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子どもの入浴中の浮き輪について

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

『首浮き輪』に関する話題が、SNSで拡散していました。

首浮き輪とは、首に引っ掛けて使用する、主に乳幼児が使う浮き輪のことです。

首浮き輪以外にも、浮き輪に足を通す隙間が作られ、それを装着する『足入れ浮き輪』があります。

イラストAC
イラストAC

『首浮き輪』は、もともとプレスイミングのために開発されましたが、2019年に実施された日本小児科学会の小児救急委員会の調査では、回答者の2割以上の方が入浴中に使っており、浴槽で使用されている浮き輪は、首浮き輪が86.8%、足入れ浮き輪が11.9%だったという調査結果が得られています[1]。

すなわち、本来の使い方ではない方法で使用されているケースがあるということですね。

そして問題は、入浴中に使用しているこれらの浮き輪で事故が起こっていることです。『浮き輪を使用していて溺れかかった』と回答した方は、首入れ浮き輪で0.8%、足入れ浮き輪で4.1%でした[1]。

2008年から日本小児科学会は、重症度が高い傷害を繰り返さないために、様々な事故の発生状況を「Injury Alert(傷害速報)」の項目を設けて情報を共有する努力を続けています[2]。

そして、浴槽内で起こった浮き輪による事故に関しても共有しています[3]。それぞれ、大きな事故と言えるでしょう。

出典3より筆者作成
出典3より筆者作成

そして多くは、一緒に入浴している大人が数分目を離したときに発生していることも明らかになっています。

もちろん、一緒に入浴している大人が、常に目をはなさないということは難しいですよね。

多くの方は、複数の大人でお子さんの入浴をさせることができるとは限らないのですから。

子どもが溺れるときは『静かに溺れます』。溺れていても気づかないものなのです。

(※教えてドクターチームの坂本昌彦先生から許可を得て引用)

ですので、バスチェアなど入浴中に子ども達が使用するツールとして活用しながら、子ども達の安全に配慮する必要性があるでしょう。

何かの事故(アクシデント)があった場合には、そのリスクの高い数百倍の出来事や事件(インシデント)があります。

イラストACの素材より筆者作成
イラストACの素材より筆者作成

溺水は、不慮の事故として重大な後遺症を残しうる大きなアクシデントです。

日本小児科学会は、『Injury Alert』のなかで、『子どもたちの傷害を予防するため、小児科医には貴重な症例を報告する責務があると考えています』と表明し、この問題に継続して取り組んでいます。

そして、多くの小児科医が協力を続けています。

上手に、そして安全にツールを活用できるように、このような情報を共有していくことが、子どもの不慮の事故を減らすことにつながればと思います。

そして、楽しい家族でのバスタイムとなることを、願っています。

[1]日本小児科学会雑誌 2021;125:534-9.

[2]Injury Alert(傷害速報)

日本小児科学会

[3]Injury Alert(傷害速報)(原因対象物:浮き輪で検索)

日本小児科学会

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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