Yahoo!ニュース

私たちの社会はエネルギーと水を大量消費する連鎖のなかにある

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
(写真:イメージマート)

水とエネルギーの連鎖

 国際エネルギー機関(IEA)は、世界の水供給に使われるエネルギー量について分析し、水需要と低炭素型エネルギーへの移行には密接な関係があると指摘している。

 水はエネルギー生産に必要だ。

 水力発電は水が重力によって動く力を利用している。火力発電や原子力発電でもタービンを動かすのは水(水蒸気)である。水力発電は重力によるが、火力発電や原子力発電の場合、水を温めることで強制的に動かしている。

 低炭素技術とされるバイオ燃料製造、集光型太陽熱発電、炭素回収貯留、原子力発電には大量の水が必要だ。

 世界のエネルギー関連の水消費は2014年から2040年の間に約60パーセント近く増えるという予測がある。

 その一方で、エネルギーは水供給、廃水処理、海水淡水化に必要だ。こうした需要の増大により、2040年までに水部門のエネルギー使用量は2倍以上に増える。

エネルギーをつくるには水が必要であり、水をつくるのにもエネルギーが必要だ。

私たちの社会はエネルギーと水を大量消費する連鎖のなかにある。

これを断ち切る必要がある。エネルギーをつくる水の量を減らし、水をきれいにしたり、運んだりするエネルギーの量を減らすのだ。

エネルギーという視点からの水道シフト

 現在の上下水道システムには、多くのエネルギーが使用されている。水源からポンプで取水し浄水場まで導水する、浄水場で浄水処理する、ポンプで各家庭まで送水・配水する過程で使われる電力は、年間約80億キロワット時。固定的にかかる電力量を節減できれば、水道経営は効率化できる。

 エネルギーの視点から水道事業を見直すと、

①「低・遠」から「高・近」へのシフト

②「水道」から「水点」へのシフト

③「水道施設」を「発電施設」へ

の3つがある。

①「低・遠」から「高・近」へのシフト

 低い場所にある水源から取水して、高いところにある浄水場まで導水したり、遠くのダムから導水したりと「低・遠」の水源を利用するのではなく、伏流水やコミュニティー内の地下水(井戸水)など「高・近」の水源に注目し、高低差を活かして水を運べば導水や送水にかかっていた電力は減らせる。

②「水道」から「水点」へのシフト

 大きな施設で浄水処理し、そこから水を道に通して運ぶのが「水道」だとすれば、給水ポイントを小規模分散化して、「水の道」を極力短くして「水点」をつくることにより、浄水やポンプ導水にかかるエネルギーを減らすことができる。

 地下水も利用のルールを決めて、持続可能な使い方をすれば、有効な「水点」になるし、雨水を活用した施設も「水点」といえる。将来的には生活用水確保と排水処理能力を備えた住宅もできるだろう。

「水道施設」を「発電施設」へ

 前の2つはエネルギー削減のアイデアだが、③「水道施設」を「発電施設」へ、はエネルギーを生み出すアイデアだ。

 2015年に水道事業を再公営化したフランスのニース都市圏には比較的高い標高の村々が点在し、地理的には約80パーセントが山間地域だ。ニース都市圏は山間地域へのサービスをいかに提供するかという悩みを抱えていた。山間部では漏水率も問題で、場所によっては水道管が敷設から100年を超えていた。

 この費用を生み出すことが問題だったが、取水施設や浄水場に小水力発電を導入し、これを都市圏に売電することでその費用をまかなうことにした。こうした考え方は日本でも応用できる。

 1898年、電話の実験を成功させたグラハム・ベルが日本の帝国ホテルで講演をし、「日本を訪れて気がついたのは、川が多く、水資源に恵まれているということだ。この豊富な水資源を利用して、電気をエネルギー源とした経済発展が可能だろう。電気で自動車を動かす、蒸気機関を電気で置き換え、生産活動を電気で行うことも可能かもしれない。日本は恵まれた環境を利用して、将来さらに大きな成長を遂げる可能性がある」といっている。

 日本は雨の多いアジア・モンスーン帯に位置し、その日本列島は雨を集める装置の脊梁山脈で覆われている。ベルは、この日本列島の気象と地形を見て、水力エネルギーの宝庫であることを見抜いた。山間にある簡易浄水場は水道行政からはお荷物のように見られているが、小水力発電の拠点として活用することができる。

 山間にある小さな水道施設は水道事業者からは「お荷物」のように見られることがあるが、位置エネルギーをもっており、小水力発電の拠点として活用することができる。発電量は少ないが、人口減少が著しい山間地域のむらづくりに活用され、流域上流部の山村の経済を下支えする。

 佐賀県吉野ケ里町松隈の松隈地区には40世帯、約130人が暮らす。ここに2020年、全世帯を株主にした「松隈地域づくり株式会社」が運営する小水力発電所が完成した。建設費の返済費分などを除く年間の収益約100万円は、農道や水路の維持管理、買い物支援への謝礼などに活用する。発電所は農業用水路から取水し、水車を回して最大出力30キロワットの電力を得る。九州電力に売電し、年間売上げ約700万円を見込む。建設費約6000万円は日本政策金融公庫の融資と地区の積立金でまかない、売上げのうち約600万円は20年かけて公庫と地区への返済に充てる。

 富山県朝日町では小水力発電で得た収入を使って水道インフラを更新する。人口約250人の笹川地区に発電所を設けて売電し、約3億円かかる簡易水道の更新費用を賄う。過疎に悩む地域が水の流れを生かして持続性を高めるかたちだ。

 小水力発電所は建設地の約1キロ上流から取水し、約90メートルの落差を利用して水車を回して発電。最大出力196キロワットの発電所で作った電力を北陸電力に売り、年間4000万〜5000万円の収益となる。

 高度成長期、大規模集中型の発電が定着した日本では小水力発電の技術が失われた。地域で水の動きを見分ける目を育て、中小事業者が地域に根ざした技術を開発できれば、小水力発電はもっと普及するだろう。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

橋本淳司の最近の記事