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秋に多くなる鼻風邪には、抗生物質は効かず、風邪薬は効果が薄い?なら、どのように対処したらいいの?

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
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子どもの風邪の回数って多く感じますよね。

実際に、大人よりも子どものほうが風邪に多くかかります。

たとえば2歳未満の子どもは年間6回、成人では2-3回、高齢者でも年間1回、風邪にかかるという報告があります(※1)。

(※1)Allan GM, Cmaj 2014; 186:190-9.

特に、保育園や幼稚園に通い始めると、風邪にかかる回数は大幅に増えますし春と秋は風邪のシーズンなので、感染予防を心がけていてもどうしても風邪をひくお子さんは増えてきます。

そこで、秋に流行する風邪に関して、簡単に解説することにしましょう。

そもそも『風邪』ってなに?

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『風邪』は悪霊が吹かせる邪悪な風によっておこると昔は考えられ「風邪(ふうじゃ)」と呼ばれていました。それが明治になって『風邪(かぜ)』と記載するようになったそうです(※2)。

(※2)JOHNS 33(1): 5-7, 2017.

本来、感染症に医学的な診断を下す場合、気管支炎・肺炎・中耳炎・副鼻腔炎などと、その感染した場所の名前がつけられます。

そして医師は『風邪』のことを、『上気道炎』と呼んでいます

ざっくりいうと、『のどより上が上気道』『のどより下が下気道』です。そのうちの上気道に感染を起こして症状を起こした病気ということですね。

イラストACより筆者作成
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でも、『上気道』といっても、のども、鼻も、気管も含んだかなり広い範囲です。

つまり、風邪のウイルスは鼻だけでなくのどや気管にも広がるので、『上気道炎』と呼んでいるのです。風邪薬のCMなんて、『のど』『せき』『はな』に効くっていっていますものね。そんな症状がでてくるということです。

風邪の原因は、細菌?ウイルス?

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細菌とウイルスの区別はおもったほど知られていないようです。

厳密な話をするとむずかしくなるのですが、ここではざっくりその区別の仕方を解説しましょう。

ウイルスって、人間の体に感染して増えていきます。

いかにも『生き物(いきもの)』っぽく感じますよね。

でも、ウイルスは『生物(せいぶつ)』ではありません

なぜでしょう?

それは、ウイルスは『細胞』を持たないからです。

細胞というのは、言ってみれば住むための部屋みたいなものと考えればいいでしょう。

イラストAC・写真ACより筆者作成
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細胞をもっている細菌は、自分自身だけで増えていくことができます。

しかし、ウイルスは自分自身だけでは増えていくことができません。

ですので、ウイルスは人や動物に感染し人間の細胞のチカラを借りて増えていこうとします。自分自身のチカラで増えることが出来ないウイルスは、生物とはいえないのです。

そして、『風邪』、すなわち『上気道炎』は、基本的にウイルスによっておこる病気です。

風邪の原因になるウイルスの種類は、200種類以上います

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さて、『風邪』は、原因になるさまざまな『ウイルス』がいて、200種類以上もいます。

そのうち、最も多いウイルスは『ライノウイルス』というウイルスで、100種類以上もいることがわかっています。

『ライノ』というのはギリシャ語で『鼻』を意味します。つまり、ライノウイルスとは『鼻かぜウイルス』ということです。

ライノウイルスは、症状のある子どもの『風邪』の原因の、24~52%も占めたという報告があります(※3)。

コロナウイルスはアルコールで失活するのに、ライノウイルスはアルコールで失活しにくいうえ、100種類以上もいるために次々と感染することが多いのです。

ただしライノウイルスは重症化することはそれほど多くないので、インフルエンザのような、鼻に綿棒をいれてその場で検査をするような迅速検査はありません。ただ、春と秋に流行することがわかっています(※4)。

ですので、今の時期の風邪の原因の多くはライノウイルスといっても良いでしょう。

(※3)Cmaj 2014; 186:190-9.

(※4)Clinical therapeutics 2002; 24:1987-97.

ライノウイルスを中心とした『風邪』に対して、抗生物質(抗菌薬)は有効?

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さて、ライノウイルスに対しては、どのように治療をすればいいでしょう?

まず、抗生物質は効きません。

というのも、抗生物質の効果が及ぶのは、細胞の壁だからです。

ウイルスはもともと細胞という家を持たないのでした。

そして、細胞という家の壁を壊そうとするのが抗生物質なので、抗生物質はウイルスには効かないのです。

(ごく一部の例外として、インフルエンザやヘルペスウイルスなどに、有効な薬があります)。

イラストAC・写真ACより筆者作成
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たとえば、英国における1年あたり4500万人のひとを10年間検討した研究では、風邪のような軽い感染症に対して抗生物質を使用したとして、7000人に1人程度しか悪化を減らせなかっただという結果になっています。宝くじでも引くようなイメージですね(※5)。

さらには、抗生物質の副作用としての下痢が頻繁におこりますし、ひどいアレルギー症状を起こすこともあります。

そしてさらに大きな問題点があります。

抗生物質の効きにくい菌を体に飼ってしまう(保菌する)リスクが高くなることです(※6)。つまり、みなさんが本当に抗生物質に働いてほしいときに効かなくなってしまうリスクが高くなるのです。

イラストAC・写真ACより筆者作成
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そのため最近は、『風邪ですね、抗生物質を処方しましょう』という医師は減ってきて、必要性があるときに説明してから抗生物質を処方する医師が増えてきました。

なぜなら、抗生物質を安易に処方しないほうが、最終的にその患者さんにとって利益が大きいことが多いと認識されてきたからです。

(※5)Bmj 2016; 354:i3410.

(※6)BMC pediatrics 2018; 18:144.

風邪に『風邪薬』は有効でしょうか?

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じつは、一般的な鼻水止めや咳止めといった風邪薬は、子どもの風邪の症状すら十分には抑えることができないのではないかという報告が多くあります(※7)。つまり、抗生物質も風邪薬も両方とも、子どもの風邪症状を抑える効果を期待することは難しいと考えられるようになってきています。

では、『子どもの風邪をどうすればいいの?』という質問があるかもしれませんね。

(※7)Pediatrics. 2004;114(1):e85.

いくつかの対策があります。

それは、1)鼻汁の吸引、2)生理食塩水による鼻うがい、3)咳に対するはちみつ、です。

1) 鼻汁の吸引

繰り返す喘鳴のある生後3ヶ月~6歳の子ども91人に対して電動の鼻汁吸引器を使用すると、鼻かぜ症状が軽くなり、期間も短くなったという報告があります。

最近は、電動の鼻汁吸引器が数千円から1万円ほどで入手できるようになってきていますので検討してみてくださいね。

2) 鼻うがい(鼻あらい・鼻洗浄)

鼻うがいというのは生理食塩水という水で鼻をあらうという方法です。器具はドラッグストアやECサイトで入手できます。

子どもでも慣れるとできることも少なくありませんし、スプレー状の生理食塩水の噴霧するような、簡便なキットも市販されています。

最近の研究結果では、鼻の症状に有効で抗生物質の使用量も減ったと報告されています(※9)。

3) はちみつ(1歳未満は禁忌)

風邪の咳に対して、多くの研究をまとめた信頼度の高い研究手法でも有効という結果になっています(※10)。

1歳未満のお子さんには使ってはいけませんが、年長のお子さんであれば、蜂蜜をお湯と一緒にゆっくり飲むなどすると効果的でしょう。

(※8)Ital J Pediatr 2018; 44:68.

(※9)Paediatr Respir Rev 2020.[Online ahead of print]PMID: 32312677

(※10) BMJ Evid Based Med 2020.[Online ahead of print]PMID: 32817011

抗生物質は風邪に有効ではなく、かえって耐性菌を自分の体に飼いやすくなり、本当に効かせたいときに効果が期待できなくなるかもしれません

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最後にまとめておきましょう。

1) 風邪は、春や秋に流行し主にウイルスによる、のどから上の『上気道炎』です。

2) 風邪に対する抗生物質は有効ではありません。むしろ、いざというときに抗生物質の効果を期待できなくなるリスクを高めます。

3) 風邪薬の効果はあまり期待しづらく、無理せずゆっくりと待つこともまた治療です。

4) 『鼻汁の吸引』『鼻うがい』『はちみつ(1歳未満には禁忌)』などを活用することができます。

まだまだ風邪の時期は続きます。

集団保育に行き始めは特に、今の時期はつらい時期でしょう。

しかし、集団保育に行き始めから9ヶ月程度経過すると、だんだん風邪の回数も落ち着いてくるという報告もあります(※11)。

手洗いやマスクなどで感染のリスクを減らしながら、そしてマスクが難しい小さいお子さんを周囲が守り、風邪のつらい期間や症状の山が低くなれば嬉しく思います。

(※11)BMJ open 2017; 7.

(筆者注)2020/11/24 10:50に、『ライノウイルスはコロナウイルスと比較して、アルコールで失活しにくいこと』を書き足しました。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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