Yahoo!ニュース

新型コロナが心配です。酸素濃度を測る器械を持っていた方がいいですか?

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
写真AC

最近、ニュースなどで酸素飽和度(サチュレーション)という言葉を耳にすることが増えました。外来でも『酸素濃度を測る器械って、購入した方がいいでしょうか?』という質問を受けることがあります。

簡便に測定できる『酸素飽和度』とはどのようなものなのでしょうか?

新型コロナに感染した際にみられる、『Happy(Silent) hypoxemia』という現象があります

新型コロナに感染した際に、自覚症状がない間に血液内の酸素濃度(酸素飽和度)が下がる、『Happy(Silent) hypoxemia』という状態がみられることがわかっています(※1)。

(※1) American journal of respiratory and critical care medicine 2020; 202:356-60.

さらに昨日、スマートウォッチに備わっている心拍数の動きで、新型コロナに感染しているかどうかを検出できるかもしれないというニュースもありました(※2) 。

(※2) Apple Watchが無症状のうちに新型コロナ感染が検出できるかもしれないとの研究報告

はたして酸素飽和度や心拍数は、新型コロナの感染を見分けることができるのでしょうか

酸素飽和度って?80でも大丈夫?

提供:akaricream/イメージマート

『酸素飽和度(SpO2)』は、体の血液のなかにどのくらい酸素が含まれているかをみる目安で、現在はセンサーで簡単に測ることができます。

本来、正確な血液中の酸素をみようとするときは、動脈から採血をして『動脈血酸素分圧(PaO2)』という数値を測定します。でも痛いですし、簡単ではないですよね。

ですので、センサーで簡単に測定できる『酸素飽和度』はとても有用なのです。勘違いされやすいのは、0から100で表されるので、テストの点数のように90という数字でも大丈夫と思いがちな点です。

動脈血酸素分圧と酸素飽和度は同じ数字ではなく、ざっくりグラフにするとこんな感じになります。

筆者作成
筆者作成

つまり、センサーで簡単に測定できる酸素飽和度が90%を下回ると、動脈血酸素分圧は60Torr(トールと読みます)くらい、すなわちテストの点数のイメージで60点くらいというイメージになります。

酸素飽和度は、若い健康な方でほぼ100Torr、お年寄りで健康な方で80Torrくらいですので、健康であれば酸素飽和度が90%を下回ることはありません(さまざまな基礎疾患がある場合は別です)。

しかし、新型コロナが感染すると、上のグラフの曲線が左に動いたり、血液の中で酸素を運搬するヘモグロビンに直接コロナウイルスが作用したりする可能性がでてきます(※3)。

(※3) Respiratory research 2020; 21:1-9.

曲線が左にずれるというのは下のグラフのようになり、酸素飽和度が下がっていなくても、動脈血酸素分圧は下がっている可能性が出てくるということです。

動脈血酸素分圧が下がっても苦しさを感じにくくなるというのは問題です。

例えるならば、高度計が故障していて、飛行機が高度が下がって地面が近づいていても気がつかないようなものです。

なにかの拍子で大事故をおこしやすいのですね。

新型コロナの場合は、この酸素飽和度が下がっても気がつきにくいことがあり、『Happy hypoxemia(幸福な低酸素血症)』と呼ばれているのです。

スマートウォッチなどのデバイスで、酸素飽和度や心拍を測っておくのは有用?

写真:アフロ

先ほど、スマートウォッチ(Appleウォッチ)で新型コロナに感染しているかどうかが予想できるかもという話題がニュースになったとお話ししました。この研究では、心拍の変動を記録していき、その動きが小さくなると新型コロナに感染している可能性が高くなることが示されています(未査読論文※4)。

(※4) Hirten RP, et al. Longitudinal Physiological Data from a Wearable Device Identifies SARS-CoV-2 Infection and Symptoms and Predicts COVID-19 Diagnosis. medRxiv 2020.

これはApple社でなければならないわけではもちろんなく、他社のスマートウォッチでも同じような報告がなされています。

たとえばFitbitというメーカーのスマートウォッチを利用していた約5300人から新型コロナに感染した方が32人あったというデータを解析した研究があります。すると、26人(81%)の心拍数、1日にあるいた歩数、睡眠時間に有意な変化があったという結果でした(※5)。

(※5)Nature Biomedical Engineering 2020; 4:1208-20.

とはいえ、酸素飽和度や心拍数は、『新型コロナだけで』変化するわけではありません

たとえば、頭痛があれば偏頭痛と診断がつくわけではありませんが、偏頭痛の方の大部分が頭痛を持っているはずですよね。

一方で、『酸素飽和度が下がっていれば新型コロナ』ということは簡単ではなく、『新型コロナで悪化した方は酸素飽和度が下がっているケースが多い』ということです。

しかし、こういったデバイスで日頃のご自身の体調をつかんでおくことは決して悪くはないでしょう。高血圧の方が毎日血圧を測ったり、糖尿病の方が血糖を測定しているのと同様です。

自分の体を見つめ直す機会になるということです。

ですので、最初に挙げた『酸素濃度を測る器械って、購入した方がいいでしょうか?』という質問に私は、『新型コロナに関係なく、自分自身の体を見つめ直すことはいいかもしれませんね』とお答えすることにしています

そして、こういったデータが積み上がってビッグデータになり、さらに他の病気の発症も早期に発見できるようになればいいなと思っています。

コロナ禍が続いています。

こういったデバイス以上に、皆さんがご自身の健康に留意されながら、日々を過ごされることを願っています。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

堀向健太の最近の記事