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成人でも入院の原因として注目されるようになったRSウイルス感染症が、現在増加しています

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:PantherMedia/イメージマート)

RSウイルスは2歳までに1回は必ずかかる疾患です。かぜ症候群の原因として、インフルエンザウイルスに次ぐくらいのイメージの、ポピュラーなウイルスです。

しかし、特にRSウイルスに『初めて』罹ったときには約15〜50%が気管支炎や肺炎を起こし、1〜3%で入院を経験し、生後2〜6か月の乳児が最も入院リスクが高いと推測されています。

Clin Rev Allergy Immunol 2013; 45:331-79.

RSウイルス感染症は、お年寄りでも入院するほど悪化することが多いことがわかってきました

写真:アフロ

一般に、繰り返し罹っていく間に徐々に軽症化していくため、子どもの感染症と考えている方も多いのですが、最近になってお年寄りにとっても、RSウイルス感染症は大きな入院原因になることがわかってきています。

たとえば2019年に報告された先進国の高齢者におけるRSVによる急性呼吸器感染症のエピソードは約150万件であり、そのうち病院に入院したのは約14.5%だったと報告されています。

J Infect Dis 2020; 222:S577-s83.

成人でも、とくにお年寄りでは決して侮れない疾患ということです。

RSウイルス感染症は一般的に冬から春先にかけて流行する感染症でした

写真:アフロ

RSウイルスは、以前は冬季を中心に流行していました。

しかし最近になって夏季に流行することが増えてきており、問題視されていました。

2歳までに1度は感染するRSウイルス、なぜ冬ではなく今流行しているの?

一方、多くの方々が感染予防に努めた2020年は、夏季も含め散発的な流行を除き1年を通して流行がほとんどみられなかったのです。これは、鼻風邪ウイルスでもっとも多い原因であるライノウイルスを除き、世界的な傾向となっていました。

Jones N. How COVID-19 is changing the cold and flu season. Nature 2020; 588:388-90.

しかし、夏季でも冬季でもない今、RSウイルス感染症が大きく増えてきており、2021年4月12日~4月18日の全国感染者総数は3528人と報告されています。

特に、西日本・東北・北陸では流行が大きな波となってきており、例年の流行期に匹敵するほどの状況です。

外来診療の場合、RSウイルスの迅速検査(インフルエンザの迅速検査と同じような検査方法)の保険適応があるのは1歳未満のみです。ですので、実際の感染者数はさらに多いと予想されます。

RSウイルスinfo.net

ブロック別 RSウイルス感染症流行状況(大阪府感染症情報センター)

大阪府感染症情報センター(http://www.iph.pref.osaka.jp/teiten/20210128105633.html)より筆者作成
大阪府感染症情報センター(http://www.iph.pref.osaka.jp/teiten/20210128105633.html)より筆者作成

RSウイルスに感染したら、全員が悪化するというわけではありません。しかし乳幼児におけるRSウイルス感染の流行がさらに拡大してくれば、新型コロナウイルスとの流行が同時に起こってくることになり、懸念が増している状況です。

RSウイルスに対する一般的に使用できるワクチンは、現在ありません

写真:アフロ

2020年は、新型コロナを除き、多くの感染症が収束している状況でした。

しかし今後は、新型コロナだけでなく他の感染症の流行状況も把握しながら、リスクを評価し対応していく必要があると考えられます。

残念ながら現状では、RSウイルスに対する広く使用できるワクチンはありません。

RSウイルスに対する抗体を重篤化しやすい未熟児など一部の方に、流行しやすい時期にのみ特殊な抗体を定期的に補充するという方法がありますが、その抗体はきわめて高価ですし自然に効果は低下してしまいます。

ワクチンが望まれているのですが、実用化には至っていません。

現在、新型コロナで実用化されたmRNAを使用したRSウイルスに対するワクチンが開発中とされています。

モデルナ、業界をリードする一連のmRNAワクチンにおける臨床試験での進展を発表

これまで製造が難しかったウイルスに対してのワクチンが、今後増えてくるのかもしれませんが、現状では感染症の予防策を継続していくことが最大の予防法といえるようです。

新型コロナだけでなく、他の感染症に関しても配慮が必要になったこの時期に、なにかのお役に立てば幸いです。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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