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『IPPON女子グランプリ』圧倒的才能を見せた箕輪はるか 猛追した蛙亭イワクラとの差は何だったのか

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:アフロ)

『IPPON女子グランプリ』女芸人の対決

女芸人と女性タレントによる『IPPON女子グランプリ』が放送された。

松本人志の企画である。

二部制になっていて最初は女性「芸人」が四人、後半は女性「タレント」四人で争った。

今回のこの『IPPON女子グランプリ』がおもしろかったのは、ひとつはこの大会に初めて出場する人たちの争いであったことと、もうひとつは審査員たちのリアルな反応も放送されていたところにあるだろう。

いわば「大喜利慣れ」してない人たちの奮闘ぶりがおもしろかった。

とくに前半の「女芸人四人」部分は、芸人の模索がリアルに顕れ、見ていてスリリングであった。

箕輪はるかの圧倒的勝利

芸人部門に出たのは四人。

箕輪はるか(ハリセンボン)

加納(Aマッソ)

イワクラ(蛙亭)

福田麻貴(3時のヒロイン)

結果から言えば、箕輪はるかの貫禄勝ちであった。

5つのお題が出て、箕輪はるかは14回答えて、そのうち10回が一本(8点満点)を取っていた。

一本率が7割である。

なかなかにすごい。

圧勝であった。

箕輪はるか一本率7割 福田と加納は4割

今回のIPPON女子の芸人部門では、四人は均等に14回ずつ答えている。

後半のタレント部門ではばらばらだったから、これはたまたまだろう。

一本(審査員満点)を取ったのは箕輪はるかが10回で、ついで蛙亭イワクラが8回、残り2人が6回ずつだった。

「大喜利一本率」を出すとこうなる。

箕輪はるか 71%

蛙亭イワクラ 57%

3時のヒロイン福田麻貴 43%

Aマッソ加納 43%

となる。

ほぼ序盤で趨勢が決まる

芸人部門の趨勢は、ほぼ序盤で決まってしまった。

第一問「あなたがおっさんと体が入れ替わったとき、相手に伝えておく注意事項とは?」の答えでほぼ勝負が決まってしまったのだ。

最初に答えたのがAマッソ加納で「はしゃぐな」。

続いて、箕輪はるかが「しのごの言わずに楽しめよ!」であった。

言っている内容は似たようなものだけれど、加納は5点で、箕輪はるかが8点満点だった。

加納は、ちょっとうまく乗り切れなかった。

とても悔しそうだった加納は頭をフル回転させていき、回転させすぎるがゆえに、噛み合わなくなったいったのではないか。そういうふうに見えた。

「今年一番、声出たんちゃう?」

「はしゃぐな」というのと「しのごの言わずに楽しめよ!」という回答は方向(発想)としては同じである。

箕輪はるかの場合、「しのごの言わずに」までフリップを伏せていて、「楽しめよ!」ですごく明るく大きな声と一緒にフリップを見せた。

そのいわば「声の変調」で笑わせたのだ。

審査員室からも「勢いありましたね」「今年一番、声出たんちゃう?」との声が出ていた。

そういうことである。

箕輪はるかがわかっていたこと

大喜利の大事なポイントは「面白いことを考える」ではなく「人を笑わせる(特に審査員を笑わせる)」ことでしかない。

「言葉(意味)」ではなく「音」のほうがより大事なのだ。

現場でたたきあげてきた芸人たちは、そのポイントで評価する。

箕輪はるかは、その本質を熟知していて、ほぼ意味ないことを「笑ってもらえるトーン」で言い続ける。

第一問で3つ続けて一本を出して、それで独走態勢に入った。

そのまま逃げ切り圧勝であった。

おそらく大喜利の経験値が圧倒的に違っているのではないか。

そう考えられるほどの大きな差があった。

蛙亭イワクラの才能あるがゆえの苦悩

蛙亭イワクラも緊張のあまり、ということなのだろう、かなりひねりにひねった回答から入っていった。

“体入れ替わり”の最初の答えが「明日の会食一杯目からカシオレ頼むけどいい?」だった。

これは文章にするとおもしろいし、中野とのコンビで彼がきちんと拾ってくれれば笑いになるだろうけれど、大喜利では大受けはしない。

「カシオレ」がポイントになっているが、その音にたどりつくまでがちょっと長いからだ。

発想はいかにも蛙亭らしい。

似たような発言が続く。

「この顔と同じおっさんに明日肩さわられるけどキレんなよ」

「デスクの上に推しのアクスタおくけど、いける?」

と続けて答えて、おもしろいことはおもしろいが、ちょっと長い。

大喜利としてはキレが悪い。

最初ちょっと不思議な設定を作り、そこからさらにねじれた笑いを作りだそうとしているのだ。瞬時にいろんなシチュエーションが浮かび、さらに笑いを作る才能はすごいなと驚くが、前半はうまく笑いに繋がっていなかった。

蛙亭イワクラの劇的な変化

ただ蛙亭イワクラの真骨頂は、そのあとの修正にある。

3つめのお題は「そんなこと五七五で伝えるな」であった。

(五七五と書くほうが5・7・5と書くより省スペースですみます)

イワクラの最初の答えはこれ。

「キン肉マン 明日から毎日 読み直す」

そのあと

「鳥羽一郎 ヒット曲は 兄弟船」

「左利き 右利きよりも 少ないな」

と畳み込んで大喜利メインストリームに躍り込んできたという感じであった。

ちょっと劇的な瞬間でもあった。

どれも文章として読んでみると何もおもしろくないというところに大喜利の真骨頂がある。

見事に無意味である。

イワクラは、ナンセンスなことをどれだけ笑える音に出来るのか勝負ということを悟り、すぐさまその無意味さを連発できるようになったのだ。すごいとおもう。

イワクラが気付いたポイント

ひねったナンセンス(いわば都会的に洗練された笑い)では勝負にならないと気付いて、素朴な無意味さとそれに合わせた音にしぼって、修正していった。

そこからは蛙亭イワクラの怒濤の回答が続く。

四連続一本、そのあとドラムオール大喜利で一度様子を見られて、またその次から四連続一本を取っていった。後半はほとんど一本だったのだ。

あっというまに真髄をつかんでいた。

Aマッソ加納の才能

Aマッソ加納は、言葉は簡単にしている。

ただ、その一言を発する設定にひねりがあって、彼女のお笑いへの姿勢がわかる。

いろんな形の漫才を試みたりするのは、彼女の根にある笑いの方向性のようで、ちょっと人にはない才能である。

かなり変わった設定にして、言葉はストレートにするというのが彼女の笑いのスタイルのようだ。

ただ凝った設定は、客と少しでもズレると行き詰まるわけで、最初何問か受けないところでズレていると感じて、そのあとの修正に苦しみ続けているようだった。

テレビを通して悩みつづける加納の顔を見続けることになった。

舞台上にいるのに、いっさい笑顔もおどけ顔も見せず、ずっと「ネタを考えてるところだから」という表情で貫きとおしていた。

満点をとってもとれなくても、つねに自分の回答の反省を繰り返しているようだった。芸人の顔ではなく作家の顔になっていた。

ちょっと怖い。

応援はしたくなるけど、素直に笑いにくい。

福田麻貴の「迷い」

福田麻貴はときどきわかりやすく「迷い」が出ていた。

「0点」を二回喰らっていた。審査員から「大喜利のルールあるから、それは守ろう」と評されていた。回答がぶれすぎていたのだ。

彼女の笑いは言葉よりも「絵」が浮かんでいるようだった。

コント師らしい笑いの考え方である。

「下着売り場で言ったことのないセリフ」のお題で、「お客さんみてください、と言ってズボンをおろして、いま私も穿いてます」、という回答をしていて、「ズボンをおろして」という「ト書き」のところまで福田は口で話すのだ。

コントの台本かよ、とおもったが、でもそれが彼女の笑いの作り方なのだ。

おそらく先に絵が浮かんでしまうのだろう。

キャラクターが発するセリフとして考えるのが得意のようだ。そのへんがよくわかった。

大喜利ではちょっと苦戦したようだった。

迷いを見せない大喜利女王

箕輪はるかには迷いがなかった。

おそらく大喜利に慣れているのだろう。

たとえば彼女の答えを文字に起こして読んでみれば、彼女が一番おもしろいわけではない。

たぶん蛙亭イワクラや、Aマッソ加納のほうが文字で読むならおもしろい。

箕輪はるかの力は、勢いと声である。

あと自分のキャラをきちんと把握しているところ。

自虐ネタにはいかず、だけどこんな私が言うと受けるポイントを熟知してきて、それをあいまあいまに放り込んでくるのである。

もともとナンセンスさへの感覚が頭抜けているようにおもう。

“五七五“お題では

「金はやる、ここここ殺さ、ないでくれ」と答えていて、この「ここここ殺さ」で中の七文字を作るセンスがすさまじい。ナンセンスさの極みである。

まさに「そんなこと五七五で伝えるな」と言いたくなるセンテンスである。

また「無意味だけど笑ってしまうこと」をいろんな方向から繰り出してくる。

イワクラや加納が「ひねった設定」から繰り出そうとするところ、箕輪はるかはそういう定まった起点を持たない。

そういう風味のものも出すが、何でもない場所からも的確に撃ち抜いてくる。

すさまじい職人芸であった。

IPPON女子グランプリの前半は、ひたすら、箕輪はるかの大喜利の才能が炸裂しつづけていた。蛙亭イワクラが途中で頓悟したこと、Aマッソ加納が苦悩しつづけていたこと、いろいろと見ものであった。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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