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『タミフルで異常行動』は否定されていますが、子どもがインフルエンザに罹ったときに注意は必要です

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:イメージマート)

インフルエンザの流行が本格化してきました[1]。

そのため、インフルエンザウイルスに対する薬、たとえばタミフル(一般名オセルタミビル)を内服する機会も増えてくるでしょう。

そのときに、『インフルエンザに罹ってタミフルを内服した子どもに異常行動が起こり、大きな事故があった』という報道を思い出す方もいらっしゃるかもしれません。

確かに以前、10代の患者に対するタミフルに関し使用制限措置が取られていました。しかし、そのタミフルに対する使用制限措置は現在、解除されています。

そこで今回は、その経緯に関して簡単に解説してみたいと思います。

2007年に、インフルエンザに罹った10代の子どもの転落事故が続けて起こりました

写真:イメージマート

2007年2月、3月にインフルエンザに罹ってタミフルを内服していた10代のお子さんがマンションから転落したという事故が、立て続けに報告されました。

それを受け、リスクが高いと判断される場合を除き、原則として10代患者に対するタミフルの使用を差し控えるようにという緊急安全性情報が出されたのです[2]。

2007年当時、国内で発売された抗インフルエンザ薬は、タミフルと吸入薬リレンザ(一般名ザナミビル)が使われており、タミフルが圧倒的に多く処方されていました(2006/2007年の処方患者数は、推定でタミフル503万人、リレンザ43万人)[3]。

そのため今では、タミフルを内服した後の異常行動が当時、特に目立ったと考えられています。

タミフル以外のインフルエンザ薬でも、使用後の異常行動が報告されるようになった

写真:イメージマート

しかし、2009年以降も、タミフル以外のインフルエンザ薬を使用した後の異常行動による転落事故が起こっていました[4]。

そこで、2009/2010シーズンから2016年3月まで、インフルエンザ患者に起こった有害事象(薬を使用したひとに生じる、好ましくないまたは意図しない“あらゆる”医療上の事柄)の情報が集められて検討されたのです。

すると、インフルエンザ薬を使っているグループと使っていないグループに、異常行動の差はなかったという結果になったのです[3]。そのため、2018年には、タミフルの使用制限措置は解除されました[5]。

インフルエンザにより、『熱せん妄』による異常行動が起こることが知られています

イラストACの素材と参考文献7より筆者作成
イラストACの素材と参考文献7より筆者作成

高熱があるときに、恐怖や不安、幻覚、そして自分がおかれた時間・状況・場所がわからなくなる(失見当識)ことがあります[6]。

これを『熱せん妄』といいます

インフルエンザでは発熱して特に最初の2日間に多く見られます[3]。

現在では、この異常行動の多くは、インフルエンザによる熱せん妄によるものと考えられています。

すなわち、インフルエンザに罹ったときには、『インフルエンザ薬を使用しているいないにかかわらず』、異常行動が起こりうることを考えておく必要があるのです(もちろん、異常行動のあった以降も様子が普段と異なる場合は、かかりつけ医に相談は必要です)。

ですので、インフルエンザに罹ったときには、

玄関や全ての部屋の窓に鍵をかける

窓に格子のある部屋がある場合は、その部屋で寝かせる

ベランダに面していない部屋で寝かせる

一戸建てに住んでいる場合はできる限り1階で寝かせる

などの対策が勧められています[7]。

久しぶりのインフルエンザの流行です。

保護者さんにおかれましては、十分に気をつけながらお子さんの看病にあたられることをお願いしたいこと、そしてインフルエンザに罹ったお子さんの快復を願っています。

【参考文献】

[1]東京都インフルエンザ情報(2022-2023年シーズン)(2023年1月16日アクセス)

[2]タミフル服用後の異常行動について(緊急安全性情報の発出の指示)(2023年1月16日アクセス)

[3]Pharmacoepidemiol Drug Saf 2019; 28:434-6.

[4]「抗インフルエンザウイルス薬服用時」の異常行動の報告(平成 21 年(2009 年)6月の報告書取りまとめ以降)(2023年1月16日アクセス)

[5]「タミフル」の10代使用制限を解除 ─異常行動への注意喚起は継続[医療安全情報UpDate](2023年1月16日アクセス)

[6]インフルエンザ 10(2): 119-123, 2009.

[7]インフルエンザの患者さん・ご家族・周囲の方々へ(厚生労働省)(2023年1月16日アクセス)

※2023年1月17日AM7時 『もちろん、異常行動のあった以降も様子が普段と異なる場合は、かかりつけ医に相談は必要です』を追記しました。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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