新型コロナの感染者数が増えるなか、子どもの受診患者さんも大きく増えています。

一方で、厚生労働省から発表されている新型コロナによる重症者の数はそれほど多くないように見えます[1]。

データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-(厚生労働省)2022年8月2日アクセス
データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-(厚生労働省)2022年8月2日アクセス

たしかに、日本全体としては予防接種率が上がり、以前の流行に比較すると患者数に比較して重症者が少ない状況となってきました。そして、それこそ風邪とそれほど変わらない症状の方も多くなっています。

では、『軽症ならばだいじょうぶだろう』といえるでしょうか。

前線で医療に携わっていると、異なる風景が広がっています

多くの方々が感じている『重症』と『軽症』は異なる可能性があるのです。

このようなお子さんの受診が増えています

たとえば、以下の動画にお示しするような患者さんが多く受診されています。

※なお、今回挙げた動画はYouTubeから引用しています。

苦しまれるお子さんの動画をみることで気持ちが苦しくなる方は、この先はご覧にならないことをおすすめいたします

これらの動画はコロナそのもので起こった病状ではありません。

しかし、これらの病気が、現在、コロナを原因として起こっていることは、多くの小児科医が同意されるものと思います。ネット上で情報を共有してくださっている方々に感謝いたします。

例1

発熱患者さんに増えている病態に『熱性けいれん』が挙げられます。

主に生後6か月~5歳の子どもに、典型的には全身のけいれんが起こります。

熱性けいれんは、一般的に、数分程度で収まり経過は悪くはないのですが、稀に『けいれん重積』という長い発作になる子どもさんもいます。その場合は単なる熱性けいれんではなく脳炎や脳症のリスクが高くなります。

これらは、もし発熱がコロナで起こっていたとしても、『軽症』に分類されます。

例2

オミクロン株は、デルタ株に比較して、上気道でとどまることが多いです。

そのため、声帯付近の喉頭(こうとう)が腫れて気道が細くなり、オットセイが鳴くような咳といわれる特徴的な咳(犬吠様咳嗽)や声がれ(嗄声)がでてくる病気、『クループ症候群』が見られます。

このように苦しそうな呼吸となるようなクループ症候群だとしても、酸素が必要なければ新型コロナの重症度は『軽症』に分類されます。

例3

オミクロン株による新型コロナの症状として嘔吐や下痢が起こり水分が十分取れなくなることで脱水に陥る子どもさんもいます。さらに、喉の痛みも脱水を進めます。

重症の脱水症になったとしても、集中治療室に入室することなく呼吸に問題がなければ新型コロナとしては『軽症』に分類されます。

これらの病状をご覧になって、皆さんはどのように感じるでしょうか?

これらを、軽症と感じるでしょうか?

それとも、重症と感じるでしょうか?

もちろん感じ方は様々かと思いますが、軽症とは思いづらいのではないでしょうか。

新型コロナの重症者とは、①人工呼吸器を使用、➁ECMOを使用、③ICU等で治療、のいずれかの条件に当てはまる患者とされています[2]。

これまで新型コロナでは、呼吸が苦しくなって亡くなる方が多かったため、このような『呼吸器に注目した分類』となっていました。

しかし、多くの方が亡くなったデルタ株と異なり、オミクロン株による症状は上気道、すなわち喉より上が標的となる傾向にあります[3]。

ですので、肺がターゲットなって酸素が取り込みにくくなることを重視していたこれまでの重症度分類とは印象が異なっているのです。

本当の問題は、『安全域ののりしろ』が大幅に狭くなっていること

写真:イメージマート

しかし問題は、これらの症状だけではありません。

先程、『熱性けいれん』のお子さんの動画を示しました。

たしかに、熱性けいれんの多くは、かならずしもリスクは高いわけではありません。新型コロナの検査が陽性であっても、軽症に分類されるでしょう。

しかし、『リスクの低い熱性けいれん』と100%言い切ることができるのは、実はお子さんが元気になってから、改めて見返したときなのです。

それまでは、他の原因がないかどうか、たとえば脳炎であるなど、脳そのものへの感染や炎症が起こっていないのかを見守り、考えていく必要性があります。

多くの場合は、医師はそのリスクをある程度正確に評価することができます。

しかし、人間の体は複雑なものです。いつでも100%正確にリスクを判断することはもともと困難なのです。

『入院で一晩様子をみておくと安心かもしれない』

『入院して、もっと検査をしておいたほうが良いかもしれない』

そんなふうに思うケースは、少なからずあります。

しかし、現在のように患者さんが大きく増えて、お一人お一人に診察時間が十分に確保できなくなり、防護服を着なければならず、入院ベッドが制限され、医療スタッフが少なくなっている状況では、そのような『安全を取るためののりしろ』が極端に狭くなってしまいます

もともと、小児科をみている病院数はどんどん減っていました。

小児科を標榜している施設数は、1993年には4026ありました。しかし、2009年に2905施設、2019年には2539施設となりました。

そもそもの受け皿が小さくなっているのです[4][5]。

はたして、多くの病院のベッドは埋まり、外来は十分な機能を持ちにくくなりました。

皆でこの波を越えられることを願っています

写真:アフロ

子どもたちは、ワクチンの恩恵を十分に受けないまま、この波をかぶることになりました。

この波を越えられるように、多くの医療者ががんばっています。

そしてもちろん、お父さん、お母さん、医療者以外の方々も感染予防に気をつけてお仕事をがんばっていらっしゃることでしょう。

ありがとうございます。

私もまた、夜間の救急外来に向かいます。

なんとかこの流行の大きな波を、被害をすくなく乗り越えられることを願っています。

【参考文献】

[1]データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-(厚生労働省)2022年8月2日アクセス

[2]新型コロナウイルス感染症_重症度分類(医療従事者が評価する基準)2022年8月2日アクセス

[3]Lancet 2022;399:1618-24.

[4]小児医療に関するデータ 厚生労働省

[5]令和元(2019)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況