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WBC効果で、レッドソックス・吉田正尚の評価が、爆上がりのボストンから、地元の声を拾った。

一村順子フリーランス・スポーツライター
28日(日本時間29日)のオープン戦最終戦では、キャンプ1号の逆転2ラン(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 米大リーグは30日(日本時間31日)、一斉開幕。WBC優勝に貢献したレッドソックス・吉田正尚外野手が、本拠地フェンウェイ・パークでのオリオールズ戦でメジャー・デビューする。日本人野手史上初の「開幕・4番」での先発が濃厚だ。昨年12月にレ軍と結んだ5年総額9000万ドル(約120億円)の大型契約には、当初、懐疑的な見方もあったが、WBC大会の大活躍で、地元の評価は爆上がり。開幕を前に球団首脳、ボストン・メディアら周辺の声を拾ってみた。

 コーラ監督はフロリダ州フォートマイヤーズのキャンプ地に再合流した吉田について、「健康体で戻ってきてくれたことが、何より」と喜びつつ、「(吉田の守備について)考えを変えた人が、結構いるんじゃないかな。超一流でないかもしれないが、ちゃんとしている。メキシコ戦のスローイングは流れを変えたし、中堅のヌートバーのバックアップなどをみていると、基本がしっかりしている印象を受けた」と語った。米国大手の野球誌「ベースボール・アメリカ」が、吉田の守備を「平均以下」と査定した様に、当初の評価は星5つではなかったが、WBCでの堅守は、周囲の評価を変えたようだ。27日(同28日)のオープン戦(対ブレーブス)の守備では、一死二塁からの左前打で、吉田が本塁にワンバウンド返球すると、二塁走者は三塁でストップ。敵軍のワシントン三塁コーチは「メキシコ戦の返球をみたからね」と走者を止めた理由を語り、他球団にもその脅威は浸透しつつある。

 ブルーム野球最高責任者は「WBCの成績が、シーズンに換算される訳ではないが、大舞台で彼が持ち味を出したことは、非常に良かった。我々が調査の過程で認めた才能を、世界が注目する中で発揮した。選球眼や優れたバットコントロールなどは、(調査済みなので)別段、驚かないが、試合の流れを決める正念場で大きな仕事をした。3月は、そこまで完成度を期待する時期ではないのに、大会通じて、全ての打席で、パフォーマンスの質が極めて高かった」と語った。未知数の逸材は投資が大きい程、リスクも孕む。スカウト陣が歳月を掛けて調査し、アナリストがデータ上、”通用する”と分析しても、結果が出るかどうかは、また別。フロント陣営にとっては、オープン戦で活躍する以上に心強いサンプルとなった。

 ニューヨークと並び、辛口とされるボストン・メディアにも話を聞いてみた。MassLive.comのクリス・コッティロ記者は、WBCを機に吉田に魅入られた1人。「”塁に出る技術”に感心させられた。デバース(ドミニカ共和国代表、オフにレ軍と11年総額3億31万ドル=約440億円で契約)以上にワクワクさせてくれるとは、正直、思っていなかった。大型契約に『払いすぎでは?』という声があったことは事実。ただ、ボガーツ(遊撃手)がパドレスに移籍して、多くのファンが落胆したタイミングと(吉田の合意が)重なって、ファンやメディアも、やや適正な分析に欠けた部分があったと思う。WBCをみる限り、レ軍のスカウトは吉田の力量を把握していたようだし、高額オファーを出さないと、他球団に獲られる危惧があったのかも。そう考えると、9000万ドルは適正価格かな」

 オフの段階では、”ボガーツ・ロス”のファン心理が作用した要素を指摘し、「個人的に、僕とほぼ同じ身長(1メートル73)の吉田を応援している(笑)」と付け加えた。かつては、小柄なペドロイア内野手が絶大な人気を博したボストン。オリックスでもファンに愛された吉田が、人気者になる土壌は備わっている。

 MLB.comのイアン・ブラウン記者は、WBCでの勝負強さに注目する。老舗の人気球団は、熱狂的で時に手厳しいファンで知られる。独特の雰囲気になる本拠地球場では、鳴り物入りで移籍した大物選手が、力を発揮できなかった例は数多い。「大舞台であれだけの活躍をみせたので、シーズンで何をやってくれるんだろうという期待値が上がった。メキシコ戦(準決勝)の同点3ランはクラッチヒッターの証。重圧に負けないメンタルは、ボストンで活躍するために重要な要素だと思うし、今は、地元メディアだけでなく、米メディアが注目している」と吉田の強靭なメンタルを頼もしくみている。

 地元ラジオWEEIのロブ・ブラッドフォード記者からは、チーム内の評判を聞いた。日ハム在籍時に吉田と対戦歴があり、今年は同僚となったクリス・マーチン投手は「吉田は内角を全く苦にしない」と語ったそうで、ファッセ打撃コーチによると「直球であれ、変化球であれ、しっかり内角を引きつけて打つことが出来る」ということだ。「(内角球をさばいた)メキシコ戦の本塁打が、まさに、そうだね」と同記者は続け、「キャンプを一時離脱した時と再合流後で、吉田の評価は変わった。ポジティブな方にね。彼のことをよく知らなかったが、今は、皆がエキサイトしている」と語った。WBCの前と後で、周囲の目は大きく変わった。吉田株、急上昇―。もう、ボストンには、期待しかない。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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