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防災の日。パキスタンの大洪水は「遠い国の異常気象」ではない。「自己破壊の連鎖」は止められるか。

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
著者作成

今年1月から8月まで世界で発生した主な自然災害とは

 パキスタンが大洪水に見舞われている。7月の全国平均降雨量は177.5ミリと平年の2.8倍、1961年以降で最多。政府によると国土の3分の1が水没し、1100人以上の死者が出ているという。

 だが、これを「遠い国の異常気象」と考えてはいけない。

 今年になって世界各地で発生した主な高温、干ばつ、洪水などをまとめたのが上のマップだ。これらの根っこにあるのは地球温暖化だ。地球温暖化で気温が上昇すると、蒸発する水の量、空気や地面に含まれる水の量、雨や雪の降り方が変わる。これが気候変動であり、干ばつや洪水という形で私たちの生活に影響を与える。

インド北部:3月中旬から高温に。5月中旬、ウッタルプラデーシュ州では50度近い気温を観測。平均降雨量は観測史上3番目に少なく水不足が深刻に。

南アフリカ共和国東部:クワズールー・ナタール州のダーバン周辺で4月11日から数日にわたり豪雨が続き洪水に。約4000戸の家屋が全壊し400人以上が死亡。

ブラジル北東部:5月、集中豪雨の影響で洪水や土砂災害が発生。約4000戸の家屋が崩壊し106人以上が死亡。

インドアッサム州:5月、豪雨により洪水が発生。約70万人に影響。

ノルウェー:6月、ノルウェーのバナクで北極圏としては異例の高温。32.5度を記録。

オーストラリア:7月、シドニーで豪雨が4日間続き洪水が発生。

英国:7月15日、気象庁は「非常事態」に相当する最高レベルの「異常高温警報」を初めて発令。ロンドンを含むイングランド中南部で「命が危険にさらされる暑さ」になると警戒を呼び掛けた。

米国干ばつが慢性化。また、ミシシッピ州で7月末、東部を襲った豪雨による洪水で少なくとも36人が死亡。

アフガニスタン:8月に発生した洪水による死者が180人以上に。

中国:四川省から長江デルタ地域の上海市まで7月から猛暑。長江南岸にある鄱陽湖は例年に比べ表面積が4分の1に縮小。

ヨーロッパ:欧州委員会は8月23日、過去500年で最悪の干ばつに直面していると指摘。内陸部での船舶輸送や発電、一部作物の収穫量に影響が出ている。フランス、スペイン、ドイツ、ポルトガルなどで気温が40度近くになり各地で山火事が発生。

地球温暖化を軽視した無謀な開発によって自ら災害を生む

 今年4月、国連防災機関(UNDRR)が「自然災害の世界評価報告書」(GA2022 Report)を公表したことをご存知だろうか。報告では「2030年までに自然災害の発生は世界全体で1日当たり1.5回、年間で560回に達する見通し」としている。

 ニューヨークの国連本部で報告書を発表したアミーナ・J・モハメド国連事務次長は、「世界は、生活、建築、投資の方法に災害リスクを組み込むためにもっと努力する必要がある。努力を怠っていることが人類を自己破壊の連鎖に陥らせている」と述べた。

 「自己破壊の連鎖」(a spiral of self-destruction)とは、人類が地球温暖化を軽視した無謀な開発によって、自ら災害を生み、苦しんでいるということ。

 とりわけ皺寄せは、開発途上国に集中している。災害はインフラの整っていない地域ほどインパクトが大きくなり、復旧に時間がかかる。疫病の発生など2次災害を生むこともある。

 開発途上国が自然災害で被った損害額の年平均はGDPの1%と、高所得国の10倍超。特にアジア太平洋地域の損害額はGDPの1.6%と最大だ。

 もちろん日本でも、東京で6月25日から9日連続で35度を超す猛暑日を記録。これは、統計開始以来、観測史上最長となった。 その後、8月3日からは全国各地に大雨による災害が発生し、現在でも多くの人が苦しんでいる。

 パキスタンの洪水は遠い国の異常な出来事ではない。気候変動を軽視した無謀な開発をやめなければ、この流れは止まらない。

 「防災の日」に私たちの生活を根本から考え直すべきだろう。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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