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選手が語る残留争いの圧力、大宮アルディージャMF小野雅史「プレースタイルまで変えてしまう」

平野貴也スポーツライター
【写真提供:大宮アルディージャ】

 2021年シーズンのJリーグが幕を下ろした。前年にコロナ禍で「昇格あり・降格なし」とした影響を受け、今季はJ1、J2からの降格チーム数が例年の2から4へと変化。これにより、各リーグの残留争いは、し烈を極めた。

 J2では、大宮アルディージャが厳しい戦いを強いられた。シーズンの約3分の1にあたる第13節終了時点で最下位(22位)と低迷し、5月に岩瀬健監督を解任。佐々木則夫トータルアドバイザー(当時)が指揮を執った2試合を経て6月に霜田正浩監督が就任。第32節終了時点で14位と一度は持ち直したが、終盤に再失速して苦しみ、最終節でようやく残留が決まった。

 大宮は17年に2度目のJ2降格となり、18年は5位、19年は3位と昇格争いをしてきたが、20年は15位。今季は、あわやJ3降格の危機に見舞われ、過去最低の16位に終わった。大宮のアカデミー(育成組織)出身で、攻守のつなぎ役としてシーズン終盤にかけて存在感を増したMF小野雅史は、残留争いの厳しさを痛感していた。絶対に負けられない試合で結果が出ない、そんな日々は選手をどのような心理に追い込むのか。厳しかったシーズンをリモートインタビューで振り返ってもらった。(取材日:12月11日)

・選手が語る残留争いの圧力、大宮アルディージャMF小野雅史「プレースタイルまで変えてしまう」(当該記事)

アカデミー出身者が増えても成績低迷の葛藤、大宮MF小野雅史「チームを引っ張る気持ちが必要」

「試合になると、変わってしまう」

――今季は、最終節でJ2残留が決まりました。小野選手は、1つ前の試合(第41節、町田戦)で肩を痛めて欠場となりましたが、どのような思いで見守っていましたか

自分が試合に出て残留を決めたいと思っていて、別メニューでも練習はしていました。結果的に間に合わず、できることがなくなって申し訳ない気持ちでしたし、出場できずに悔しかったです。J2残留は、本来の目標ではないですけど、最低限のノルマをクリアできて、ホッとしました。

――最終節後に馬渡和彰選手が「今季は何回泣いたか分からない」と話していましたが、小野選手も何度となく試合後に悔し涙を流していました。長くリーグの残留を争うというのは、初めての経験でしたよね

振り返ってみれば、こういう経験をして成長できたかなとも思いますが、本当にきつい、苦しいシーズンでした。期待に応えなければとプレッシャーを感じて、勝てずに抜け出せなくて、すごく、焦っていましたし、寝られない日が続いた時期もありました。一番きつかったのは、第36節の磐田戦(※残り7試合、首位の磐田に善戦したが、90+7分に失点して1-2で逆転負け)。試合終盤にキャプテンのミカさん(三門雄大)をベンチに下げて、自分を使ってくれて、絶対に結果を残さなければいけなかったのに(シュートブロックに飛び込んだ)自分の股を抜かれて失点して……。しばらく立ち直れませんでした。

――苦しさは、プレーの中にも見受けられました。シーズンの中ごろ、中盤で強引にドリブルを仕掛ける場面が見られましたが、誰もフォローに来る余裕がない中、独力で打開しなければと考えていましたよね? ほかの選手にも同様のプレーが見受けられました

そういう時期が長かったですね。自分の前に相手が2人いるのに、横パスの選択肢がなくて、ワンツーの選択肢さえもなく、ドリブル一択で行くしかない状況が結構ありました。残留争いのプレッシャーというのは、自分たちのプレースタイルまで変えてしまうんだと思いました。課題は選手も分かっていて、シモさん(霜田監督)とも話をしていました。

でも、試合になると、変わってしまうんです。ボールを持った味方選手のパスの選択肢を増やさないといけないのに(今、自分がパスを受けて奪われたらピンチと考えて)コースから隠れてしまう選手が出てきたり、パスを受けたらまず相手ゴールに向かえるように前を向くべきなのに(背中で相手からボールを守ろうとしたままで)やらなくて、仲間がパスをもらいに行きにくくなったり、(相手に寄せられるのが怖くなって)前線の選手がまだ準備ができていないのにボールを前に蹴ってしまったりと、もったいない場面が多くありました。

――心理の影響で動きが遅れて、考えていたプレーをできるタイミングを失って、どんどん困っていくという状況に見えました

そうですね。そういうプレーが気付かないうちに増えていて、これではダメだと分かっていることが改善できず、自分たちが今、どうすればいいのかも分からない状態になっていきました。全員が全員、迷ってしまっていて、でもずっと守ってばかりで走らされて疲弊するから、守備でしのいで攻撃に移っても、周りにサポートがいない。そういう状況が多かったかなと正直思います。だから、90分ずっと悩みながらプレーしていて、点を取っても不安が解消されずに残っているという状況が続きました。

4試合連続で終盤に失点、「焦りや一瞬の迷い」で判断間違う

「少しずつ歯車が狂っている感じがすごくしました」と語った小野【リモートインタビュー画像】
「少しずつ歯車が狂っている感じがすごくしました」と語った小野【リモートインタビュー画像】

――霜田監督が「今季は、ほとんどメンタルのことしか言っていない」と話していましたが、実際にメンタルが揺さぶられて判断力や改善力を失っていると感じる部分がありました。特にシーズン終盤(第36~39節の4試合)、試合終了間際の失点が続いて勝点を失いました。試合終盤でも、守備優先の戦いは、相手の攻撃の選択肢を消すことが優先であるはずなのに「ゴールを守りたい」という思いから、全員が自陣のスペースを埋めるために下がってしまい、ボールを持った相手選手がノープレッシャーでプレーを選べる状況が生まれました。選手もその状況に気づいているけど、すでに引いてしまっていて、連動して前に出て行くことが難しく、金縛りのような状態に見えました。

本当に、その通りですね。守備でのプレッシャーのかけ方も、試合中、どの場面では積極的にボールを奪いに行き、どの場面では自陣に引き込んでスペースがなくなった状況にしながら守るのかという使い分けが、話してはいたのに、明確に共有できていませんでした。試合終盤の場面も含めて(ミーティングや練習を通して)やるべきことは分かっていても、焦りや一瞬の迷いで的確な判断が瞬時にできず、間違ったプレーを選択してしまったり、プレーの精度を欠いたりすることが多かったと思います。

――残留争いのプレッシャーが、選手に「リスクを負いたくない」という気持ちを与え、その細かい影響によってプレーの選択肢が狭まったり、成功するタイミングを失ったりしているという部分がよく分かります。

結果としてコミュニケーションが不足していたと思います。シモさん(霜田監督)がずっと言い続けていたのにチームとしてできなかったのが、ゲームコントロールです。究極を言えば、自分たちがボールを持っていれば失点はしません。残留争いをして苦しいシーズンで、相手にボールを持たれる時間が長かったので、自分たちでボールを持って、たとえばシュートを打てなくても敵陣に押し込んでゆっくりと攻めるとか、自分たちの(能動的にプレーする)時間を作りたかったです。

でも、シーズンの終盤、残留争いのプレッシャーがある中では、やはりリスクはできるだけ回避したいという心理が働きますし、シーズンの終盤に入っていきなりできるものではないと感じました。チャレンジしようとしているけどうまく実行できない自分たちがいて、少しずつ歯車が狂っている感じがすごくしました。

「こんなもんじゃねえぞ、というのを見せたい」

――苦しいシーズンを乗り越えて、来季はチームの立て直しを行う時期になると思いますが、一部ではスポンサー離れの可能性が報じられています。具体的な状況はまだ分かりませんが、チーム全体でコストカットを行うことは、佐野秀彦社長が明言しています。今までより厳しい状況で来季を迎える可能性も考えられますが、どのような目標意識を持って臨みたいと考えていますか

J2にいる以上は、J1昇格は目標にしなければいけないものだと思っています。残留争いをしていたので、来季にいきなりJ1昇格は難しいと言われるかもしれません。でも、僕は、やるべきことを一つひとつ着実にこなしていけば、それはできるという自信がありますし、自信がないとやっていけないとも思っています。

今回の経験は大事なものではありますけど、今季がどうだったからとか(来季の上位は難しいなど否定的に)あまり考え過ぎてはいけないというか、(降格の危機を)乗り越えたから、ある部分では開き直ろうと思っています。こんなもんじゃねえぞ、というのを見せたいです。

チームがサッカー以外の経営的なところで苦しくなっていると言われる中では、クラブが一丸となることが一層重要ですし、特に僕のように、クラブのことを知っているアカデミー出身者は、恩返しじゃないけど、こういうところで見せないといけないなと思います。そこは、強く思います。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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