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レッドソックスのペドロイア内野手が、8年総額1億1000万ドルの契約更新で得たフランチャイズ手形

一村順子フリーランス・スポーツライター
二塁手として史上最高の契約を結んだペドロイア

29歳で、もう引退時の青写真ができたペドロイア

レッドソックスは24日、ペドロイア内野手(29)と2021年までの8年契約に合意したと発表した。レイズ戦の前に本拠地フェンウェイパークの一塁側ダグアウトの前で、記者会見を行った同選手は「プロになってから、私はここ以外の場所を知らない。ここは自分にとっては家と同じで、レッドソックスは私の全て」と、感激の表情で語った。

現在の契約は来年まで。再来年も球団が選択権を持っていたが、相思相愛の両者の思惑が一致。米メディアの報道によると、来年以降の契約を結び直す形で、二塁手としては史上最高額となる総額1億1000ドル(約110億円)の8年契約で合意。2021年には38歳を迎える同選手は「ここで現役最後の試合に出ることは、僕にとって大事なこと」と、終生レ軍を誓った。

「レッドソックスで現役を終えて貰うために、最善を尽すことが球団の総意。だから、FAまでまだ時間があったが、早くアプローチした」と同席したチェリントンGM。バリテック捕手のようなフランチャイズ・プレーヤーに、という思いで双方が歩み寄った結果、年俸の内訳も、2014年の1200万ドルから、徐々に上がって、2018年でピークの1600万ドルとなり、そこから徐々に下がって、契約最終年には1200万ドルになるユニークな形になった。つまり、球団は8年の大型契約を結ぶリスクを背負ったが、年齢による衰えを想定内のこととして、予め報酬に反映させた格好だ。

レ軍は、クロフォード、ベケットらの長期契約で成果をあげられなかったし、今回の8年も遥か先を見込んだ話だが、ペドロイアに限っては、球団は大型契約に安穏としてしまう人間ではないと信じているようだ。選手がより良い契約を求めて、どんどんFA移籍するのが当たり前になった最近のメジャー。生涯1球団という選手は、ますます減る傾向にある。そんな中で、メジャー7年目で早くも、将来のフランチャイズ・プレーヤーを託されたのは、彼が日々のプレーで信頼を積み重ねてきたからに他ならない。

とはいえ、「私は、毎日勝つためにサインしたのであって、(二塁手の)市場価格を設定するために、サインしたんじゃない」とペドロイアは言う。今回の8年間の総年俸を平均すれば、1375万ドル。年齢は1歳年上で今オフFAになるヤンキースのカノの今季の年俸が1500万ドル。レンジャーズのキンスラーが5年総額7500万ドルと比べて、巷では、法外に高額という訳ではないという認識だ。

ペドロイアは攻守に渡る主力というだけでなく、精神的なリーダーでもある。バレンタイン前監督とユーキリスの確執が勃発した時は、選手擁護のスタンスを明確にし、後に同監督が主力選手と対立した際も、球団に実直にモノを言った。4月にボストンマラソンで爆発テロ事件が起きた時は、コミュニティーにポジティブなメッセージを発信し、誰もが無口になる敗戦後に、メディア対応を一手に引き受けたことも数多い。球団が支援する小児ガン基金への協力も積極的で、人望も厚い。オルティスが乱入して、二塁ベースを贈呈したこの日の記者会見では、他の主力選手も続々と姿をみせた。記念写真を撮ったり、握手を交わしたり…。そこには、やっかみのない祝福ムードが溢れていた。

気軽にサインに応じるペドロイア
気軽にサインに応じるペドロイア

「身長を理由に、多くの球団が指名を控えたなかで、レ軍は僕をドラフト指名してくれた。球団に正しい選択をしたと思ってもらえるように、今まで必死でやってきた」と、ペドロイアは、今でも、04年ドラフト2位指名された球団への恩義を忘れない。

身長173センチの公称を疑う人は、結構多い。特別俊足でなければ、筋肉隆々でもないが、堅実でなおかつ豪快な打撃、俊敏な守備には定評がある。状況に応じて逆方向に打つこともできるが、小柄な打者にありがちな、小技のスペシャリストではなく、かなりストライクゾーンから離れた外角の球を、強引に引っ張って本塁打にする強靭な躯がある。07年の新人賞以来、08年リーグMVP、球宴選出4度と、スター街道をひた走ってきたペドロイアを見ていると、「彼がもし日本に生まれていたら、これ程の選手になれたかな」と思うことがある。

日本では、機動力があって一発も秘めた運動神経抜群のアスリートを除けば、小柄な選手は、技を磨けと指導されることが多いと思う。それは、何も偏見やステレオタイプな見方というだけでなく、本人の為を思って、上のレベルでやりたいなら、適所適材、自分の武器を持てという発想だと思う。そして、そのように指導されていくうちに、本当にそういう選手になっていく。ともすれば、こじんまりまとまってしまうこともあるだろう。ペドロイアに聞くと、少年時代からこれまで「身長が低いから、こういうスタイルを目指しなさい」と指導されたことはないという。

「大事なことは、いい野球をすること。状況に応じて、犠打も大事だし、確実にエンドランを決めるなど、作戦をやり遂げることは大切だ。一方で、試合の中では、ピッチャーとの1対1いの勝負に絶対に勝たなければならない時もある。打席でも守備でも常にアグレッシブに、自分を信じて、精一杯プレーすること。僕の場合は、自分を信じてくれた人々への感謝の気持ちが支えになって、ここまでやってくることができた。長期契約したからって、僕が変わることはない。今まで通りグラウンドに出て精一杯プレーするだけさ」

試合後、ペドロイアのユニフォームは、いつものように泥だらけだった。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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