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保育所に通い始めると増える風邪。活用できるツールとは?

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

新学期となり、集団保育の生活が始まったお子さんも多いことでしょう。

きっと楽しいこともたくさんあることでしょう。でも、保護者さんにとって気になる点のひとつとして、お子さんの『風邪』があるのではないでしょうか。

集団保育が始まると風邪の回数は一時的に大きく増えていることがわかっています。

フィンランドで行われた研究で、風邪を含む呼吸器感染症の日数は、集団保育開始前1ヵ月間の平均3.79日から集団保育開始2ヵ月後には10.57日に増えたとされています[1]。

その後、半年程度で風邪の回数は大きく減り、9ヵ月後には集団保育前の回数に近づくともされているのですが、『集団保育へ行き始めの繰り返す風邪のヤマ』が心配事であることは間違いないところでしょう。

そこで今回は、子どもの風邪に対し有効なツールに関して、簡単に解説してみたいと思います。

風邪の原因になるウイルスには、多くの種類がある

写真:イメージマート

『風邪』には、さまざまな原因となる『ウイルス』がいます。

それこそ200種類以上もいるのですが、そのうち、最も多いウイルスは『ライノウイルス』というウイルスで、100種類以上もいることがわかっています。

『ライノ』というのはギリシャ語で『鼻』を意味します。つまり、ライノウイルスとは『鼻風邪ウイルス』ということです。つまり、どちらかというと『鼻風邪』を多くひくことが多いと言えるでしょう。

ウイルスには抗菌薬の効果はありませんし、基本的にウイルス性の風邪に罹っている最中に抗菌薬を予防的に飲んでも気管支炎や中耳炎の発症を予防はできません[2]。

そしてよく風邪薬に『鼻水止め』として処方されるのが抗ヒスタミン薬ですが、抗ヒスタミン薬は、風邪の治療において利益はほとんどないだろうということがわかっています[3]。

特に、小さい子どもの風邪による鼻水の治療に関してはいい薬があまりないのが現状です。そこで勧められるのが、『鼻水を器械で吸引する』という方法です。

鼻水を吸うと、どれくらい風邪の症状を軽くするのでしょうか?

鼻水を吸引することで、子どもの風邪を軽くする、もしくは悪化を防ぐかを検討したポルトガルからの研究結果があります[4]。

この研究では、保育所に通う3歳までの138人のお子さんを対象にしました。

そして、

1)風邪とはどういうものかなど教育を受けたグループ34人。

2)鼻水を吸引するように指導を受けたグループ 35人。

3)風邪とはどういうものかなど教育を受け、さらに鼻水を吸引するように指導を受けたグループ31人。

4)何も指導を受けなかったグループ38人。

の4つのグループに分け、1ヶ月間観察されました。

すると、風邪の教育や鼻水を吸引する方法を指導されたグループでは、下気道感染(肺炎や気管支炎)や中耳炎を起こす率が大きく減ったのです。

特に、鼻水を吸引するという方法はとても有効だったとされ、保育所を休む日数や保護者さんが仕事を休む日数も少なくなったのです。

この研究では、保育所を休んだ日数や保護者さんが仕事を休む日数をグループ全体の1ヶ月間の合計で検討されました。

すると、1ヶ月で保育所を休んだ合計日数は、何も指導されなかったグループ38人では55日、鼻水吸引を指導されたグループ35人の合計は14日。

保護者さんが仕事を休んだ合計日数は、何も指導されなかったグループ38人では合計31日、鼻水吸引を指導されたグループ35人では合計5日でした。

文献4より筆者作成
文献4より筆者作成

この研究では、グループごとの人数にいくらか差があるので少し不平等な感じはしますし、生理食塩水という鼻に入れても刺激がすくない水を使って鼻水を吸いやすくしたり、圧を十分にかけて鼻の奥の方の鼻水を十分に吸ったりしています。ですので日常的に家庭で行う方法ではここまでではないかもしれませんが、鼻水を吸うことが、風邪の悪化を防いだり保育所のお休みを減らす効果はあるといえそうですね。

入園後の『風邪の壁』をすこしでも楽に超えていくことを願っています

写真:アフロ

なお、『早く集団保育に行くと風邪をしょっちゅうひくからいけない』という意味ではありません。

たしかに、3歳までに集団保育を始めた子どもは、集団保育に行っていない子どもよりも2歳時点での風邪の回数は多いのですが、6歳~11歳ではむしろ風邪の頻度は少なくなります。そして13歳になると、集団保育に早く行き始めた子どもも、遅く行き始めた子どもも、風邪の回数はかわらなくなっていきます[5]。

ざっくり言えば、道筋は異なっても、最終的には風邪のウイルスにどこかで出遭うことになり同じ場所にたどり着く…というような感じといえばいいでしょうか。

でも、できれば同じ目標に達するならば、風邪をひどくしないように、そして園を休む期間を減らしたいところですよね。

ですので、少し高価かもしれませんが、鼻水を吸引する器械を今のうちに手に入れておいてもよいかもしれません。ECサイトで十分な効果が望める製品が1万円前後で販売されています。

この記事が、これから入園する子どもたち、そして保護者さんの参考になればと願っています。

【参考文献】

[1]BMJ open 2017; 7.

[2]秋に多くなる鼻風邪には、抗生物質は効かず、風邪薬は効果が薄い?なら、どのように対処したらいいの?

[3]Cochrane Database Syst Rev 2015:Cd009345.

[4]European Journal of Pediatrics 2017; 176:1375-83.

[5]Arch Pediatr Adolesc Med 2002; 156:121-6.

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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