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世界で麻疹(はしか)の患者が急増。日本でも大きな流行になるリスクが高まっています

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
PhotoAC

麻疹(ましん)は侮れない病気です。

日本でも、戦前には1年間に1万人の子どもが亡くなっていましたし [1]、現在の先進国でも肺炎は100人に5人、脳炎が1000人に1人に起こり、後遺症も起こしやすいのです。

Journal of Infectious Diseases. 2004;189(Supplement_1):S4-S16.の図より筆者作成
Journal of Infectious Diseases. 2004;189(Supplement_1):S4-S16.の図より筆者作成

麻疹ウイルスの感染力はきわめて高い

そして麻疹ウイルスは、非常に感染力が強い、空気感染を起こすウイルスです。

1人のインフルエンザ患者は、周囲の免疫を持たないひと1.3人に感染させることがわかっています[2]。増えるイメージを例えるなら、100万円の借金が、数日で130万円になるようなイメージでしょうか。

しかし麻疹ウイルスはさらに感染力が強く、周囲の免疫を持たない人10人以上に感染を成立させます

シルエットACの素材から筆者作成
シルエットACの素材から筆者作成

ですので、麻疹のアウトブレイクを予防するには、95%以上の方に対する予防接種が必要なのです[4]。

コロナ禍で世界的に接種率が下がり、すでに流行がはじまっている

しかし、新型コロナの流行も影響し、世界での麻疹の予防接種の初回接種率は81%、2回目の接種が71%となり、2008年以降で最も低い接種率になりました [5]。

そのような状況から、世界各地で麻疹の流行が始まり、多くの方が亡くなっています[6]。それは先進国も例外ではありません[7]。

日本ではどうでしょうか。

2020年度に比較して、2021年には全国の麻疹の予防接種率が5ポイントさがったことが報告されています[8][9]。

つまり、『いつ流行するかわからない』状況に陥っているのです。

麻疹ウイルスは、『麻疹に対する抗体を持っていないひとを狙い撃ちに』しますし[10]、麻疹に対する特効薬はないのです。

現在、麻疹(はしか)のアウトブレイク(突発的な大流行)が起こるリスクが高まっています。もし、麻疹の予防接種が済んでいない方は、はやめに接種をおすすめいたします。

参考文献

[1]新型コロナが怖くて予防接種しないとどうなる? 小児科医が恐れる感染症の怖さ

[2]BMC Infect Dis 2014; 14:480.

[3]Lancet Infectious diseases. 2017;17(12):e420-e428.

[4]Journal of the Royal Society Interface 2010; 7:1537-44.

[5]Measles an imminent global threat due to pandemic, CDC and WHO say

2022年12月10日アクセス

[6]Global Measles Outbreaks(CDC)

2022年12月10日アクセス

[7]What Can We Learn From The Growing Measles Outbreak In Ohio?

2022年12月10日アクセス

[8] 令和3年度麻しん風しん定期予防接種の実施状況の調査結果について(国立感染症研究所)2022年12月10日アクセス

[9]第1 期 麻しん風しんワクチン接種状況(国立感染症研究所)2022年12月10日アクセス

[10]N Engl J Med 2016; 375:1343-54.

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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