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『THE W』優勝 どうして天才ピアニストが圧倒的に勝ち抜けたのか その見事な喋りの秘密

堀井憲一郎コラムニスト
(提供:イメージマート)

コント2本で天才ピアニストが優勝

「女芸人No.1決定戦 THE W 2022」で「天才ピアニスト」が優勝した。

今年の決勝ラウンドに進んだのは12組(うちピン芸人が3人)であった。

ファーストラウンドで3組に絞られ、最終決戦で勝ち抜いたのが「天才ピアニスト」である。

「女芸人」というくくりだけなので、コントと漫才とピン芸が入り交じり、一種の異種格闘技戦となる。

優勝した「天才ピアニスト」はコントを2本披露した。

ピン芸人も一人コントがほとんどで、主流はコントだった。

15本中漫才は4本だけ

漫才を演じたのは「TEAM BANANA」「爛々」「にぼしいわし」の3組、および「紅しょうが」の2本目だけである。

15のパフォーマンスのうち11本がコントであった。

コントと漫才が続けて演じられると、やはりビジュアル的にコントのほうが強い。そのことを実感する。

ビジュアルで笑いを取るのは反則でも何でもない。

武器を手に戦う人と、素手で戦う人の差のようである。

とはいえ、武器といってもすべて手製で、うまく作らないとみすぼらしかったりする。

いかにも異種格闘技戦である。

そこがまた『THE W』のおもしろさである。

3グループからの勝ち抜き戦

『THE W』2022年は対決方式が変わり、4組ずつABCの3グループに分かれ、それぞれ1組ずつ勝ち抜いて最終決戦となった。

最初の出場者を暫定トップとして、次の出場者とどっちが面白かったかを一回ずつジャッジしていく。

審査員6人と、視聴者投票を加えて、7票のうち多いほうが勝つ。

以下、ファーストラウンドの結果である。

Aグループ

「ヨネダ2000」4−3「TEAM BANANA」

「ヨネダ2000」7−0「さとなかほがらか」

「ヨネダ2000」4−3「Aマッソ」

Bグループ

「天才ピアニスト」7−0「爛々」

「天才ピアニスト」7−0「スパイク」

「天才ピアニスト」7−0「フタリシズカかりこる」

Cグループ

「エルフ」7−0「河邑ミク」

「紅しょうが」7−0「エルフ」

「紅しょうが」7−0「にぼしいわし」

天才ピアニストが勝ちきったのは「喋りの技術の差」ではないか

Bグループの「天才ピアニスト」が3戦パーフェクトで勝ち上がっているのがすごい。

「爛々」「スパイク」「フタリシズカかりこる」をすべて7−0で下している。

圧倒的な勝利である。

そして最終決戦も4対2対1(天才ピアニスト:ヨネダ2000:紅しょうが)で制した。

強さが目立った。

ネタそのものは、とくに最終決戦では、かなり接戦だった。

つまり面白さにわかりやすい差がなかった。

人によって判断が違う程度の差だったと言える。

だから、最終的に決まったのは「基本的な喋りの技術差」だったのではないか。

私はそうおもう。

「天才ピアニスト」は竹内の素晴らしいツッコミと、やはりコンビとしてのバランスがとても良かった。

そういう部分で頭ひとつ抜けていた。

2022年『THE W』死の組だったAグループ

グループ分けには運不運がある。

サッカーワールドカップでも「死の組」と称されるグループができるのと同じで、今年の『THE W』ではAグループが厳しい組であった。

ここは「ヨネダ2000」と「TEAM BANANA」と「Aマッソ」の三つ巴だった。

「ヨネダ2000」はどちらも辛うじて1票差で競り勝っている。

どれが勝ち抜いてもおかしくなかった。

「ヨネダ2000」がここを勝ち抜いたのは、徹底したバカバカしさと、見た目のインパクトの強さだったのだろう。

記憶による比較が行われるため、インパクトが強いと有利である。

僅差の三チームのどこに差がうまれるか

「TEAM BANANA」は真っ当な漫才だった。

「ボケの強い漫才」である。

ボケの山田だけで世界は完結できて、彼女の印象が強い。劇場で見てるぶんには大笑いするだろうが、競技漫才となると、そのポイントが気になってしまう。

「Aマッソ」もツッコミの加納の世界に見える。

今回は面接にくる「箱女」というコントで、目立っていたのはボケの村上である。

加納は常識的にずっとツッコミ続ける役どころである。

加納のツッコミは的確で間違うことがない。

彼女と天才ピアニストの竹内は、ツッコミの能力が抜群に高い。

この二人には一流アスリートばりの技術を感じる。すばらしい。

「Aマッソ」の採点あとに審査員の友近が「村上さんも全然、嚙まずにすごいセリフ言えてる」と評していたのが象徴的であった。友近はAマッソに一票入れている。

たしかに村上は嚙まずに長セリフをちゃんと言えていると、私も見ていておもった。

でも、たとえばオードリーヘップバーンや吉永小百合の演技を見て、嚙まずに言えたねえとはふつう言わない。言えて当たり前だとおもっているからだ。

それがすべてだろう。

もちろんAグループの3チームは僅差であった。

「ヨネダ2000」が死のグループから抜けたのは、たまたまでもある。

視聴者投票はAマッソだった。タレントとしての人気は彼女たちのほうが高いのだろう。

にぼしいわしの漫才はかなり知的であった

Cグループでは最初「エルフ」が「河邑ミク」に7−0で完勝したが、すぐさまその「エルフ」が「紅しょうが」に7−0で破れてしまう。

「紅しょうが」は「にぼしいわし」も7−0で下して最終決戦へ進む。

「にぼしいわし」の漫才は、水族館ネタだった。

ずいぶん考え込まれたネタだとおもった。

ただ、いわしのツッコミは、いきなり声が高くなって、ときどき聞きにくい。

ツッコミは言葉を強くして笑いを誘うが、声トーンまでいきなり高くすると、ときに掴みそこねてしまう。

「うわっ、シュッセウオの間しかおらん水槽や!」というツッコミ言葉を強くトーン高くして発するので、聞きなれない言葉「シュッセウオ」という言葉を認識できるタイミングが遅くなり、そのときにはもう次の会話が始まっている。

そもそも出世魚という概念を知らなかったらただの雑音に聞こえてしまううえに、「ツバス→ハマチ→メジロ」という出世段階は関西でしか通じない言葉であって、イナセが入ってない時点で東京人には何の話かわからない。

私もツバスって何だったっけと考えてる時点で置き去りにされた。

そのへん、人を選ぶネタだった。

しかもツッコミの声トーンが高く、一回聞いただけではすべて入ってこない。

「サカナんぼうって呼ばれてるんですか? サカナが好きすぎるという意味の動詞、サカナる、がないと成立しませんよ」という部分もめちゃくちゃおもしろかった。

でも、そのおもしろさに気づいたのは見返している2回目で、初見のときは、耳と脳がついていっていない。

文章にするとおもしろさがよくわかる。

言葉の感覚はすごいとおもった。でも敗退した。

ヨネダ2000の魅力は「話が通じないところ」

最終決戦の「ヨネダ2000」「紅しょうが」「天才ピアニスト」の差もまた、言葉の差のような気がした。

「紅しょうが」は漫才で、交互にいらいらしたことを言い合って、ツッコミが入れ替わる。

ただ稲田のツッコミがトーンを変えようとして高音の大声になって、一瞬、聞きとれないところがあった。

また、熊元プロレスが座りこんだあと、それを立たせようとしている稲田のセリフがふつうの会話のように宙に浮いたような瞬間があって、一瞬、ダレた。

「ヨネダ2000」は、もともと会話がない。

1本めは会話はまったくなく、2本めも、ほぼディスコミュニケーションな笑いであった。つまり「話が通じない」ところがおもしろいのだ。

不条理だともいえるし、ひとつ間違うとシロウトの悪ふざけに見えかねない。ギリギリのところである。

最後にパラパラを揃って踊ることによって、「何してんねん」(司会の後藤の言葉)と見てる者が言語化できる部分が現れて、その無理矢理な構成のセンスで受けていた。

チカラワザだが、笑わせる部分についてお笑いのクロウト(審査員たち)が高く評価するのはよくわかる。

テレビ前ではついていけない視聴者もいっぱいいただろう。

あれはライブの芸である。

ただ、1本目も2本目も同じトーンの終わり方になってしまうのは、見ようによっては弱かった(逆に強いとおもった人もいたのだろうが)。

天才ピアニスト竹内のすさまじい才能

「天才ピアニスト」の相性の良さはすばらしい。

彼女たちの強さの基本は「ツッコミ」の確かさにある。

ツッコミの竹内の言葉は正確である。

彼女の発した言葉は、トーンを上げ下げしない。

つまり甲高い声を絶対に出さない。

音が一定で、ボケが奇妙な声を出しても、竹内は声の「大小」は使うが、「上下」を使わない。これがとても心地いい。

あらためて、竹内のツッコミだけに注目して見返してみると、彼女の声が全体のトーンを形成して、客を落ち着かせた上で笑いをつくっているのがわかる。

ちょっとすごい。

竹内の声を聞くと、それだけで世界は鎮まるのだ。

ツッコミの言葉がすべてクリアに聞けたのは、天才ピアニストと、Aマッソだけである。

ほかは、妙なテンションにひきずられているのか、高い音を出したり、声量以上の音を出そうとして声が割れたり、ツッコミの言葉が不明瞭になる瞬間があった。

それぐらいはノイズにすぎないのだが、でもコンテストではノイズの有無で優劣がついてしまう。

世界を進ませるツッコミに不明瞭さがあると不利になる。

「天才ピアニスト」が圧倒的に優れていたところ

ネタ内容そのもので大差がなかったが、その「喋りのクリアさ」という技術的なポイントでは、圧倒的に「天才ピアニスト」であった。

そして二人のバランスがいい。

ボケのますみは顔立ちが派手で、上沼恵美子のモノマネで注目された芸人である。

ツッコミの竹内は地味目で、その組み合わせがいい。

派手に動くボケに目を奪われていると、そのときに耳に入ってくるのが竹内の正確無比な言葉であって、そこが心地いい。

2本めのコントでも、VRメガネをはずした瞬間のますみの表情が秀逸で、そこに竹内の的確なツッコミが入って笑いは増幅する。

安心して笑える。

竹内の声はまさに鎮護の声である。

コンビそれぞれの役割が明確で、そのバランスの良さではもっとも優れていたのが天才ピアニストだった。

そこを評価されての大賞であった。とおもわれる。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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