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ボラス代理人が語るレッドソックス・吉田、大活躍の秘訣。聖地にフィットした究極のレベル・スイング。

一村順子フリーランス・スポーツライター
21日、フェンウェイ・パーク一塁側フィールドで試合前練習を見守るボラス代理人。

 レッドソックス・吉田正尚の代理人を務めるスコット・ボラス氏が21日(日本時間22日)、本拠地フェンウェイ・パークを訪問。メッツとの交流戦の試合前に、メジャー1年目から大活躍中の吉田について、躍進の”秘訣”を聞く機会があった。辣腕代理人が注目するのは、バレル打法全盛期のメジャーで、完璧を極めた吉田のレベル・スイングだ。

 「彼のスイングは、今流行りのバレル・スイングではない。完璧なまでのレベル・スイングだ。そして、そのバット・スピードはとても速い」と語った。

 今、メジャーで注目を集めているのは、エンゼルス・大谷翔平、ヤンキース・ジャッジに代表されるバレル打法だ。「打球速度98マイル以上で打球角度角度26〜30度」に上がった打球は、長打、特に、本塁打を打つための、理想の組み合わせとされる。一方、吉田は、ボールの軌道とバットのスイング軌道が一直線になるレベル・スイングを特徴とする。ボラス代理人は、吉田を「レベル・スイングの達人」と呼ぶ。16日(同17日)、敵地でのカブス戦では、内寄りの直球を打球角度20度の低い弾道で右翼へ11号満塁弾を放った。バレルの域を越えた角度で飛距離381フィート(116メートル)のライナーを放った異次元のパフォーマンスも、完璧なレベル・スイングの賜物だった。

 「我々は日本市場を常に調査しているが、1人の選手を長期に渡って調査し続ける例は、それ程、多くない。我々がマサに魅了されたのは、高度な打撃技術だ。カブスの鈴木は、パワー面や守備面で、吉田より才能があると言えるかもしれない。だが、彼ほど、ボールをヒットゾーンに飛ばす技術を持つ打者は少ない」。ボラス代理人は、吉田より1年早く、カブスと日本人野手として最高額となる5年総額8500万ドルの大型契約を結んだ鈴木誠也外野手と、昨年オフに鈴木を上回る5年総額9000万ドルの契約を結んだ吉田の2人を、タイプの違いも交えながら比較し、エージェントとして着目した吉田の個性について力説した。

 移籍先の選択も、成功の要因のひとつ。クライアントの能力を最大限に発揮できる働き場所を探るのも、代理人の重要な仕事だ。ご存知の通り、左翼に高さ11・3メートルの壁「グリーン・モンスター」がそびえるフェンウェイ・パークを本拠地とするレッドソックスと、ポスティング公示初日に電撃合意したボラス代理人は、「入団会見でも言った通り、ここは、マサにとって最高の環境だ。ボールを引き付けて強く打つ技術があれば、ここの壁は、報いてくれる。逆方向への本塁打、(壁直撃の)二塁打を打てるからね。引っ張る必要はない。彼のスイング自体が、この球場にフィットしているんだ」と続けた。

 最後に、ボラス氏が指摘したのは、1メートル73という吉田の身長だ。「彼のストライクゾーンは小さいから」とニヤリ。定評ある選球眼は言うまでもないが、実は、吉田には、投げる方も難しいのだとか。「背が高いアメリカ人の投手にとっては、あまり慣れていないストライクゾーンになる。高目を狙ったり、低目を狙ったりすると、ボールになってしまう」と語り、同じくクライアントを務めるアストロズ・アルトゥーベを例に出した。

 「背の高い投手が角度をつけてアルトゥーベの脇下から膝上の間(ストライクゾーン)に投げ込むのは難しい」。公式記録では、吉田が身長1メートル73(5フィート8インチ)で、アルトゥーベは1メートル68(5フィート6インチ)。ボラス代理人は「マサはアルトゥーベになれる」と3度首位打者に輝いた”小さな巨人”に重ね合わせる。

 決して恵まれた体格とはいえない体で、第一線で戦ってきた吉田。ハンデを補う技術を極めて、海を渡った。世界最高峰の舞台では、逆に、その小柄さがユニークな利点を産んでいる。究極のレベル・スイングを確立した吉田が、サイズに恵まれた大型選手がひしめく大リーグで大活躍する姿は痛快で、日米のファンだけでなく、百戦錬磨のベテラン代理人も虜にする魅力に満ちている。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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