ、同時に、どれだけ自分が準備したことを披露できるか。ここ(メジャー)は試合に備えてゲームプランを立てて、それを、実践していく場なのかなと思う」

 データ分析の”深み”にハマったこともある。登板前、コンピューターの前に座る時間が格段に増えたお陰で、睡眠不足という、思わぬ弊害に苦しんだ。「データを調べ出したら、幾らでも出てくるので、覚醒して、寝れないことがあった。情報を元に、自分だったらどうするか、頭の中でイメージをつくっていく作業なので、興奮しちゃって、アドレナリンが出て、脳が起きる。それで、全然寝れなくて。しかも、そういう時は朝早く起きちゃう。ピッチングに失敗するというより、前日の過ごし方で失敗してる(苦笑)。今は、早めに切り上げるようにしている」

 試験前日に徹夜で勉強して、試験当日は頭が上手く回らない、そんな感じだろうか。本末転倒の経験談として明かしてくれたのは、菊池雄星投手と日本人同士の投げ合った6月5日(同6日)のブルージェイズ戦。「あの試合は辛かった。体調不良みたいな感じになって、最悪でした。強力打線なので、普段以上にデータを深くみていて、1人1人に割く時間も増えた。最低(レギュラー)9人から10人位はデータをみるので、なかなか(寝る時間までに)収まりがつかなくて」。スプリンガー、ビシェット、ゲレーロ・Jrら、錚々たるメンバーを揃える相手打線を”予習”し過ぎて、コンディションの質が下がった格好だが、「でも、いい経験になってます。大変だけど、楽しいっすよ。まだまだ、自分のやることで精一杯ですけど、少しずつ、やるべきことが分かって、リズムを掴みつつある」と言った。

 4月の月間防御率は4・15だったが、7月のそれは3試合で2・08に。念入りに準備した作戦をマウンドで実践し、それが、ハマった時の喜びは投手冥利に尽きる。「日本では、打撃投手のように打たれていた」と表現した吉田とのメジャー初対決に、新しい手法で挑み、手応えを掴んだ。天賦の才に、持ち前の向上心と最先端のデータ分析が融合し、伸びしろは無限大だ。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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