「水道民営化」といわれるコンセッション。契約、モニタリング、水道のデジタル化に不透明感

(写真:アフロ)

契約とモニタニングに問題があると失敗する

 宮城県の水道コンセッション「みやぎ型運営方式」の契約企業が決まったが、市民のなかには情報の不透明さを懸念する声が根強く、県側に説明を求めている。

 どのあたりが不透明なのか。

 そもそも「水道民営化」といわれるが、「みやぎ型」は「コンセッション」。

著者作成
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 「コンセッション」というのは「しくみの大枠」の名称であって、具体的な内容は、自治体と企業(企業コンソーシアム)との契約で決まる(事業のどの部分を、誰が、どう行うか、どのような部分についてどちらが責任を負うかなど)。

 だから、きちんとした契約が行われているか、契約がきちんと遂行されているかが重要だ。企業は情報を公開し、自治体はモニタリングを行う。

 契約に不備があったり、企業の情報公開が十分ではなかったり、自治体にモニタリング能力がないと、業務内容が見えにくくなり、コンセッションは失敗し、自治体、市民が損失を負う。

 よくパリ、ベルリンなどが「水道民営化の失敗事例」として上げられるが、コンセッションの契約とモニタニングに問題があり、民営主導に大きく触れていった結果である。

 今回の宮城県の水道コンセッションの懸念点の1つとしてあげられているのが、まさに契約である。「実施契約書(案)」が県と企業グループの「競争的対話」によって以下の5つの点が変更された。

 1)知的財産権対象技術の取り扱い

 2)契約不適合条項に係る免責規定

 3)突発的かつ一時的な対象時の対策費用負担

 4)第三者への委託に係る事務作業の簡素化

 5)報告書提出期限の変更

 宮城県はこの変更についてHPで以下のように説明している。

「内閣府の『公共施設等運営権及び公共施設等運営事業に関するガイドライン』では、競争的対話方式の留意事項の1つに『応募者と提案内容の確認・交渉を行い、その結果に基づき要求水準等を作成(調整)すること』と記載されており、応募者との協議により実施契約書(案)を改訂することについても、競争的対話の位置づけから外れていないことを確認しております」

 宮城県は「問題なし」というが「競争的対話」の前例はどうだろうか。

 下水・工業用水コンセッションを実施している浜松市、須崎市、熊本県では 「競争的対話」によって、募集時に公表した「実施契約書(案)」の内容を改訂したケースはない。なぜなら「実施契約書(案)」が応募企業の意見で簡単に変更されるなら、募集の公平性に反するからである。

 また、宮城県「実施契約書(案)」が常識的なものであったなら、競争的対話を重ねるほど企業有利の契約になる可能性があるのではないかと考えられる。

 常識的でないものを提示し、「変更が当然」だとしたら、そもそも県の契約能力(契約書作成能力)に問題があったと考えられる。

 「実施契約書」にそって、20年先までの水道事業が決まることを考えれば、それくらい重く捉えていいものだ。

 なぜ軽々な契約変更が起きたのか、県は情報を開示し、慎重に議論すべきだろう。

知的財産権対象技術とは何を指すのか

 上記5つの契約変更のなかでも、1)知的財産権対象技術の取り扱いと、3)突発的かつ一時的な対象時の対策費用負担については、今後20年で大きな変化が予測される部分だ。

 宮城県は、みやぎ型を採用した場合、287億円のコスト削減が可能としているが、1)や3)は、それとは別の負担を県に負わせる可能性が高い。

 まず、1)知的財産権対象技術の取り扱いについて、県はHPで以下のように説明する。

「競争的対話を通じて、知的財産権の中には、一定期間利用料金の支払いを必要とするものがあり、このような場合は事業期間終了後に無償とすることは困難であることから、県が必要と認める場合に限り、運営権者が支払っている料金を上限として使用できる規定を追加したものです。 」

 契約終了後も企業に支払うことになる知的財産権とは何か、金額はどの程度になるのかを議論すべきだろう。

 コンセッションでは「性能発注」と言って、「結果を出してくれればやり方はまかせる」方式が採用されている。企業が採用した技術の知的財産権について明らかにすることができるのか、それについて県によるモニタリングは可能なのかも議論すべきだろう。

 とくに今後20年で水道事業におけるCPS/IoT活用が進むことを想定する必要がある。この点が、海外でコンセッションが活発になった1990年代とは大きく異なる部分である。

 この分野の進歩の速さから明言できないが、自動車の例を参考にしながら考えてみることにしよう。

 自動運転は、自動車のセンサーがさまざまな情報を収集し、AI・IT技術が分析し、駆動系を動かしている。

 <自動運転でのCPS/IoT活用>

 レベル2:人間が運転し、部分的に自動運転 →現在の日本

 レベル3:基本的に自動運転になり、緊急時のみ人間が対応→現在の米国

 レベル4:一定の場所で自動運転

 レベル5:すべての場所で自動運転

 日本は現在レベル2。米国は現在レベル3であり、2030年にレベル4、2040年にレベル5になるとされる。

 次に、これを水道事業におきかえてみると、以下のようになる。

 <水道事業におけるCPS/IoT活用>

 レベル2:人間が運転し、 部分的にCPS/IoT活用

 レベル3:基本的に自動運転し、緊急時のみ人間が対応

 レベル4:一定の場所で自動運転

 レベル5:すべての場所で自動運転

 もちろんこれは単純に浄水場が自動運転されるなどというだけでなく、需要予測、配水計画、浄水場間の生産能力の融通、リアルタイムでの水質、水量の把握、漏水の早期確認、更新すべき水道管の選定などが段階的に入ってくる。

 最終的には、経営管理分野までCPS/IoT活用が行うことになる。

 2040年に「みやぎ型」において、どこまでCPS/IoT活用が進んでいるかはわからない。ただ、知的財産権対象技術とは何を指し、所持者、開発者は誰で、責任は誰がもつか、契約終了後はどうなるかを考える必要がある。

 そして、CPS/IoT活用を行えば、利用者が何時にどれだけの水を使用し、どれだけの水を排水したかが、データとして蓄積される。企業は有用な情報を得ることになるわけだが、このことを宮城県はどう考えるのか。

 そして、CPS/IoTはブラックボックスの部分が多い。コンセッションのもう1つの重要な要素である、モニタリング体制に影響を与えるだろう。情報開示や説明責任はどのように行うのか。

 また「定義されたタスクしかできない」という特徴があり、管理者の知識や経験に基づいて判断することが求められる。この知見を有する人物は、契約期間中は企業の人物ということになるだろうが、契約満了後はどうなるのか。

 議論しておくべきことは多いだろう。

突発的かつ一時的な対象時の対策費用負担とは何か

 次に、3)突発的かつ一時的な対象時の対策費用負担については、県はHPで以下のように説明する。

「自然災害や水質・水量の変化、運営権者の責によらない事象や不可抗力については、県が応分の費用負担を行う適正なリスク分担により、運営権者提案額の低下(利用料金の上昇抑制)に繋がり、また、上下水道事業の安定性を確保する上でも重要と考えています。」

 契約では「自然災害や水質・水量の変化、運営権者の責によらない事象」の対策費は県側の負担としている。突発的かつ一時的な対象時の対策費用の負担の例として、県は「夏場に原水のカビ臭が強くなることがあり、対策として薬品(粉末活性炭)の投入費用」をあげているが、自然災害対策費は大きい。

 令和元年台風19号および10月25日低気圧による宮城県の水インフラ被害は以下のとおりだ(出典「台風19号及び10月25日低気圧による災害に係る被害状況及び県の対応について」)。

 水道施設(16市町村17事業体) 4億6777万5000円

 下水道 (15市町村21か所) 16億5900万円

 広域水道(7市町村15か所)   3億2982万2000円

 工業用水道            (被害なし)

 下水道(4市町村5か所)     1億7610万円

 合計               26億3269万7000円

 気候危機に伴い、こうした災害は頻発すると予測されており、県の負担は大きくなるだろう。仮に契約期間中の20年間で、同規模の災害が5年に1回発生したとしたら、約105億円の損失となる。

 また、CPS/IoT活用にともなうシステムトラブルやサイバーテロは「運営権者の責によらない事象」なのだろうか。

 今年2月、米フロリダ州オールズマーの水処理プラントの制御システムがハッキングされ、水処理プロセスで使用される水酸化ナトリウムの供給量が変更された。職員がすぐに発見し、事なきを得た。

 だが、 ウィスコンシン州自然資源局は、州の水道システムにサイバーセキュリティの強化を指令。ファイアウォールの設置や強力なパスワードの使用など、コンピューター制御システムを保護する措置に莫大な費用がかかった。

 このような場合はどちらが負担するのだろうか。

 繰り返しになるが、コンセッションの要諦は契約とモニタリングである。

 人口減少、気候危機、CPS/IoT化が同時に進むなか、2040年の健全な水道経営を十分に考えたうえで、熟議が必要である。