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キリンチャレンジカップでは、ハリル・ジャパンの対戦相手ハイチ代表の日系ハーフにも注目して欲しい。

一村順子フリーランス・スポーツライター
この帽子は!ボストン育ちのエリボ。日本戦を楽しみにしている(筆者撮影)

 来年のサッカーワールド杯出場権を得たハリル・ジャパンは、10月10日に横浜・日産スタジアムで行われる国際親善試合「キリンチャレンジカップ2017」で9月現在、FIFAランキング48位のハイチ代表を迎え撃つ。W杯に向けて始動した日本代表が注目される中、敵軍メンバーの1人の選手に、注目したい。

 ハイチ代表MFザクリー・エリボ(21)。米国MLSレボリューションに所属する同選手は、ハイチ人の父・ペドロさんと日本人の母・美樹さんの間に生まれた日系ハーフだ。ハイチ、米国、日本の3カ国の国籍を持つエリボにとって、父の祖国のユニフォームを着て、母の祖国のピッチに立つ、特別な試合になる。

「運命やと思う、これは。その時にどんな気持ちになるか、今はまだわからない。試合の日はめっちゃ緊張すると思う。でも、とても楽しみにしている」

 大阪・吹田市に生まれ、生後まもなく米国マサチューセッツ州ボストン郊外に移住。セミプロだった父の英才教育を受け、頭角を現した。1メートル88の大型ボランチとして、高校時代には米国U15代表合宿に招聘され、U20ハイチ代表として国際試合にも出場。また、夏休みを利用して大阪桐蔭高校の合宿に参加、日本の規律正しい練習態度に感銘を受けるなど、生まれ育った環境にも恵まれ、国際色豊かな経験を積んできた。

 2015年にプロ転向。今回初めてハイチA代表の招集を受けたところ、対戦相手が日本に決まった。「日本はポジショニングが整備され、パスを回して組織的に点をとるイメージ。ハイチは速いカウンター攻撃を多用するので、全くカラーの違うチームの対戦になると思う。まずは試合に出て、自分の100%を出たい」

 大阪出身の母親譲りの日本語には、関西弁のイントネーションがうかがえる。所属するレボリューションでは、元日本代表・小林大悟MFとチームメイトとなり、日本語を話す機会が増えた。「おはよう、だけじゃないよ。日本語で深い話もする(笑)」。 平仮名が読めるエリボは、今回の遠征でハイチ人のチームメイトに日本の文化を紹介し、旅先案内人を務めることも楽しみにしている。「日本語ももっと覚えて、うまくなりたい。日本のメディアにインタビューされるようなことになったら、日本語で頑張る」と“日本デビュー”に意気込んでいる。

 国籍を持つ3カ国で代表資格を有するエリボは、今回の出場に関して、慎重に調査を行った。FIFAの規約15条では、親善試合を除く国際Aマッチに1試合でも出場した選手は、一部例外を除いて代表国の変更が出来ないルールになっている。ハイチ代表として同大会に出場したら、究極の夢である日本代表資格を失うのか。ルイス・バラス代理人がFIFAに問い合わせた結果、今回大会は国際Aマッチだが、JFA主催の親善試合(フレンドリー)であり、コンペティションではないため、カウントされないというFIFAの返答を得て、最終的に出場を決めた。

 エリボを奮い立たせるもう1つの理由がある。福岡市の病院で闘病中の祖父・誠さん(75)の存在だ。2年前に日本の祖母・種子さん(享年68)を亡くしたエリボにとって、祖父に勇姿をみせたい思いは強い。「テレビ(TBS)で放映されると聞いているし、きっと、みてくれると思う」

 すべてのベクトルが運命のように引き合わされる『10・10』横浜。エリボはどんな気持ちで両国の国歌を聞くのだろうか。それは、ある意味、サッカーの神様が用意したエリボのための舞台のようにも思われる。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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