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マンションリフォームの落とし穴! 騒音トラブルを引き起こさないために、ここに要注意

橋本典久騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授
(写真:アフロ)

 上階の部屋がリフォームしてから音がよく響くようになった、あるいは、リフォームを期に下の階からクレームを受けるようになったというトラブルが大変に多くみられます。また、中古のマンションを購入して入居する場合など、予め室内をリフォームすることがありますが、この場合は特に要注意です。仮に、リフォームが原因の場合でも、下階の人は、上階の住人が音に配慮しない人に代わったために音がよく響くようになったと捉え、これは重大な騒音トラブルに繋がりかねません。そんなことのないように、リフォームの時に注意すべき音の問題について解説します。

リフォームの内容は管理組合で事前にチェックされる、でも・・

 一般的に、マンション管理規約の中にリフォームの項があり、区分所有者がその専有部分の模様替えを行う場合には、設計図等を添えて管理組合の理事長に申請し、承認を受けなければならないとしています。特に、フローリングの工事などの場合には、構造、工事の仕様、材料等によりその影響が異なるので、承認を行うに当たっては、専門家(一般には1級建築士)への確認が必要であるとしています。

 1級建築士がチェックを行い、他の専有部分に影響がないと確認されれば承認されるシステムですから、これで十分に問題は起こらないと考えられますが、実はそうではありません。1級建築士は音の問題にも熟知していると思われがちですが、建築の分野は大変に幅広い様々な知識を要求されるため、1級建築士と言えども音に関する詳細な知識までは持ち合わせていないという場合が多いのです。そのため、構造や材料、施工などのチェックは行えても、音の問題は見落とされてしまうことがあるのです。その代表的な点が、2重床の端部処理の問題です。

リフォーム時には2重床の端部処理に要注意!

 2重床とは、コンクリートの床の上に支持脚などでささえたもう一つのパネル床を施工する方法です。多くのマンションで用いられている方法で、数多くの製品が発売されています。過去の記事「いまだにマンション管理規約にLL-45が! それどころか間違った資料で検定試験まで」でも触れましたが、2重床にはさまざまな床衝撃音性能の製品があるため、マンション管理規定の使用細則などで一定性能以上の製品を使うように決めているところもあります。これはトラブル防止のためには望ましいことであり問題はありません。問題なのは、床衝撃音性能は十分にある製品を使ったとしても、性能が悪くなるような施工をしてしまうことです。

 下図の(a)、(b)は、同じ2重床を施工した場合に、2重床の四周端部と壁・床との取り合い部(根太床の端部ということで際根太(キワネタ)と呼ばれます)の仕様に関する2つのパターンです。(a)は、在来工法として木造の根太床などを張るときに用いられている床端部の際根太の仕様です。(b)は、床衝撃音に配慮した防振式の際根太です。どこが違っているか分かるでしょうか。

 (a)の在来根太床の方は、際根太部分が壁にくっついており、根太を支える足の部分も床や壁に接触しています。巾木もフローリングに接触しています。従来の根太床はこのようなものでしたが、これでは床衝撃によって生じたフローリングの振動がそのまま壁や床に伝わってしまいます。2重床では、コンクリートのスラブ床を衝撃した時より大きな振動が発生しますから、それが床や壁にそのまま伝わると床衝撃音の性能が大きく悪化します。

 (b)の防振式の根太床では、際根太は壁から離れており、直接に振動が伝わらないようになっています。際根太を支える足の部分は床スラブから浮かすことはできないので、間に防振ゴムを挟んで振動の伝搬を低減しています。また、巾木の部分もフローリングと接しないように隙間が設けられています。このように2重床と壁、床が直接接触しないようにすることで、床衝撃時のフローリングの振動が壁、床に伝わらないように配慮しているのです。また、こうすることで2重床の空気層の空気抜きの効果も持たせています。少し専門的な話になりますが、フローリングに衝撃が加わった時に、空気層内の空気の伝搬速度はフローリングの振動よりも伝搬速度が早いため、空気抜きがあれば、空気層がバネとなって悪影響することを低減できるのです。

2重床と壁、床との取り合いの違い(壁際以外は同じ2重床、筆者作成)
2重床と壁、床との取り合いの違い(壁際以外は同じ2重床、筆者作成)

 では、これらの端部仕様の違いによって軽量床衝撃音の低減量にどれくらいの差が出るかを実験で確かめた結果を示します。下図が、その結果です。

2重床工法による軽量床衝撃音低減量の差の実測例(文末参考資料より。図は筆者作成)
2重床工法による軽量床衝撃音低減量の差の実測例(文末参考資料より。図は筆者作成)

 当然、在来際根太の方が性能が悪化しますが、その差は何とΔLL等級で3ランク(L値で言えば15dB)にもなっています。この結果はJISで決められた正式な実験室での結果ではないため、あくまで一つの参考例ですが、仮に、リフォームを行って3ランクも性能が低下したら、間違いなく苦情発生の原因となります。軽量床衝撃音低減量は、細かな仕様や材料の違いによって変化するため、図ほど低下量が大きくない場合でも、何らかの部材の接触があれば必ず床衝撃音性能は低下します。リフォームする場合には、2重床の製品選択だけでなく、壁際の取り合い部分の施工などで性能低下を起こさないよう十分に配慮するよう、施工業者に確実に伝えておくことが必要です。このような点を理解していない1級建築士は沢山いますので要注意なのです。

 これまで弊所に寄せられた相談例でも、リフォーム後に明らかに床衝撃音性能が低下しているが、それを直す費用は工務店に請求できるかなどの相談もあり、法律的にも難しい問題となるので、事前に、確実に指示しておくことが望ましいといえます。また、リフォームして2年程経ってから苦情が発生したという事例もありますが、これなどは時間経過とともに壁際などの部分で部材が接触してしまって性能低下を起こしたことも考えられ、注意が必要です。

騒音技術に関する正確な知識がトラブルを防止する!

 この2重床の端部処理の他にも、マンション管理において知っておくべき重要な騒音知識は他にも沢山あります。これらに関しては、前回の記事で紹介した書籍「マンション騒音問題に対する管理組合対応マニュアル」の中の、第2章で「知っておくべき騒音関連知識」として詳細に解説していますので、是非、参考にして下さい。正確な知識を持つことがトラブル防止の基本であることを十分に理解して、効率的なマンション管理を行って下さい。

<参考資料>

1) 川又周太、他:乾式二重床の壁際納まりおよび受音室内装仕上げが軽量床衝撃音に及ぼす影響、日本建築学会大会学術講演梗概集、2006年9月、163-164

騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授

福井県生まれ。東京工業大学・建築学科を末席で卒業。東京大学より博士(工学)。建設会社技術研究所勤務の後、八戸工業大学大学院教授を経て、八戸工業大学名誉教授。現在は、騒音問題総合研究所代表。1級建築士、環境計量士の資格を有す。元民事調停委員。専門は音環境工学、特に騒音トラブル、建築音響、騒音振動、環境心理。著書に、「2階で子どもを走らせるな!」(光文社新書)、「苦情社会の騒音トラブル学」(新曜社)、「騒音トラブル防止のための近隣騒音訴訟および騒音事件の事例分析」(Amazon)他多数。日本建築学会・学会賞、著作賞、日本音響学会・技術開発賞、等受賞。近隣トラブル解決センターの設立を目指して活動中。

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