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新型コロナの影響で喘息発作のときの吸入治療が受けられない?その対策とは

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

喘息発作時、病院での『ネブライザーによる吸入治療』が難しくなった?

私も救急外来などでも仕事をすることが少なからずありますが、現在、多くの施設で『ネブライザーによる吸入治療』が難しくなってきています

『ネブライザー』というのは、『喘息の治療薬を霧状にして気管支に送り込むための医療機器』のことをいいます。喘息のお子さんをお持ちの保護者さんは、よくご存知のことでしょう。下のような、『霧状にした薬剤を時間をかけて吸入する吸入方法』ですね。

写真AC
写真AC

喘息は、『気管支』の病気です。口の中や喉、気管の病気ではありません。

薬剤を細かい粒子にして、上手に気管支まで送り込む必要性があるのですね。

イラストACから筆者作成
イラストACから筆者作成

ではなぜ、ネブライザーによる吸入が難しくなってきているのでしょうか?

これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が関係しています。

『エアロゾル』という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

エアロゾルとは、空気中に存在する細かい粒子のことです。

大きさの定義はさまざまですが、一般に直径0.3〜100μmの大きさであり、感染の媒介として問題になる大きさは1.0〜5.0μmの大きさの粒子と考えられています(※1)。

※1)Wang J, Du G. COVID-19 may transmit through aerosol. Ir J Med Sci 2020.[Epub ahead of print]

たとえば新型コロナウイルスと同じ、コロナウイルスの1種が原因とされるSARSやMERSでもエアロゾルが感染源になることが報告されていますので(※2、※3)、エアロゾルが感染を広げる原因になるのではと懸念されているのです。

※2)Yu IT, et al. N Engl J Med 2004; 350:1731-9.

※3)Adhikari U, et al. Risk Anal 2019; 39:2608-24.

そして、『ネブライザーによる吸入治療』は、『1.0〜5.0μmのエアロゾルを多く発生させる治療』です。

そのため、米国アレルギー喘息免疫学会や日本小児アレルギー学会から、ネブライザー治療を避けるように注意喚起が発せられたのです(※4、※5)。

※4)COVID-19流行期における喘息発作に対するネブライザー使用時の注意喚起

※5)Resources for A/I Clinicians during the COVID-19 Pandemic

ネブライザー治療に変わる方法として、『定量噴霧式吸入剤+スペーサー』があります。

しかし、喘息発作を起こしたときに適切な治療ができないと、困ってしまいますよね。

ですので、『吸入補助具(スペーサー)』による『定量噴霧式吸入剤』が提案されています

定量噴霧式吸入剤というのは、ボタンを押すと薬剤を含んだ一定量のガスを吹き出すキットです。医療者は、英語のMetered Dose Inhalerを略して『MDI』ということが多いです。

定量噴霧式吸入剤の一例(写真ACから引用)
定量噴霧式吸入剤の一例(写真ACから引用)

ただし、定量噴霧式吸入剤は、薬剤を含むガスを一瞬で噴霧します。そのため、とくに年齢の低いお子さんはうまく吸入することが難しくなります。

気管支まで届く前に、口の中や喉で止まってしまう可能性が高いのですね。

そこで、吸入を補助する器具、いわゆる『スペーサー』の併用が勧められます。

スペーサーとは、『間に挟むもの』といった意味です。薬と口の間に挟んで使うのですね。

マスク付きスペーサー(筆者撮影)
マスク付きスペーサー(筆者撮影)

喘息発作のときに気管支拡張薬を吸入する際に『スペーサー』と『定量噴霧式吸入剤』を併用すると、ネブライザーによる吸入と効果が変わらないという報告があります(※6)。

※6)Cates CJ, et al. Cochrane Database Syst Rev 2013:Cd000052.(日本語訳

年齢や吸入がうまくできるかどうかに応じ、スペーサーも『マスク付き』か『マウスピース』かの使い分けが必要になってきます。年齢が高くなってくると、パウダータイプの吸入を使うことができるようになるので、補助具は不要です。

使い分けの目安を表にまとめましたので参考にしてみてください。

年齢と吸入補助具(筆者作成)
年齢と吸入補助具(筆者作成)

吸入の方法に関しては、『環境再生保全機構公式動画チャンネル』の動画を参考にすると良いでしょう。

【大気環境・ぜん息などの情報館】正しい吸入方法を身につけよう2/6 pMDI+スペーサー(マスクタイプ)の使い方(動画)

【大気環境・ぜん息などの情報館】正しい吸入方法を身につけよう3/6 pMDI+スペーサー(マウスピースタイプ)の使い方(動画)

『スペーサー』は一部の専門病院では1回のみ提供できる場合がありますが、基本的に自費で購入する必要性があります。ましてや現在は、多くの専門病院が多忙な状況です。

ですので、喘息をお持ちの方々で『パウダー式吸入剤が使いづらい場合は』、自費でスペーサーの購入を検討しましょう。

ECサイトで『喘息 スペーサー』で検索すれば、2000円程度から見つかるでしょう。

学会推奨のスペーサーは、『エアロチャンバー』『ボアテックス』『オプティヘラー』になりますが、同様の構造のものであれば特に問題はないと思います。

くれぐれもマスク付きとマウスピースタイプを間違えないようにしてくださいね

また、やむを得ずネブライザーによる治療を行う場合は、十分な換気などを行うことをおすすめいたします。

新型コロナウイルスが流行するにつれ、医療をとりまく環境が大きく変わってきています。

思いがけない急な喘息発作時に慌てることのないように、準備を整えておくことをおすすめいたします。

また、こういった非常時であるからこそ、普段の治療を丁寧に行っておきましょう。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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