基準値の最大21倍の大腸菌が検出

五輪会場の一つとなっている東京・お台場海浜公園。7月26日には水質・水温ともに基準値内でトライアスロン男子競技が無事実施されたが、関係者は今後の気温と雨を心配している。

「鉄人完泳、お台場の海「におい感じなかった」…台風接近での水質悪化に予断許さず」(読売新聞7/26(月) 15:23)

会場は東京湾の入り江にある。閉鎖性の強い水域で、汚染物質がとどまりやすい。

2017年(7〜9月の26日間)、東京都と東京2020組織委員会は、オープンウォータースイミング、トライアスロン会場の水質検査を行った。その結果、国際トライアスロン連合が定める基準値の最大21倍の大腸菌が検出された。

報道発表資料「お台場海浜公園における水質・水温調査結果について」(2017年10月04日/東京都オリンピック・パラリンピック準備局)

2019年8月11日のオープンウォータースイミングのテストイベントの際は、選手からは「トイレのにおい」(アンモニア臭)がするなど、糞尿の影響を示唆するコメントが聞かれていた。

ふん便性大腸菌の浸入を抑制する水中スクリーン

東京都はこれまでさまざまな水質改善策を行なってきたので、代表的なものを紹介したい。

まず、競技会場周辺の海にふん便性大腸菌の浸入を抑制する水中スクリーンの設置である。水中スクリーンはポリエステル製で横20メートル×深さ3メートル。これを横400メートルにまでつなぎ、巨大なカーテンが、豪雨時に海に出てくる汚水と汚物を堰き止める。

水中スクリーンの概要図「公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会持続可能性進捗報告書」より
水中スクリーンの概要図「公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会持続可能性進捗報告書」より

2018年(7月24日〜8月9日、8月25日〜8月31日の計22日間)に行われた実験では、3重スクリーン内では大腸菌類の抑制効果は認められたが、スクリーンの内側は水温が上がりやすく、新たに熱中症など懸念が浮上した。

ヘドロ化した底泥を砂で覆い、栄養塩などの溶出を低減

2020年2月には、お台場海浜公園に砂を入れた。工事は3月末まで続き、砂代は約6000万円かかったとされる。

工事の様子(著者撮影)
工事の様子(著者撮影)

この手法は「覆砂」といい、閉鎖水域の水底に砂を敷き詰め、水質や底質の改善を図るねらいがある。覆砂は、博多湾(福岡県)、三河湾(愛知県)、津田湾(香川県)、米子湾(鳥取県)などで行われ、効果も検証されている。「覆砂」によって水がきれいになっていくプロセスを以下にまとめた。

著者作成
著者作成

このように一定の効果は見込めるものの、そもそも覆砂のねらいは、ヘドロ化した底泥を砂で覆い、栄養塩などの溶出を低減すること。

著者撮影
著者撮影

上のモデルのように、底泥からの水質悪化という「下からの汚染」に対する効果は見込めるが、閉鎖水域に生活排水が継続的に流れ込むなどの「上からの汚染」の問題は残る。

「上からの汚染」を改善しなければ、結局は新たなヘドロが堆積ししまうため、覆砂が効果を発揮する期間も短くなる。

水を循環させ水質改善、水温上昇の抑制をねらう

今年7月には海水を循環させる装置が設置された。この装置は、通常ダム湖のアオコ対策に使われている。

閉鎖水域の水質悪化、水温上昇の原因の1つは、「水が動かないこと」にある。

そこで、水面に浮かべたプロペラで表層の水をダクトを通して底層まで送り、大きな水の流れを起こす。高い水温の表層と、低い水温の低層が混ざることで、水温を下げる効果を狙った。

こうしたさまざまな対策を経て、27日のお台場海浜公園は水質、水温ともに基準値以内に収まったわけだが、それでも関係者は今後の雨を心配している。

なぜか。

大雨が続くと生活排水が流出するしくみ

東京23区の下水道は合流式である。

合流式とは、生活排水と雨水を1本の下水管に合流させ、下水処理施設で浄化した後、河川に流す方法。

豪雨により一度に大量の雨水が下水管に入った場合、下水処理施設の処理能力を超えるおそれがあるため、汚水が処理されないまま(あるいは軽度な処理のみで)川へ流れる。生活排水だから当然トイレの水も含まれる。こうした川の水が東京湾へと流れ込む。

東京都は下水処理能力を向上させているが、短時間に大量の雨が降ることが多くなり、処理能力を向上させても限界がある。前述の資料(「お台場海浜公園における水質・水温調査結果について」)でも「東京の(2017年)8月は、21日間連続で降雨が確認され、1977年以降、観測史上、連続降水日数歴代2位」と雨の多かったことが強調されている。

今後お台場の海では、7月27日にトライアスロン女子、31日に混合リレー、8月4、5日にオープンウォータースイミングが予定されている。それゆえ関係者は、大雨が降らないことを祈っているのであろう。

だが、オリンピック期間中だけ、海がきれいであればいいというわけではない。

地元には「東京湾を泳げる海に」という悲願があり、これまでも市民がさまざまな努力を続け、海をきれいにしようとしてきた。

東京都は、対症療法を重ねてお台場の海の水質改善を図ってきたわけだが、金の使い方としては疑問が残る。オリンピックへの投資は、その後のまちづくりに活かせるものでなくてはならない。

長期的な視点をもてば、オリンピックをきっかけとして、お台場の海をきれいにするために原因療法を実施することはできた。それこそがオリンピックのレガシーとなったはずである。

<変更>

タイトル:「トライアスロン会場、関係者が「水質悪化に予断を許さない」と雨を心配する理由」から「五輪会場・お台場の海、関係者が「水質悪化に予断を許さない」と雨を心配する理由」に変更しました。(2021年7月27日 10時50分)

概要:「トライアスロン会場は閉鎖性の強い水域で汚染物質がとどまりやすい。」から「五輪会場・お台場の海は閉鎖性の強い水域で汚染物質がとどまりやすい。」(2021年7月27日 10時50分)

本文1行目:「7月26日、トライアスロン男子が、お台場海浜公園で行われた。水質・水温ともに基準値内で競技は無事実施されたが、」から「五輪会場の一つとなっている東京・お台場海浜公園。7月26日には水質・水温ともに基準値内でトライアスロン男子競技が無事実施されたが」に変更しました。(2021年7月27日 10時50分)