Yahoo!ニュース

メジャー1年目のレッドソックス・吉田、前半戦好調ターンを支える、モンスターとのいい関係。

一村順子フリーランス・スポーツライター
前半戦最終戦で決勝弾を放ち、ベンチに迎えられる吉田。7月9日。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 レッドソックス・吉田正尚外野手が前半戦最終戦となった9日(日本時間10日)、本拠地でのアスレチックス戦で今季10号を放ち、今季メジャー最長となる7試合連続マルチ安打を達成。前半戦をア・リーグ3位の打率・316で折り返した。試合後のインタビューで印象的だったのは、「グリーン・モンスターといい付き合いが出来ている」という言葉。本拠地フェンウェイ・パークの左翼にそびえる高さ11・3メートルの緑の壁「グリーン・モンスター」との”お付き合い”が始まった開幕から約3ヶ月半。その関係は良好だ。特異な球場形体への接し方を習得し、緑の怪物を手懐ける職人・吉田の言葉を掘り下げてみたい。

 決勝弾が飛び出したのは3−3で迎えた8回。先頭で迎えた第4打席だった。敵軍ブルペンではアスレチックス・藤浪晋太郎投手が投球練習を始めていたが、左腕ウォルディチャックが続投。期待の”日本人ルーキー対決”はお預けとなったが、そこは、左対左の定石か。吉田は、右投手に打率.318、左投手に.309と、ほぼ左右関係なく打っているのだが、さて…。

 2球で2ストライクと追い込まれた後、吉田が反応したのは、6球目。高めに大きく外れたボール球を掬い上げた。左翼の壁を越えた当たりの打球速度は95マイル(153キロ)。今季吉田が放った10本塁打の中で最も遅い打球だった。

 「真芯じゃなく、ちょっと擦った。結果論で打てたから良かったけれど、抑えられたら、ボール球に手を出したと言われるところ。そこは難しいけれど、真っ直ぐが来るという感覚はあった。ボール球だったけれど、打てる感覚でバットを振り出した。角度もついたし、飛んだコースも良かった」

 バッティングを言語化することに長けた吉田の解説を聞きながら、もう唸るしかなかった。同点で迎えた終盤。「本塁打は狙っていなかった」と明かす。課せられた任務は、まず、塁に出ること。追い込まれて、四球を絞り出すのは難しい状況となったが、少々ストライクゾーンの外でもヒットに出来る能力を持つ吉田には、肩程の高さの直球を逆方向に運ぶ勝算があり、角度とコースを操る技術もあった。そして、報道陣に「グリーンモンスターといい付き合いが出来ています」と、ニッコリ笑ってみせたのだ。

 レ軍と5年総額9000万ドルの大型契約を結んだオフ。入団会見でブルーム編成最高責任者は「コンタクト技術とボールの見極め、強い打球を飛ばす能力を備えており、インパクトを与える存在になれる」と期待。吉田の打撃スタイルが本拠地の球場形体にフィットし、左翼の浅さは平均的と評される守備面もカバーすると見込んだ上で、ポスティング公示初日の電撃入団となった。

 ”怪物”にツレなくされたこともある。4月29日のガーディアンズ戦では、左翼の壁を直撃する痛打で二塁を狙い、間一髪アウト。打球が速すぎる場合の、”フェンウェイあるある”で、記録は飛距離343フィート(104メートル)の単打になった。翌30日には、他球場なら本塁打という383フィート(116メートル)の当たりが壁を直撃し、二塁打に。翌5月1日のブルージェイズ戦で3日連続グリーン・モンスター直撃打を放った後には、「距離的にみると100(メートル)越えているんで、ホームラン欲しいなと思いますけど」と苦笑いした後、「距離が近いので、角度がつけば(ヒットになる)確率は高いのかなと思う」とコメントしている。”モンスター”への理解を深めつつ、その懐柔策を探っていた。

 6月16日のヤンキース戦で放った、壁のトップから数センチ下を直撃する369フィート(112メートル)の二塁打など、前半戦に吉田が本拠地で記録した14本の二塁打のうち、左翼の壁を直撃する通称「モンスター・ダブル」は5本。前半戦メジャー最多の206本の二塁打を記録したレ軍はア・リーグ東地区最下位ながら、貯金「5」で、ワイルドカードでのプレーオフ進出を狙う位置にいる。

 左翼守備では、時間帯で方向を変える独特の風向きに慣れつつ、誰もが苦労するクッションボールの処理でも堅実さをみせている。歴史を紐解けば、最後の4割打者、テッド・ウィリアムス、三冠王のカール・ヤストレムスキー、本塁打王のジム・ライスら、殿堂入りのレジェンドが聖地の左翼を守ってきた。テレビ解説者でもあるライス氏は、レ軍で成功する秘訣を「グリーン・モンスターを味方につけること」と語り、「壁との距離感を測ることが、大事なんだ」と付け加えた。

 人間同士の付き合いでも、心地よい距離感は大事。壁越えに色気を出すとフォームを崩す。壁下まで深追いすると、痛い目に遭う。けれど、”怪物”を上手く手懐けることが出来たら、大きな武器になる。恋人同士の付き合いは、最初の3ヶ月が肝心だとか。「始めまして」の開幕当初は手を焼くこともあったが、季節の推移と共に、壁との良好な関係を構築していった吉田。状況判断と技術が融合した前半戦最終戦の決勝弾は、その結晶だった。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

一村順子の最近の記事