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おたふくかぜ(ムンプス)の流行が近づいている?おたふくかぜによる難聴は治りにくい?小児科医が解説

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
イラストAC

おたふくかぜは、唾液腺という唾液(つば)を作る組織に炎症を起こして腫れるウイルスによる感染症です。

東京都では、2009~2010年に大きな流行が発生し、その5年後になる2015~2016年にも流行が認められました[1]。おたふくかぜは、5年ほどの周期で流行を繰り返すことが知られているのです。

国立感染症研究所のホームページより(文献1)
国立感染症研究所のホームページより(文献1)

さらに、製薬会社の設備トラブルにより、しばらくおたふくかぜワクチンの流通に制限がかかり、接種したくとも接種できない方がいらっしゃいました。

すなわち、次の流行が近づいている可能性が高いといえます。

おたふくかぜウイルスは、体の中のさまざまな組織に到達する能力があって、耳下腺炎だけでなくさまざまな合併症を起こすことが知られています。

たとえば2015年から2016年の流行では、おたふくかぜによる高度難聴を350人以上の方が発症しました[2]。

そしてようやく、2021年10月末におたふくかぜワクチンが出荷再開になり、接種再開できる方が増えています[3]。

おたふくかぜ(ムンプス)とは?

写真AC
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おたふくかぜ(ムンプス)は、ムンプスウイルスによる感染症です。

ムンプスウイルスは、唾液がしぶきとしてひろがることによって飛沫感染を起こします。一般的に潜伏期間は2~3週間(16~18日)程度です。

感染しても30%程度の方には症状がでませんが、年齢が高くなるほどはっきり症状がある方が増え、4歳を越えると90%が症状を示します[4]。

ムンプスウイルスは、唾液腺のうち、耳下腺が腫れることが多く、医療用語としてはムンプスとか流行性耳下腺炎と呼ばれています。

ムンプスウイルスは、体の中の様々な組織に侵入していきます。

そして、多彩な合併症を引き起こすことが知られています[5][6]。

文献[5][6]より筆者作成
文献[5][6]より筆者作成

その中でもとくに気をつけなければならない大きな合併症が髄膜炎と難聴でしょう。

ムンプスウイルス感染による合併症である髄膜炎と難聴

写真AC
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髄膜炎とは、脳を覆っている髄膜に感染を起こす病気です。

脳は豆腐のようにやわらかい組織なので、それこそ豆腐を水を満たした容器に浮かべて傷まないようにするように、髄膜の中に髄液という水を満たして浮かべているのです。

その髄液に、ムンプスウイルスは容易に侵入します。

ウイルスが髄液に入ってくると、体は戦うための白血球を髄液に送り込みます。ですので、普段より多い白血球が髄液から検出されるようになります。その現象(髄液細胞数増多)はおたふくかぜの50~60%に認められます。

そして、髄液でのウイルスと白血球の戦いにより髄液の圧が高まり、髄膜炎の症状である頭痛や発熱、嘔吐などがでてくる方が、1~10%に起こるのです

そして大きな合併症として難聴があります。

ムンプスウイルスは、耳の機能の根幹といえる『内耳』という組織に侵入し、荒らしていきます。

この難聴は高度となることが少なくなく、さまざまな治療の効果がなくほぼ治らないことがわかっています[7]。

その頻度は従来約15000例に1人とされていましたが、最近の報告では1000例に1例(0.1%)の頻度とかなり高いことがわかってきています[6]。

日本ではおたふくかぜワクチンは任意接種ですが、効果の高いワクチンが使用できます

写真AC
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おたふくかぜは、予防接種で多くは防ぐことができる感染症です。

しかし、集団免疫としての予防接種率は75~86%が必要と考えられているものの、現在の日本の接種率は30~40%にとどまっています。

すなわち、次の流行を防ぐことは難しいことがわかっています。

日本で使用されている株と、海外でひろく使用されている株の違いなどはありますが(これは別の機会に解説したいと思っています)、どちらも性能の高いワクチンです。

インフルエンザワクチンと同時接種も可能であり、接種間隔に自由度が高まっています

新型コロナ以外の他のワクチンと同時接種可能で、接種間隔も2020年10月のルール変更から、自由度が高まっています[8]。

たとえばインフルエンザワクチンの翌日におたふくかぜワクチンの接種も可能ですし、さらにはおたふくかぜワクチンの翌日にインフルエンザワクチンの接種も可能です。

簡単に、接種間隔の表を作成しましたが、細かいルールもありますので、お近くの医師にご相談くださいね。

筆者作成
筆者作成

また、現状では新型コロナのワクチン接種前後2週間あける必要性がありますのでご留意ください。

わたしも、これまでおたふくかぜによる高度難聴のお子さんを診療してきました。

ひとりでも新たな難聴の方が少なくなることを願っています。

[1]<特集>流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)2016年 9月現在(国立感染症研究所)

[2]日本耳鼻咽喉科学会会報 2019; 122:1172-3.

[3]武田薬品のおたふくワクチン25日に出荷再開…設備トラブルで一時停止、各地で接種休止相次ぐ

[4]小児科 2002; 43:217-22.

[5]Lancet 2008; 371:932-44.

[6]Pediatr Infect Dis J 2009; 28:173-5.

[7]Acta Otolaryngol 2017; 137:S44-s7.

[8]予防接種ルールが10月から変更 大事なポイントは接種間隔の変更と「ロタウイルス」の定期接種化

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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