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『おかえりモネ』が巻き起こすサンドウィッチマン逆転現象 ボケ富澤にツッコまれ続ける伊達

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

『おかえりモネ 土曜版』のサンドウィッチマン

朝ドラ『おかえりモネ』の土曜版はサンドウィッチマンが担当している。

土曜は一週間のまとめが放送され、まずサンドウィッチマンが出てきてちょっと喋って、じゃあ見ましょうかとドラマに入り、放送あとに簡単な感想を言う。

それぞれ20秒から30秒くらいずつである。

お笑いコンビの案内と感想なので、ときどきお笑いが入っている。

お笑いの要素がなく、ただ、感想を言って終わることもある。

この二人が笑いをぶっ込まないとは考えにくいから、おそらく編集で切られているのだとおもわれる。

「ただいま、ネモ」「あー、微妙に違う」

サンドウィッチマンは、富澤がボケ、伊達がツッコミである。

この『おかえりモネ』の紹介・感想でも、最初はそれが守られていた。

たとえば第一週(土曜の第一回)のオープニング登場は以下のやりとりだった。

伊達「いま放送している朝ドラ、知ってる?」

富澤「ただいま、ネモ」

伊達「あー、違う、微妙に違う」

お笑いというほどでもないが、いちおう富澤がボケて伊達がツッコんでいる。

最初はそういう展開であった。

「それはわかんないですね」

いちおう型どおりの「富澤ボケて、伊達ツッコむ」のやりとりをあげてみる。

第12週、8月7日はこういうやりとりだった。

富澤「これ見るようになってから、天気予報チェックするようになりましたね」

伊達「ああ、見てるのね、いろいろ」

富澤「見てますね」

伊達「明日の天気、おしえてくれ」

富澤「それはわかんないですね」

伊達「なんだおまえ、見とけちゃんと」

富澤「それはわかんない」

サンドウィッチマンらしいやりとりである。

富澤らしい「最初ちゃんとしてる人ふうだったのに、実は何もわかってないうえに開き直る」という役どころをきちんと演じている。

流れるように伊達がツッコむ。

見事である。

「モネちゃん、五十代とかになってんじゃないの!?」

15週め、8月28日のぶん。

伊達「今週のおかえりモネはですね、何やら波乱の展開が巻き起こると…」

富澤「波乱!? まさか最終回とか」

伊達「波乱すぎるわおまえ、急に終わりませんから」

富澤「終わんない?」

18週め、9月18日のぶん。

伊達「今週はですね、先週からすこし時が流れていて…」

富澤「え、モネちゃん、五十代とかになってんじゃないの!?」

伊達「五十代にはならないだろ。はしょりすぎだよそりゃ。怒られるよ」

伊達がいきなりボケると、富澤はどうするのか

ただ、この『おかえりモネ 土曜版』のサンドウィッチマンのおもしろさは、じつは「伊達がボケる」というところにある。

しかもボケまくる。

富澤にきちんとツッコんでもらうために、しっかりとボケる。

それに富澤はまんまとツッコむ。

なんか仲いいなあ、と見ていておもう。

伊達もフリートークでボケることはある。ただその場合は自分で処理したり、そのまま流していくことが多い。

でも『おかえりモネ 土曜版』では違う。きちんと自分がボケたら、富澤にツッコませているのだ。

おそらく伊達がのびのびとやっているからだろう。

やりたいようにボケて、それに気づいた富澤が、しかたないなあという風情で、ツッコんでいる。

この空気がいい。

いわば、「いつも鋭くツッコむ伊達がいきなりボケると、富澤はどうするのか」が見られて楽しいのだ。

ボケを二回繰り返す親切な伊達

始まって4週めに、つまり4回めのときにボケはじめた。6月12日だ。

こんなやりとりである。

伊達「こんど撮影現場行ってみない?」

富澤「聖地巡礼ってやつですか」

伊達「あ、ここモネちゃんいたところだとか、あ、ここモネちゃんいなかったとこだとか、あ、ここモネちゃんいたところだとか、あ、ここモネちゃんいなかったとこだとか」

富澤「いなかったとこ行くなよ」

伊達「行こうよ」

富澤「はまってますねえ」

伊達「はまってる。一緒に行こう」

富澤「いや、おれはいい」

伊達「なんでだよ」

富澤「行くなら一人でじっくり行きたい」

伊達「おまえのほうがはまってるじゃねえか」

後半は型どおりに戻してきて、このへんが見事だとおもうが、おもしろいのは最初の伊達のボケである。

「モネちゃんいなかったところに行きたい」というのはわかりやすいボケなのだが、伊達は二回繰り返している。

きちんと富澤のツッコミを待っているからだろう。

伊達はこの番組でも、ツッコミ役らしくまず自分から話を始めて回しだすのだが、その最初からボケてしまうと、相方は即座に反応できない可能性がある。

だから、ツッコミやすいように二回繰り返している。

そのへんがサンドウィッチマンらしい。

笑ってからツッコんでいる富澤

第6週でも伊達はボケている。(6月26日)

主人公モネが「気象予報士」の試験を受けて、まだ結果が出ていないという話から続く。

伊達「資格、ぼくも大変でしたよ、ある大きな資格取りましたけど、やっぱり大きく勉強しますからね」

富澤「何の資格ですか」

伊達「まあ、普通免許なんですけどね」

富澤「…(笑)みんな、だいたい取ってますけど」

伊達「あ、そうですか。何回も落ちますからね、やっぱり、原付取るのに学科、四回落ちてますから」

富澤は「みんな、だいたい取ってますけど」と言う前に一度ぷっと吹き出してしまっていて、そのあとツッコんでいる。

また最後の「学科、四回落ちてますから」にいたっては、富澤も大笑いして拾いに行っていない。

そのもう、拾わないよという態度がなんかサンドウィッチマンらしくて、いい。

「さあ、ただいまサンドちゃんです!」

12週め、8月7日は、オープニングで伊達がいきなり「さあ、ただいまサンドちゃんです!」と出落ちのようなボケ。それに対して富澤は「ちがいます。おかえりモネです」と言って、これはもうツッコミというより訂正に近くなっている。

伊達はそれが楽しいようで、いかにも嬉しそうだ。

17週め、9月11日。

ドラマの最後に菅波先生(坂口健太郎)が「今後、何を投げられても、あなたが投げるものなら、僕は全部とります」という決めゼリフを言う。なかなか見どころであった。

それを受けて伊達がきちんと解説するかとおもいきや、ただボケてしまう。

伊達「いや最後の、あの、菅波先生のセリフね。あなたが投げるボール、カーブでもストレートでも、パームボールでも、フォークボールでも、何でも、受け止めます…」

富澤「言ってねえだろそんなこと、キャッチャーの話じゃないんだし」

伊達「…なんでもカラダで止めますみたいな」

富澤「おまえ、見てるようで見てないよな」

そう言われて、伊達は大笑いして、話題が変わる。

これもたぶん伊達は急におもいついてボケてしまい、だからカーブ、ストレート、パームボール、フォークボールとやや長めにボケたのだろう。

ツッコミやすくなっている。

いいコンビだなあとおもう。

『おかえりモネ 土曜版』で伊達はあと何回ボケるのか

何を1ボケとするかの勘定はむずかしいのだが、でも強引に数えるなら、19週までで富澤が16ボケ、伊達も同じ16ボケである。二人のボケ数が同じである。(数え方によってブレますので数字は参考までに)

あきらかにふつうではない。

伊達は『おかえりモネ 土曜版』では富澤と同等にボケるのだ。楽しそうである。

朝ドラ『おかえりモネ』は全体にやさしい雰囲気のドラマである。

その気配とサンドウィッチマンはとても合う。そのやさしい気配のなかで、何かしら小さい波乱を起こそうとして、伊達がボケ続けているように見える。

ただ楽しくてはしゃいでるだけかもしれないけど。

この『おかえりモネ土曜版』を見られるのもあと4週。

でも4週あれば、伊達の2ボケは絶対見られるとおもう。

ときには3ボケから4ボケで富澤を凌駕していくかもしれない。

ちょっと見逃せない。

どうでもいいことながら、目が離せない。

ほんと、どうでもいいですけど。見逃したくない。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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