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『おかえりモネ』の今田美桜と森田望智 朝ドラ初出演女優が見せる深い存在感

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

『おかえりモネ』の東京編

朝ドラ『おかえりモネ』は東京編に入っている。

主人公モネは、気象予報士試験に合格して、宮城県から東京へやってきた。東京暮らしが始まり、築地の近くの銭湯に下宿している。まさに下宿という感じの、いまどきではない住まいである。

東京編は、いろんな意味を持ちそうである。

主人公モネは「宮城県に住んでいること」をとても大事にしていた。

また、地方にいる若い人らしく、繰り返し「東京は怖いところだ」と言っていた。

そのヒロインが東京へ出てきて暮らし始めた。注目の部分である。

テレビの報道番組の仕事に携わる

出演者が一変した。

モネは気象予報の会社に入社し、テレビ報道の気象コーナーを担当するチームに入った。

これまで宮城県内の森林に出入りし、三百年を超える樹木をどう切るか、どこへ保管するかという地道な仕事をしていた世界から、大きく変わっている。

かなり煌びやかな世界に飛び込んだことになる。

芸能人とふつうに出会えそうな仕事でもある。東京でも飛び抜けて怖そうな世界だ。

一緒に仕事している人たちはやさしい。

モネが勤める気象予報の会社「ウェザーエキスパーツ」の社長役が井上順で、テレビでよく顔を知られているお天気キャスター朝岡役が西島秀俊である。

井上順と西島秀俊の朝ドラ

この二人は、朝ドラに何度か出ている。

井上順は、前の前の『エール』、主人公たちの隣家の喫茶店バンブー夫婦の「なれそめ話」の回にちょっとだけ出ていた。バンブーの主人(野間口徹)のおじ役である。古書店に顔を出していた。2005年の『ファイト』にも出ていて、これは金持ちらしい風体で登場、ヒロインたちの厩舎にときどき顔を出していた。馬主の役である。

西島秀俊は2006年の『純情きらり』と2016年の『とと姉ちゃん』に出ていて、これはどっちも重要な役どころだった。

『純情きらり』ではヒロインの姉と結婚する芸術家(画家)、心中したり、空襲で瓦礫に埋まったりたいへんそうだった。ヒロインに大きな影響を与えていた役である。

『とと姉ちゃん』ではヒロインの父。物語早々になくなってしまったが、ヒロインたちの心に残る重要な役どころだった。

朝ドラ初出演の今田美桜・森田望智・清水尋也

さて、残りの同僚たちが、朝ドラ初出演のフレッシュな人たちである。

まず、今田美桜の神野マリアンナ莉子。アシスタントとしてテレビのお天気コーナーに出演している。

そして清水尋也の内田衛くん。熱心な予報士で天気予報画面の変化をいつも注視している。あまり前に出てこないが頼れる若手の先輩。

もう一人は森田望智が演じる野坂碧。モネが宮城で働いているときに宮城へやってきて森林の観測をしていた。かなり気象に詳しそうで、やさしく頼りになる先輩。

みんな爽やかに頼りになる先輩であるが、でも、この三人はもともとかなりクセの強い役を演じてきた役者さんたちである。演技の達者さが買われている役者さんたちで、爽やかな役を演じているとちょっと拍子抜けしてしまう印象があるくらいだ。

気位の高いお嬢様役が似合っている今田美桜

今田美桜は、いまは複数のコマーシャルに出ているから、とても顔を知られている(7億円を5で割り切れることがわかっているたった一人の存在だったりする)。

彼女の主演ドラマが次々と制作される時期がまもなくやってくるのではないかと、おもわれる。

彼女がドラマのメインどころとして目立つように登場したのが、2018年4月からの火曜ドラマ『花のち晴れ』である。

主演は杉咲花。

ヒロインが通うとんでもない金持ち高校を支配する「C5」のうちの一人で、気位の高い居丈高のお嬢様として登場してきた。彼女の風貌にまさにぴったりだった。

ヒロイン(杉咲花)が貧しい家の出身と知って最初は敵対し、いじめつづけるが、やがてヒロインの味方になるという役どころ。彼女の強烈な顔立ちと、この居丈高なお嬢様役というのが見事にはまっていた。

その後は、『SUIT』(2018)、『3年A組 今から皆さんは、人質です』(2019)、『半沢直樹』(スペシャルおよび2020年版)、『ケイジとケンジ』(2020)、『親バカ青春白書』(2020)、『恋はDeepに』(2021)と立て続けにメインどころとして出演を続けている。

このなかで、『3年A組 今から皆さんは、人質です』では、お嬢様気質の気位の高い役を演じて、多くの若手女優(永野芽郁、上白石萌歌、堀田真由、大原優乃、森七菜、福原遥、箭内夢菜など)のなかにあっても、かなり目立っていた。

彼女の本質はこの「厳しさを前に出してそのまま物怖じしない部分」にあるとおもう。

キツめの女性ばかりでは役が狭まるから、そのあとは「屈託なく明るい若い女性役」もそつなくこなしている。

野心をもった気象予報士を演じる今田美桜

『おかえりモネ』では最初、かなり「野心を持った女性」として登場してきたように見えた。

朝岡(西島秀俊)が他の仕事でテレビに出られない日、代わりにお天気メインキャスターを務めるというのが、彼女の初登場シーンだった。どうせやるなら言われたとおりではなく、自分で書いた原稿を自分で読みたいと主張して、テレビ局員や先輩の予報士(森田望智)と軽く衝突していた。

ひさしぶりに今田美桜らしい「強い面」が出ていて、ちょっと楽しみだった。

ただそのあと、臨時ニュースが飛び込んできてお天気キャスターの出番そのものがなくなってしまい、彼女の野望はくじけてしまう。

いまのところ主人公のモネと協力して、野外でのお天気コーナーを楽しく進行している。新人のモネの言うこともけっこう聞き入れて、そんなに我の強いところは見せていない。

「野心を抱いた若いキャスター」という部分はいまのところはおさえられている。

朝ドラは長丁場なので、一瞬、垣間見せたキャラが、そのあと何もフォローされないで流れていくということもときどきあるが(たとえば、モネはとても耳がいい、という設定は初期では大事にされていたのだが、それはその後まったく触れられていない)今田美桜演じるマリアンナ莉子の「野心」は、どこかで再び噴出する瞬間を見てみたい。

森田望智の尋常ならざる存在感

もう一人の女性先輩予報士の野坂さんを演じる森田望智も、朝ドラ初登場である。

彼女もいままで、かなりクセのある役を演じてきている。

もっとも印象に残るのは『全裸監督』の出演、かつて一世を風靡した黒木香の役である。この配信ドラマで注目された彼女は、次々と地上波のドラマに出演する。

『トップナイフ』(2020年1月期)での役柄は地味めだったが、2020年秋のTBSドラマ『恋する母たち』での弁護士役は強いインパクトを与えた。

ヒロイングループの一人・まり(仲里依紗)の夫と不倫関係にある新人弁護士で、妻に対して不倫を仄めかし、愛されているのは私だよという意思表示を繰り返す女を演じて、見事だった。仲里依紗側から見ていると、じわじわ世界を侵食され、この女一人で世界を崩壊させるのではないかという恐怖さえも感じさせて、その存在感は尋常ではなかった。

それが森田望智である。

そのあと、配信ドラマながら地上波の深夜でも放送された『あの子が生まれる…』でも主人公を務めた。ホラードラマだ。病院で起きる不気味な出来事を通して,彼女自体がそこにいるだけで戦慄させる存在であるかのように見せるのがうまい。

やはり存在感が尋常ではない。

『おかえりモネ』でやさしいお姉さんである森田望智

森田望智の存在感が尋常ではないのは、一見ふつうの人間に見えるのに、その裏に尋常でないものを抱いていることをきちんと感じさせる、その役者としての力量と雰囲気である。

『おかえりモネ』では、いまのところまじめな気象予報士役である。

いままでのドラマの森田望智をおもいだすと、このままでは終わらない気がしてしまうのだが、朝ドラなので、そんなこともないのだろう。

明るく屈託のない森田望智も、ふつうに魅力的である。

清水尋也は何度か犯人役を演じてきた

そして清水尋也が演じる内田衛。

これはいわば「気象おたく」しかも「風おたく」ともいうべき内向的な人で、それでいて天候の変化には人一倍敏感な存在で、なかなか頼りになる。

清水尋也も、いろんなドラマで見てきたが、どれもひと癖もふた癖もある役であった。

彼がとても印象深かったのは、広瀬すずのドラマ(田中裕子のドラマでもあるが)『anone』での、病院にいる少年役である。天涯孤独なハリカ(広瀬すず)が唯一、連絡をとってチャットでのやりとりをしている相手で、でも不治の病に冒されて、ずっと病院から出られないでいる。その少年役を演じて、ところどころしか出演しないのに強烈な印象を残した。

孤独な少年を演じ、その存在感は半端ではない。

『絶対零度』(2020年のSeason4、沢村一樹主演)の第6話で犯人として登場し、『キワどい2人』では第3話でアポ電強盗の犯人役を演じた。

2021年になって『アノニマス』ではこんどは警察官となりコンピューターを操る天才的な捜査官役を演じた。

1話だけのゲストでも、あ、あの、とおもいだす役者である。犯罪者を演じるとそのビジュアルもあって印象深い。クセのある役を演じて、見た者の心に残る。

ふつうの青年役を演じるのがきわめて珍しい清水尋也

『おかえりモネ』で、はじめて「ふつうの青年役」を見たような気がする(ほんとうは、ドラマ『チア☆ダン』などで見てなくもないのだが)。

内気な青年をふつうに演じて、いい感じである。

これまでは、だいたいコミュニケーションが苦手そうな役が多く、おそらく風貌からそういう役が割り振られるのだとおもわれる。

『おかえりモネ』では、かなり研究熱心で「気象おたく」という側面は見せているが、でもふつうに喋るし、ふつうの頼れる先輩である。

おそらくこのまま「いい人の役」を演じ続けそうである。

高岡早紀もまた朝ドラ初出演で存在感を見せる

ただ『おかえりモネ』の全体のテーマから考えると、東京は「宮城の自然」とは別の世界であることが描かれるはずである。

ヒロインのふだんの生活が、何かしらの「ゆらぎ」ないしは変動が起こるはずで、起用された役者から考えるに、おそらく「気象予報チーム」からではないかと想像している。

気象予報チームと一緒に仕事をする「テレビ局のデスク高村」を演じているのが高岡早紀で、彼女もまた朝ドラ初出演である。

ちょっと意外だけれど、たしかに朝ドラでは見た覚えがない。

高岡早紀の演じる役どころは、口調はやさしいが、わかりやすく「怖い存在」である。

この、今田美桜、森田望智、そして高岡早紀という「朝ドラ初出演」の女優陣が、ヒロインのモネにとって何かしらの変動を予感させる存在になっていくのではないだろうか。このあたりがかなり怪しいメンバーである。

気象予報士モネの動向から目を離せない。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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