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激戦のア・リーグを制したレッドソックス・コーラ監督の卓越した戦略眼。

一村順子フリーランス・スポーツライター
リーグ優勝トロフィーを持つコーラ監督(左)とドンブロウスキーGM。(写真:代表撮影/USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 レッドソックスが18日(日本時間17日)敵地で行われたア・リーグのリーグ優勝決定戦(ALCS)第4戦で昨年の世界王者、アストロズを下し、5年ぶりワールドシリーズ(WS)進出を決め、アレックス・コーラ監督(43)が就任1年目でリーグ優勝を果たした。公式戦108勝のレ軍は、100勝のヤンキース、103勝のアストロズを撃破して頂点に。3桁勝利軍団の激突はハイレベルな試合を展開。1打席ごと、1球ごとに表裏一体の緊迫感を含んだ見応えある内容となった中、コーラ監督の采配が冴え渡った。

 レ軍はPS出場4球団の中で唯一、投手11人を登録した。救援陣に回またぎの能力が高かったこと。外野兼捕手のスワイハートを第3の捕手にすることで、レオン、バスケスの両捕手が入る下位打線で積極的な代打作戦が採れるからだった。

 誤算が起きたのは14日。前日ALCS初戦に登板したセールが胃の疾患で緊急入院。再合流後も体力の回復を待つため、予定していた第5戦先発を先送りする事態に。第4戦は、翌日先発の可能性を残したロドリゲスとプライスの両左腕を救援待機させ、刻々と変わる状況下、継投をやり繰り。第5戦は先発要員のイオバルディを救援起用。先発で1勝、救援で2ホールドと活躍したポーセロ同様、先発投手を救援勝負所でジョーカー的に起用する作戦が見事に的中した。

 テクノロジーを駆使した情報を消化した上での手腕が問われる昨今、コーラ監督はプランAが破綻した場合のプランBの想定、準備、管理が徹底していた。「要は、試合に詳細に細心の注意を払うということ」と指揮官は言う。研ぎ澄まされた感性は、ウィンターリーグでプレーした父、大リーガーのジョーイ・コーラ現パイレーツコーチを兄に持ち、朝食の席でも野球が話題だった母国プエルトリコの野球一家に培われたものだ。「1週間7日、1日24時間、野球の話をしている家族。熱狂的な野球ファンが多いボストンの環境と同じだよ」

 レ軍での現役時代は07年に松坂大輔、岡島秀樹の両日本人投手と共に世界一戦士となった。内野のユーティリティーで控えだったが、守備は堅実で、先発にコーラの名前があると、松坂が「彼が後ろで守っていると安心感が全然違う」と語っていたのを思い出す。ちなみに、当時の控え捕手キャッシュは、2015年にレイズ監督に就任。今年はブルペニングの先駆者となり、下馬評の低さを覆して9月最終週までプレーオフ争いに加わった。07年Vメンバーの控え選手2人が、10年の歳月を越え、東地区の監督としてしのぎを削っているのは、興味深い。「彼も僕もベンチにいる時間が長かった。少し違った角度から野球を見たことが助けになっているかもしれないね」とコーラ監督は言う。

 戦略眼に優れ、信念に基づいた決断力に長けた指揮官は、才能溢れた選手に瞬時に受け入れられた。「ジョン(ファレル前監督)と比較する訳じゃないが、AC(コーラ監督のイニシャル)はスペシャルだ。皆の能力を引き出してくれる。キャンプ初日からチームの方向性は明確で、皆、何をすべきか心得ていたし、互いに助け合う環境ができていた」と左腕プライスは言う。昨年12月の監督就任後、ドミニカ共和国、マイアミなど各地に飛び、自主トレ中の選手と個々に面談。「我々は才能ある集団。絶対に世界一になれる」と自信に満ちたメッセージを送った。過去2年、地区優勝はしても、10月は早期敗退。チームに燻っていた欲求不満は新監督就任と同時に消え去った。

 ヘンリーオーナーは「面接の際、私が唯一懸念したのは、彼が自信を持ち過ぎている点だった。いや、実際、自信過剰だとさえ思った。だが、それは杞憂だった。彼は生れながら監督の資質を備えている」と、WS出場を決めた18日に43歳の誕生日を迎えた若きリーダーを絶賛する。昨年は2年連続地区優勝にも関わらず、監督交代に踏み切ったのは、オーナーシップの英断だった。

 「昨日の試合(第4戦)が終わったのが、夜中の12時10分頃だから、誕生日に2勝したことになる(笑)。最高の気分だよ」。クラブハウスには、ハッピーバースデーの大合唱が響き、歓喜のシャンパンファイトを更に盛り上げた。レ軍はフランコーナ前々監督が就任1年目の2004年、通称、バンビーの呪いを86年ぶりに解き、2013年はファレル前監督が、マラソン爆弾テロ事件が起きたボストンにチャンピオントロフィーをもたらした。3代連続の監督就任1年目優勝となるか。コーラ監督にとっては、ドラフト指名を受け、大リーグデビューした球団となるドジャーズとのWSは23日、本拠地フェンウェイパークで開幕する。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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