Yahoo!ニュース

コンゴの洪水でコレラ大流行の懸念。なぜ洪水が感染拡大につながるのか?

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
モザンビークでもハリケーン後、コレラが感染拡大した(写真:ロイター/アフロ)

コレラは水を介して感染する

コンゴ民主共和国で大雨による洪水が発生した。これまでに少なくとも400人以上が死亡し、さらに犠牲者が増えることが予想されている。同時に衛生状況が悪化し、コレラの流行が懸念されている。洪水だけではない2次的な被害は大きなダメージとなる。

なぜ、洪水によってコレラの感染が拡大するのか?

コレラは水を介して感染する「水系感染症」の代表格だ。感染拡大のしくみを簡単にまとめると以下のようになる。

コレラ菌に汚染された水や食物を口にすると感染する

      ↓

コレラ菌は腸内で増えて下痢として排泄される

      ↓

排泄物によって水源がコレラ菌に汚染されると、その水を飲んだ人はコレラに感染する

この負の連鎖を止めるには、安全な水と衛生(上下水道)が必要だ。

コレラはもともとガンジス川流域の風土病だったが19世紀に世界各地に広がった。18世紀後半にイギリスで起きた産業革命は19世紀には西ヨーロッパ諸国を巻き込みながら進行した。人、物資、そして水を満載した商業帆船が世界の海をめぐったが、それとコレラの広がりは無縁ではない。イギリス船がインドからもちかえった水がロンドン市内の井戸に入り、そのためロンドンでコレラが蔓延したこともある。

そして、過去200年間に何度もパンデミックを起こしてきたが、上下水道が普及するにつれ、コレラの感染者数は近年減少していた。

気候変動で高まる水系感染症の発生リスク

しかし、2022年、コレラ感染者数は上昇した。そこには紛争や気候変動の影響がある。

紛争で上下水道の施設が損壊したり、政治が機能しなくなり施設運営できなくなるケースがある。

また、気候変動によってコレラを含む水系感染症の発生リスクは高まっている。

干ばつで、安全な水源から出る飲み水が減少すると、安全でない水を使わざるを得なくなるケースもある。そしてコンゴのケースのように洪水もコレラの一因になる。トイレや下水設備のない地域では、安全だった水源にコレラ菌が流れ込みやすくなる。

最近ではサイクロン「フレディ」がアフリカ大陸南部に上陸し、マダガスカルとモザンビークで壊滅的な洪水が発生した。わずかな給水設備が壊れたり、水源が汚染されたり、環境が不衛生になり、コレラが広がった。

世界保健機関(WHO)は2023年2月、世界的なコレラ患者の急増により、43カ国の10億人が危険にさらされていると警告した。

ユニセフとWHOによってまとめられた報告書(『家庭の水と衛生の前進2000-2020』)によれば、世界ではいま約20億人が、安全に管理された飲み水を使用できておらず、このうち約1億2200万人は、湖や河川、用水路などの未処理の水を飲んでいる。また、およそ36億人が安全に管理された衛生施設(トイレ)を使用できない状況にあり、このうち約4億9400万人は道ばたや草むらなど、屋外で排泄を行っている。

こうした人々にコレラの危険が迫っている。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

橋本淳司の最近の記事