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寄生虫『アニサキス』による症状は2種類ある?アレルギー専門医が解説

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(提供:イメージマート)

お正月なので『お寿司』や『お刺身』を食べる機会が多くなっている方も多いでしょう。

日本人には魚を生で食べる文化が根づいていますし、私も好物のひとつです。

しかし、魚介類を食べた後に起こりうるのが、時々経験されるのが『アニサキス』による症状です。

アニサキスはイカやサバに寄生することが多いというイメージがあるかと思いますが、実はキンメダイ、ホッケ、サワラなどにも多く寄生しているとされています[1][2]。

アニサキスは数mm程度の寄生虫で、アニサキスによる症状は、2種類に大きく分けられます

その区別を意識すると、対策もちょっと変わってきます。

そこで今回は、その2種類の症状を簡単に解説してみたいと思います。

アニサキスは、どのように人間の体にはいってくる?

写真:アフロ

アニサキスの成虫は、海洋哺乳類、すなわちクジラやイルカなどの哺乳類の胃に寄生しています。それらの糞と共に海中にアニサキスやその卵がばらまかれ、そして魚のエサとなるオキアミがそれを食べ、さらにオキアミを食べた魚やイカを、私達が食べています[3]。

そして、アニサキスによる症状は大きく2つに分けられるとお話ししましたね。

アニサキスが胃や小腸に噛みついて症状が起こる『アニサキス症』

写真:イメージマート

まず1つ目が、アニサキスが胃や小腸に噛みついて症状が起こる『アニサキス症』です。

そして、2つ目が、アニサキスを食べて、アニサキスにアレルギー症状を起こす『アニサキスアレルギー』です。イカアレルギーだと思っていたら、アニサキスアレルギーだったなんていう話は少なくありませんので、注意が必要です。

生きているアニサキスが胃とか小腸に噛みついて起こる症状がアニサキス症ですから、生きているアニサキスが寄生している可能性が少ない魚を選んだり、もしくは、生きているアニサキスが少なくなるような調理をしたりすれば良いということになります。

例えば、天然の魚を生で食べることを避けたり、アニサキスが少ない養殖魚を選んだりとか、熱を加えてから食べるとか、もしくは-20度で24時間以上冷凍するなどして、アニサキスを減らすという方法が考えられます[2]。

なお、酢で〆たり、わさびなどを使ってもアニサキスを殺すことは難しいことが分っています[2]。

では、アニサキスアレルギーとは?

一方、アニサキスによるアレルギー症状は、生きているアニサキスを減らしても、症状が出ることがあります。

アニサキスに含まれたアレルゲンは、すくなくとも14種類以上あります[4]。

そしてその一部は加熱をしたりしても、アレルギーの力が落ちにくいことがわかっています。すなわち、生食のほうがリスクは高いのですが、加熱をしてもアレルギー症状は起こりうるのですね。

アニサキスアレルギーを起こしやすい人とは?

写真:イメージマート

さて、アニサキスアレルギーになりやすい理由として、生の魚をよく食べるとか、長く食べている方のほうが起こりやすいことがわかっています。

ですので、どちらかというと中高年の方に多いアレルギーで、小児は少ないです。

なお、一般的には2時間以内で症状がでることが多いのですが、12時間くらいまで症状が出現する可能性があり、一般的な食物アレルギーよりも長いケースがあります[5]。

ですのでアニサキスアレルギーは、それまでの状況、年齢や食べてからの時間などをくわしく聞く必要性があります。そして、加熱をした魚でも症状が出ることがあるということも念頭にいれなければならないでしょう。

アニサキスアレルギーの検査は?

提供:イメージマート

アニサキスアレルギーを疑った場合は、アニサキスに対するアレルギーを獲得しているかどうかをIgE抗体という血液検査で推測することが多いです。これだけで確定はできませんが、推測することが可能です。

なお、アニサキスを食べる機会を少なくするとアニサキスに対するIgE抗体の数値は下がってくるようです。しかし、生の魚介類をよく食べる方や、魚をよく触るような職業に就いている方などは、IgE抗体の数値が下がりにくくなることも知られています。

とは言え、生の魚を食べる、いわゆる刺身を食べることは、日本人の食生活に非常に根付いているものですよね。ですので、なかなかそうも言っても…と言われる方も少なくないようです。

子どもに関しては、アニサキスアレルギーは比較的少ないのですが、食生活の変化に応じ、子どもでも増えてくるかもしれないと考えられます。

また、魚アレルギーも比較的多いアレルギーですので、区別を考えていくためにも、知識を深めていかないといけないでしょう。

さて今回は、アニサキスによる症状を、アニサキス症とアニサキスアレルギーにわけてお話しました。

なにかの参考になれば幸いです。今年もよろしくお願いいたします。

この記事は、音声メディアVoicyで放送した内容を、加筆・修正して作成しました。

アニサキスによる症状のメカニズムは2つあるという話

参考文献

[1]魚種別アニサキス寄生状況について(平成24年4月から令和2年3月まで)

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/anzen_info/anisakis/tyousa2.html

[2]臨床栄養 2021; 138:165-7.

[3]Anisakis(ScienceDirect)

https://www.sciencedirect.com/topics/biochemistry-genetics-and-molecular-biology/anisakis

(2023年1月3日アクセス)

[4]Kobayashi Y, Kakemoto S, Shimakura K, Shiomi K. Molecular Cloning and Expression of a New Major Allergen, Ani s 14, from Anisakis simplex. Shokuhin Eiseigaku Zasshi 2015; 56:194-9.

[5]Daschner A, Alonso-Gómez A, Cabañas R, Suarez-de-Parga JM, López-Serrano MC. Gastroallergic anisakiasis: borderline between food allergy and parasitic disease-clinical and allergologic evaluation of 20 patients with confirmed acute parasitism by Anisakis simplex. J Allergy Clin Immunol 2000; 105:176-81.

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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