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1歳未満へのインフルエンザワクチン、効果は? 医師でも意見が分かれる理由

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:Cultura/アフロイメージマート)

インフルエンザワクチンの接種シーズンになりました。

そんな中で最近外来でよく尋ねられるのは『生後6ヶ月から1歳までのインフルエンザワクチンの効果』です。

たとえば保護者さんからは、『近くのクリニックさんでは、“1歳未満のインフルエンザワクチンは効果がないので、接種しなくていいですよ”と言われています。やっぱりそうなのでしょうか?』とお聞きすることもあります。

日本小児科学会からのインフルエンザワクチンの接種推奨は、『全ての6か月以上の小児』になっています(※1)。

ではなぜ、『1歳未満は効果がない』という話がでてくるのでしょうか?

やはり『1歳未満の乳児へのインフルエンザワクチン』は効果がないのでしょうか?

1歳未満でインフルエンザにかかると、入院する可能性は高い

イラストAC
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日本における、インフルエンザによる入院率を年齢別に検討した報告があります(※2)。

1,600 万件以上の検討が行われ、0~1歳での入院率は2.96%でした。

2~5歳が0.77%、6~12歳が0.51%でしたので、小児ではとても高い入院率になります(なお、65歳~74歳で2.21%でした)。

つまり、1歳未満は入院する可能性が高いので、ワクチンの効果を期待したいところです。

2010年のシーズンまで、小児のインフルエンザワクチンの接種量は少なく設定されていました

イラストAC
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2010年のインフルエンザシーズンまで、インフルエンザワクチンの1回の接種量は6ヶ月から1歳未満では0.1ml、1~6歳未満は0.2ml、6~13歳未満は0.3mlになっていました。

そして2011年から、生後6ヶ月~3歳未満は0.25ml、3歳以上0.5mlとなりました

0.1mlって、現在と比較するととても少ないですよね。

なぜこんな量になっていたのでしょうか?

これはインフルエンザワクチンの歴史がかかわっています

子どものインフルエンザワクチンの接種量が少なかった理由とは?

イラストAC
イラストAC

1950年代から1960年代に使用されていたインフルエンザワクチンは、『全粒子ワクチン』と呼ばれている精製度が低いものでした。

全粒子ワクチンは、発熱をしやすい成分が含まれ副反応が多く、乳児への使用の懸念から量が少なく設定されたのです(※3)。

そして1972年にその副反応を起こしやすい成分を取り除いた『スプリットワクチン』が開発されました

しかし、全粒子ワクチン時代の少ない接種量がそのまま受け継がれたのです。

ただ、その後、少ない接種量でのワクチンの有効性には疑問がもたれるようになりました(※4)。

実際、2009年のシーズンに流行した『新型インフルエンザ』に対する対応に関する厚労省からの通達では『1 歳未満の乳児はワクチンによる免疫獲得が難しく,親への接種で感染を防ぐ「次善策」を取る』とされていました(※5)。

そんな背景もあり、2011年のシーズンから世界標準にあわせて生後6ヶ月から接種量が1回0.25mlになったのです。

では、生後6ヶ月から1歳までのインフルエンザワクチンは、インフルエンザの予防に有効なのでしょうか?

写真AC
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では、世界標準の接種量になったたインフルエンザワクチンは、生後6ヶ月からの乳児に対して有効なのでしょうか?

バングラディシュで行われた研究結果があります。

生後6ヶ月~2歳未満の5000人以上の乳児に対し、インフルエンザワクチンと不活化ポリオワクチンにランダムに分かれて確認したところ、インフルエンザワクチンの有効性は、31%と推定され、明らかな効果が認められたのです(※6)。

(※6)からイラストACを用いて筆者作成
(※6)からイラストACを用いて筆者作成

とはいえ、小児全体16歳未満のインフルエンザワクチンの効果は6割程度と考えられますので(※7)、少し有効性は低めといえるかもしれません。

1歳未満に対する予防接種量が少ない昔のイメージが残っており、小児全体に比較して多少有効性が劣ることから、一部の先生が『1歳未満のインフルエンザワクチンは有効性がない』とおっしゃっているのかもしれないと、私は考えています。

2020年10月から接種間隔が変更になっています。

写真AC
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インフルエンザワクチンは、この時期にイレギュラーに入ってくるので、たくさんの予防接種のある1歳未満のお子さんを持つ保護者さんにとって、頭を悩ます問題のひとつでしょう。

ひとついいニュースとして、この10月からワクチンの接種間隔が変更になったことがあります。

筆者作成
筆者作成

インフルエンザワクチンを接種すると1週間、次の予防接種まで間隔を開けなければならなかったのが、インフルエンザワクチンを接種した翌日に、他のワクチンを接種できるようになりました。

少し予防接種スケジュールを立てやすくなっていますので、新型コロナだけでなく、インフルエンザに対する対策も行っていくことをお願いいたします。

【参考文献】

(※1)任意接種ワクチンの小児(15歳未満)への接種(日本小児科学会)

(※2)BMJ open 2019; 9:e024687.(日本語訳

(※3)薬局 2011; 62:3649-54.

(※4)医事新報3857; 93-94, 1998

(※5)インフェクションコントロール 18(11): 1202-1202, 2009.

(※6)Vaccine 2017; 35:6967-76.(日本語訳

(※7)Cochrane Database Syst Rev 2018; 2:Cd004879.(日本語訳

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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