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まちなかの水辺が「人びとの健康にプラスの効果」という研究。ブルースペースは潜在的に貴重な公衆衛生資産

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
テムズ川(筆者撮影)

各地で進む水辺を活かしたまちづくり

「石巻地区かわまちづくり(北上川水系旧北上川)」が国土交通省の「かわまち大賞」を受賞し、2月5日、同市の観光交流拠点「いしのまき元気いちば」で報告会が開かれた。この事業は、東日本大震災後、石巻市が中心となって進めてきた河川空間を生かした地域活性化だ。

かわまち大賞は、全国で進められている「かわまちづくり」の中から、他の模範となる先進的な取組を国土交通大臣が表彰するもの。近年のかわまち大賞は以下のとおりだが、このほかの地域でも、河川空間を活かしたまちづくりが進んでいる。

「かわまち大賞」WEBサイトより筆者作成
「かわまち大賞」WEBサイトより筆者作成

身体活動を増加させ、回復を促進し、環境要因を改善する

 では、まちなかの水辺は私たちにどんな影響をもたらすのだろうか。

 グラスゴウ・カレドニアン大学のマイケル・ジョルジウ博士らが行った興味深い研究がある。

 「ブルースペースが人間の健康に与える影響のメカニズム: 体系的な文献レビューとメタ分析」(原題:Mechanisms of Impact of Blue Spaces on Human Health: A Systematic Literature Review and Meta-Analysis(M Georgiou、G Morison、N Smith、Z Tieges、S Chastin))によると、海岸、川、湖、運河などの「ブルースペース」は人々の健康にプラスの影響を与えるという。

東京湾(筆者撮影)
東京湾(筆者撮影)

 これまでの多くの研究者が自然環境の人間の健康への影響について研究してきた。近年は自然という一括りではなく、「グリーンスペース」や「ブルースペース」に限定した考察が行われ、数多くの研究者が「ブルースペース」の健康に対する利点について報告している。

 ジョルジウ博士らの研究の目的は「ブルースペース」が健康に与える影響について、既存の50の論文を統合し、定量化すること。とくに、身体活動、回復、環境要因、社会的相互作用の4点に着目して効果を分析した。

 その結果、「ブルースペース」は身体活動を増加させ、回復を促進し、環境要因を改善することがわかった。社会的相互作用にも有益な効果をもたらす可能性がわかったが、その証拠はまちまちでさらなる研究が必要としている。

水の恵みと脅威を考えた水辺空間の再生

 さらに細かく見ていこう。研究では、身体活動、回復、環境要因、社会的相互作用の4点について、「ブルースペース」の近くに住む人、「ブルースペース」が多い地域に住む人、「ブルースペース」の面積が広い地域に住む人の集団と、そうではない地域に住む人の集団を比較している。

 身体活動については、14の論文で、活動量が多くなる、運動不足になる確率が低い、身体活動がより激しい(中程度以上の激しい身体活動が多い)のうちの1つ以上が報告されていた。

コロナ禍で身近な水辺を楽しむ人が増えた(筆者撮影)
コロナ禍で身近な水辺を楽しむ人が増えた(筆者撮影)

 回復については18の論文で、「ブルースペース」が回復におよぼす有意な効果を報告されていた。このうちの7つの論文で、ストレスや心理的苦痛に対して有益な効果をもたらすとしている。

 環境要因については14の論文で、「ブルースペース」が環境におよぼす有意な効果を報告しており、そのうち5つの論文が熱ストレス指数の低下、地表温度の低下、4つの論文がPM2.5濃度の低下、5つの論文が生態系の質の向上をもたらすとしている。

白鳥が訪れる多々良沼(筆者撮影)
白鳥が訪れる多々良沼(筆者撮影)

 論文は最後に、「さらなる研究の必要性」を述べつつ、「世界のほとんどの都市が海岸、湖、川などのブルースペースを中心に建設されていることを考えると、ブルースペースは潜在的に貴重な公衆衛生資産であり、都市化の進展に伴う健康リスク因子を軽減するのに役立つ可能性がある」と締めくくられている。

 近年の日本では水害に備えることがクローズアップされがちだが、川などの水辺は本来まちづくりを形成する空間だ。水の恵みと脅威を考えた水辺空間の再生は意義のあることである。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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