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小芝風花がNHK地震ドラマで見せた 現代日本の若者の問題点

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:アフロ)

NHKのドラマ『パラレル東京』に惹きつけられるように見入った。

12月1日から始まったNHK「体感 首都直下地震ウイーク」のなかで放送された全4話のドラマである。

ここではない東京で、震度7の直下型地震が起こる。東京はどうなり、そのときテレビ局の報道フロアはどういう対応をするのか。

そういうドラマだった。

震度7の地震に襲われた首都東京を描くリアルなドラマ

ドラマを毎日、見た。小芝風花を見続けた。

小芝風花は見てしまう。

今回は短い特殊なドラマながら主演。被災した東京を伝えるキャスター役だ。

とても強さを放つ女性だった。

ドラマの強さもさることながら、彼女の発し続ける空気がつよく押し寄せてきて、惹きつけられた。

1話だいたい30分ほど。12月2日から5日まで四日間放送された。

初日は夜7時30分から放送だった。

何となく見たら、目が離せなくなった。

“被災地東京”の映像がリアルで、起こる出来事もリアルで、実際の報道を見ている気分になる。渋谷でビルが倒壊する映像が流れ、首都高4号線の笹塚でもビルが倒壊して高速道路を押し潰すシーンも放映されている。「ああ」と声が出てしまう。そういう映像だった。

見知った風景で起こっている大災害だ。

もし実際に起こっていたなら、まさに被災地区にいることになる。幸いなことにバーチャル映像なので、我が身に危険は及んでいないが、だからこそリアルだった。

1995年1月の阪神の震災のときも、2011年3月の東北の震災のときも同じだった。

東北のときは東京も揺れて被害がなかったわけではないが、震源地近くと比べればとても被災地とはおもえないレベルだった。ただただ、テレビから流れてくる映像を声も出せずに見ているしかなかった。地震のあった当日に何をどうすればいいかわからず、その夜も何かをどうにかしようもなく、テレビを見ているしかなく、それだけで疲れきって眠った。そのままただテレビを見るだけの日が続き、ただ疲れ、家ではひたすら横になっていた。

ドラマを見ていると、それに近い感覚になった。

ついに現れないメインキャスター藤原紀香

小芝風花が演じるのは新米のキャスターである。

藤原紀香演じるメインキャスターは取材先で被災し、その後、連絡が取れなくなっている。メインキャスター不在のまま番組開始時間が近づき、新米キャスターの小芝風花が、私にやらせてください、と番組のメイン進行を志願する。彼女はもともとスポーツ担当のサブキャスターで、緊急報道の経験がない。かなり無茶な申し出である。

しかし、彼女が任された。大抜擢である。

不慣れな若手がはたしてこの事態をしっかり伝えられるのか、心配しながら大人は見守るしかない。

しかし、この抜擢が世界を少しずつ変えていく。

メインキャスターは、取材先で行方不明となっているが、いちおうスタジオには藤原紀香の写真が置かれ、「池上瑤子 ナイトニュース」という番組名となっている。藤原紀香が演じているのだから、どこかで彼女は出てくるのだろうとおもっていたが、ついに最後まで出演しなかった。4夜とも写真が飾ってあるだけで、連絡が取れたとの話もなかった。犠牲になったのではないか、ということが暗示されたままだった。なかなか凄まじい展開である。

また主人公と同期の若手記者も、杉並区の火災の取材に出かけ、現場に近寄りすぎたために爆発に巻き込まれた。彼もその後、登場してこない。

ドラマは本来、「人がどうなったか」を描いていくものであるが、そういうドラマではなかった。「東京都心に震度7の地震が起こったらどうなるのか」を描くドラマだった。本来のドラマ的な細かい部分はいくつか放擲されていた。それだからこそリアルに迫ってくるドラマでもあった。

急遽、メインに座った小芝風花の奮闘が始まる。

たどたどしさを抱えながらも、自分がやると言い切った覚悟を持って、彼女は懸命にニュースを伝えていく。原稿を読むばかりではなく、細かい情報がないままのライブ映像を、見てそのまま放送をする。「絵解き」と呼ばれる作業だ。

どれもたどたどしく、拙い。そのぶんきわめてリアルである。

無理してメインのキャスターを務めているからこそ、彼女の存在感が出ていた。

若く、力量不足だからこそ、心をつかまれたのだ。

初々しく、懸命である。真面目で一直線だ。

前代未聞の東京崩壊のシーンを、ひたすら伝えようとする。

小芝風花が強く訴える声が強く響いてきた。

それは彼女のもつ力なのだろう。

小芝風花が見せる覚悟を持った若者の力

小芝風花が登場したのは、2014年の実写版の映画『魔女の宅急便』の主役キキ役からである。しっかりと知られるようになったのはNHK朝ドラの『あさが来た』だろう。

主人公の娘役を演じて印象的だった。

主人公役の波瑠とさほど歳が違わないのに(6歳違い)母娘を演じていて、印象深かった。強い母に比べて、たおやかな風情の娘だった。おとなしいながら、自分のおもうところは曲げず、まっすぐ強い役柄だった。

そのあと、フジテレビの『早子先生、結婚するって本当ですか?』、TBS『下克上受験』で先生役を続けて演じた。新鮮な先生役だった。つづけて『マッサージ探偵ジョー』『女子的生活』を経て、今年、NHK『トクサツガガガ』で主役を演じる。

隠れ特撮おたくを演じ、コミカルな役ながら、彼女が演じるととても真剣に生きている女性に見えた。

彼女はいつも、目の前にあるものに強く関わろうとしている。そういうふうに見える。彼女が演じると、その真剣さが刺さってくる。

少女ぽい風貌を残し、まっすぐな姿勢の大人を演じている。それがハマると、見てる者に強く迫ってくる。

NHKの『パラレル東京』のキャスター役は、まさにそれだった。

本来の自分の役どころを超えてるのを自覚しながら、メインキャスターを務める姿は、より見ているものを引き込んでいった。

それが小芝風花の持ち味である。

彼女はいつも「何かを伝えたい」というおもいを強く抱いているように見える。

内にあるものを何とか外に出していこうとしている。その意志を強く感じる。

演じている新米キャスターの「倉石美香」がまさにそうだし、おそらく小芝風花本人がそうなのだろう。

具体的な演技やらセリフを超えて、それ以前に、強く「伝えたい」という意志が感じられる。自分の内側から湧き上がってくるものだけではなく、誰かから託されたおもいも強く伝えようとしているようだ。

役者は、脚本に設定された「思念」を伝える媒体でもある。人のおもいを拾い、増幅して、それを強く出そうとする力が彼女は強い。目が離せなくなる。

小芝風花の覚悟を引き出す大人の力

江戸川区の川が氾濫しそうな映像を見て、「いますぐ逃げて!」という彼女の声は、フィクションであることを越えて、届いてきた。ドラマの切羽詰まった状況もあり、でも「発声者としての小芝風花」を通して、より多く、より遠くまで届いたようにおもう。

本当にキャスターをやっても小芝風花の増幅する力は通用しそうである。もちろん役者としてその「まっすぐ一直線に届く力」は多くの人を巻き込んでいく。

このドラマは、新米キャスターの声によって事態が変わっていく。

まっすぐ真剣な力が、ある種の暴走をみせ、大人を巻き込んで報道現場が違った方向へ動き出した。

彼女を抜擢した上司も、彼女の予想外の動きによって違う地平へと進んでいくのである。

無謀ともおもえる若者の抜擢。それこそが緊急時には必要なのではないか。

『パラレル東京』は、じつはそういうテーマも隠し持っていたとおもう。

大人に比べて若者はいろんな部分で劣るかもしれない。

ただそのまっすぐなおもいは、世界をよい方向へ変える可能性を持っている。

だから、もう少し若者を信じていいんじゃないのか。

現代日本は、もう少し若者たちにも場所を与えていいんじゃないのか。

そういうメッセージを私は感じ取っていた。

そうすると、いま居場所を与えられない若者の苦悩が、想像できる。

小芝風花が演じていたということも大きかった。

真面目で一本気さを感じさせるところは、小芝風花はまさに朝ドラ主人公に適任のように見える。

彼女のこれからも期待して見守っていきたい。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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