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アカデミー出身者が増えても成績低迷の葛藤、大宮MF小野雅史「チームを引っ張る気持ちが必要」

平野貴也スポーツライター
アカデミー(育成組織)出身選手として【写真提供:大宮アルディージャ】

 2021年シーズンのJ2で残留争いに巻き込まれ、過去最低16位という成績に終わった大宮アルディージャが、揺れている。

 最優秀育成クラブ賞(柏レイソルが受賞)の候補にノミネートされたほど、近年はアカデミー(育成組織)出身者を多くプロの舞台に送り出しており、21年のトップチーム登録35人(特別指定と2種登録を除く)のうち4割の14人がアカデミー(U18=13人、U15=1人)出身者だった。

 しかしながら、この2年は15位、16位と低迷。今季終盤には、一部でスポンサー離れの可能性が報じられ、佐野秀彦社長はクラブ全体のコストカットを明言するなど苦境に立たされている。また、チーム関係の報道でもアカデミーからの生え抜きで14年在籍していたDF渡部大輔や、アカデミーを強化してきた中村順育成部長らが契約満了となるなど、動きが出てきている。

 アカデミー出身者が増える中、J2残留争いを強いられた苦しいシーズン。攻守にわたって存在感を見せたMF小野雅史は、ジュニアからユースまでアカデミーで育ち、明治大を経て加入したプロ3年目の選手だ。現在の自身やアカデミー出身選手、そしてトップチームの立ち位置をどう感じているのか、リモートインタビューで話を聞いた(取材日:12月11日)

選手が語る残留争いの圧力、大宮アルディージャMF小野雅史「プレースタイルまで変えてしまう」

・アカデミー出身者が増えても成績低迷の葛藤、大宮MF小野雅史「チームを引っ張る気持ちが必要」(当該記事)

――プロ3年目となった21年シーズン、個人としての手ごたえは?

メンタルの浮き沈みが激しかったです。序盤の4試合は出られず、納得できない気持ちを抱えてしまいました。初めて出場した第5節の長崎戦(4-0)で1得点1アシストができて出場できるようになりましたが、勝てない時期が続いて責任を感じました。6月にシモさん(霜田正浩監督)が来てからは、少ししてから試合に使われなくなったのですが、その時期は「試合に使いたいけど、お前の良さがまったく出ていない」と言われ、練習中にパスを1本ミスすると「それじゃ、勝たせられない」と、チーム内でも一番と言って良いくらい厳しく指摘されて苦しんでいました。

――その後、かなり多くのポジション(ボランチ、トップ下、両サイドMF、左DF)で起用されたことを考えると、霜田監督の期待が大きかったのでは?

そうかもしれません。シモさんが「ポジション=雅史」と言って、位置がどこであっても試合に使ってくれるようになった嬉しさはありましたけど、自分の良さが出せていない気もしました。シモさんが就任してすぐの頃は、チームのスタイルとして、サイドはタッチラインに張って、パスを受けたらドリブル。(パサータイプで)その役割に適していない自分がサイドで起用される理由は何か。シモさんが(妥協して選手が)やりやすいようにしてくれたのではないか、本当はチームのためには外に張っていた方がいいんじゃないか。優先すべきプレーは、どれなのか。(このチームにおける)自分の適正ポジションはどこか。そもそも自分の特長は何か……。どうすればいいか分からなくなり、すごく悩んでいました。

――敵陣の中間でパスの経由点となって切り崩していく、小野選手が本来得意としているプレーは、あまり見られませんでした。一方で、攻守によく走って、前に飛び込む、広範囲を守る、球際の争いを制するというプレーでは、貢献度が高かったと思います。

いろいろな人に同じことを言われます。アカデミーでやってきたポゼッション(パス回しによるボール保持)とか、攻撃的な左足のパスやシュートをもっと出せれば良かったとは思いますけど、守備の部分では、明治大学でチームを引っ張ろうとしてやっていたことが自然と出てきました。シンプルに、目の前の相手に競り合いで負けない、シュートやクロスを蹴らせない。「球際、運動量、攻守の早い切り替え」で相手を上回る。監督がシモさんになってから求められるプレー強度が上がっていましたし、そういう部分ではやれるというのが試合で出せるようになって、少しずつ自分のやるべきことが見えてきました。

残留争いの終盤は、リスクを負えないので、ポゼッションがうまくできず、敵陣にロングパスを蹴ることも増えましたけど、そうしたら前に走って相手にプレッシャーをかけて、前線でボールを奪いに行く。自分の能力でできることは最低限、出せるようになったかなと思います。(最終節の一つ前の)町田戦で(右からのクロスに飛び込んで)ケガをした場面でも、今までの自分なら、あそこに飛び込むことは想像できなかったです。ケガをしてしまいましたけど、変われたなとは思います。

「アカデミー出身者がトップチームで試合に出て勝たないと」

【リモートインタビュー画像】
【リモートインタビュー画像】

――今季は、チームとして成績が出ず、5月に岩瀬健監督、西脇徹也フットボール本部長が解任されて体制が変わりました。西脇さんは、アカデミー時代に指導を受けた恩師の一人でもありますよね

岩瀬監督や西脇さんが解任になったのも、自分たちのせい、僕のせいだと感じています。チームを勝たせられれば、そういうことはなかったわけですから。シビアな世界だと実感しました。僕自身は、残留争いも監督交代も初めてで、自分の中に経験として置いておかないといけないとも思いました。

――大宮は、この数年でアカデミー出身選手が増えました。しかし、トップチームで活躍できなければ、その功績も評価されにくいものになる部分があります

アカデミー出身者がトップチームで試合に出て勝たないと、アカデミー自体が評価されないというのは分かっていますし、そう言われていることがすごく悔しいです。今は、(大山)啓輔君や、自分たちが上の世代になってきていて、下の世代でも(奥抜侃志や柴山昌也らが)試合に出場しているけど、まだまだ、僕たちはチームの中で与えられた役割を淡々とやっているような感じになってしまっていると思いますし、それではダメだと強く感じています。

クラブを知っている選手が、もっとやらないといけない。練習でも、率先して声を出しているのは外部から来たベテランの選手で「大宮の選手は静かだな」と毎回言われてしまっている。それじゃダメだなというのはある。そこは自分が変えていきたいというか、もう一皮むけないといけないと感じています。

――シーズン終盤に「霜田監督から、アカデミー出身でオレンジの血が流れているお前たちが引っ張って行かないといけない、と言われている」と話していましたよね

1年を通して一番強く感じたのは、自分がチームを引っ張って行く気持ちが必要だということでした。アカデミーの出身でクラブに対する思いの強い選手が、試合に出てチームを勝たせることができれば、クラブとしても手ごたえは大きいと思いますし、未来につながると思います。試合後に話した時より、今の方が、自分が引っ張って行かないと、という気持ちは強く持っています。

中・高・大の後輩、小柏の日本代表選出は刺激

――2学年下の後輩で、大宮のアカデミー(U15、U18)でともに過ごし、明治大学でも後輩だった小柏剛選手(北海道コンサドーレ札幌)が6日発表の日本代表に選出されたことは、どのような刺激になりますか

すごいと思いました。ただ、嬉しいけど、負けたくもないなと思います。(小柏選手がJ1で活躍している状況とは異なる)今の僕の立場では、すぐに「オレも代表に」なんて言っても難しい次元かもしれませんけど、一緒にやってきた期間が長くて、身近な存在だった選手が代表入りというのは、やっぱり「自分も」というモチベーションにはなります。(小柏選手が)大学を卒業してプロになってから伸びた部分もあると思いますけど、ずっと同じレベルで自分もやれていたと思っていますし、自分自身の手ごたえとして、試合で結果を残せていないのは事実ですけど、J2でプレーしていてフィジカルや技術で負けているとか、明らかにレベルの差があると感じたことはありません。

――小柏選手に限らず、他チームでは大宮のアカデミー出身者が活躍しています。同じようにできるだけの力を持っているはずの選手が、最も結果を出したいチームで結果を出せていない現状は、非常に歯がゆく感じますし、選手も同じではないでしょうか

なんか、できる(はずな)のにできないというか、なかなか難しいですね。本当に、アカデミーがダメとかいうことではなくて、僕たちが大宮で活躍することが上手くできていない、そこだけだと思っています。(21年シーズンで契約満了となった育成部長の)中村順さんは、自分たちを育ててくれた人たちです。僕たちがトップチームで結果を出さないと、指導者も選手もみんな立場がなくなっていくと、あらためて強く感じています。アカデミーの選手は、長い期間、多くの育成スタッフにお世話になっています。僕らを育ててくれた人たちのためにも、もっとやらないといけないという気持ちはあります。

――苦しかった戦いが終わり、シーズンオフに入りますが、どのように過ごしたいですか

まずは、肩のケガを治します。まだ痛いですけど、動かせるようにはなっているので、来季の開幕には、間に合います。あとは、一度サッカーから離れて、リフレッシュしたいです。今季は本当に苦しくて、シーズン中は、自分からは(そんなことをしている場合ではないのではないかと考えて)連絡を取り辛くて、ストレスが溜まって追い込まれていくような感じがあったので、オフには友だちに会って楽しく話したいです。

――最後に、我慢強く応援してくれたファン、サポーターへのメッセージをお願いします

まず、1年間、応援ありがとうございました。どんなときでも背中を押してくれて、支えてもらったと感じています。苦しいときも、それがあったからプレーができた部分もあるので、本当に感謝しています。来季もうまくいかないときや苦しい瞬間はきっとあると思いますけど、それでも、やっぱり一緒に戦ってほしいです。その応援や期待に応えたいと思うので、来季こそJ1昇格という目標に向けて、自分ももっともっと頑張りますので、引き続き、応援をよろしくお願いします。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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